黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

174話 アルバスト防衛戦(4)

 軍でも見かける事のない黒髪の少年。それにあの旗は……私も初めて見るが、あれが貴族の間で噂になっているアルノード子爵か。その隣には私もお世話になったオスティーン男爵もいる。


「ローデン様! お怪我はありませんか!?」


「メディ、ああ、私は大丈夫だ。それよりも」


「はい! あの黒髪の方はアルノード子爵です! 盗賊や魔獣狩りの異名を持つ貴族ですね。その隣にはオスティーン男爵も!」


 メディは援軍が来てくれた事に興奮して話しかけてくる。そろそろ来てくれる頃だとは思ってはいたが、まさかこのタイミングで来てくれるとは。命拾いした。


 子爵たちは、攻めて来たゲルテリウス軍と私たちを割るように間に入ってくれた。後は子爵たちに任せよう。


 ◇◇◇


「グリムド! このままゲルテリウス軍へと攻撃する! 怯んでいる今がチャンスだ。ただ、深追いはするな。怯ませるだけで十分だ。オスティーン男爵もよろしくお願いします!」


「わかりました!」


「心得た!」


 ゲルテリウス軍に攻められているアルバスト兵たちを見つけた俺たちは、彼らを救うためにゲルテリウス軍へと突っ込む。アルバスト兵たちが立て直すまで時間を稼がなければ。


 俺はブランカの背に跨りレイディアントを抜く。さすがに馬の上で双剣は難しい。左手で手綱を握り右手にレイディアントを持ち、ブランカを走らせる。


 俺についてくる兵士は国王陛下より賜った王国軍だ。この軍の隊長をオスティーン男爵にしてもらい、俺を副隊長としている。その王国軍の内の500を引き連れてゲルテリウス軍へと攻める。


 ゲルテリウス軍は7千ほど。普通ならこんな数で攻撃する事は無いが、俺たちが現れた事で今は浮き足立っている。隙をついて逃げるだけ。それを行うには速さが重要だからな。この人数でも十分だ。


 ブランカを走らせながら右手に持つレイディアントを魔闘装で強化させる。馬上で剣を振るには、レイディアントとシュバルツは少しリーチが短い。


 そのためレイディアントの先端を魔力で伸ばして、馬上からでも攻撃出来るようにする。更にレイディアントの能力を発動し、剣全体に光属性を付与させる。当然魔力で伸ばした刃もだ。


「ブランカ、頼むぞ」


「ヒヒィン!」


 ブランカは「任せろ」といった風に鳴き声をあげて、速度を加速させる。ゲルテリウス軍に突っ込み、レイディアントを振る。


 ゲルテリウス兵を切り、アルバスト兵たちと分断させる。その時、奥で大声を上げているゲルテリウス兵を見つけた。もしかして敵の隊長格か。


 ゲルテリウス兵の突いてきた槍を避けて掴み、引っ張る。バランスを崩したところにレイディアントで切る。


 その間もブランカを走らせる。後ろの兵士たちも普通について来てくれる。ゲルテリウス兵を倒しながら、叫んでいる隊長格まで突っ切る。俺たちに気が付いたゲルテリウス兵たちは、阻むように槍を突き出してくるが、邪魔だ!


 レイディアントを横一閃に振る。強化したレイディアントを普通の槍では防ぐ事が出来ず、横に並んでいたゲルテリウス兵を切り落とした。


 そのまま隊長格へと切りかかる。隊長格の男はギリギリ俺の剣を防ぐが、遅い!


 左手に持つ手綱を離し、右腰に挿してあるシュバルツへと手をかける。そして魔力を流して魔闘装も付与する。


 そのまま下からシュバルツを切り上げる。レイディアントを必死に防ごうとしていた隊長格の男は、なすすべもなく上半身と下半身を両断する事が出来た。


 その頃にはおおよそのアルバスト兵たちは退却する事が出来たようだ。俺たちも下がろう。あまり長居しても囲まれるだけだしな。


 シュバルツを鞘に戻して、兵士たちに退却命令を出す。ゲルテリウス兵たちは逃さないように俺たちを囲もうとしてくるが、そこに矢が降ってくる。


 グリムドが率いるアルノード子爵軍だ。その中にはグレイブを隊長に置いた弓兵隊がある。人数は100人程度だが、兵士たちの中でも、弓矢が得意な奴らを集めているため、1人1人の弓の精度が高い。


 大剣を持ち暴れているオスティーン男爵の元へブランカを走らせる。


「オスティーン男爵!」


「ぬっ、もうそろそろか?」


「はい、退却します」


 オスティーン男爵も俺の言葉で退却命令を出す。その間にグリムドに指示を出し、兵士たちに準備をさせる。ここまでは全て予定通り。


 そしてアルバスト軍が退却の準備を終えて、グリムドに再び指示を出す。


「放てっ!」


 グリムドの号令に兵士たちは魔法を放つ。魔法は全て風魔法。風魔法を地面に放ち、無理矢理砂埃を起こさせた。これで視界が悪くなるだろう。そこに少しだが矢も放って牽制する。その場しのぎだが、奴らが来る頃には俺たちは離れているだろう。


「良し、オスティーン男爵、砦まで戻りましょう。少し強行ですが頑張れば夜には着くでしょう」


「そうだな。兵士たちには少し無理をさせてしまうが、敵の近くで野宿をするよりかは良いだろう。全軍、戻るぞ!」


 オスティーン男爵の号令で兵士たちは予定通り帰路に着く。砂埃が起こっている間に、ここを離れないとな。


 ただ、パトリシア王女の姿を見かけなかった。もしかしたら逸れているのかもしれないから何とも言えないが、もし捕まっていたら……いや、今そんな事を考えても仕方がない。生きていてさえいてくれたら。


 もし捕まっていたとしても、助けるだけだ。生きて再会する事が妻の願いだからな。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品