黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

164話 VSロックドラゴン(3)

 俺は纏・天を発動し、一気にロックドラゴンへと迫る。ロックドラゴンは怒りに任せて暴れ回っているが、そんなの関係無い。


「旋風流、風切!」


 俺はロックドラゴン目掛けて、属性付きの風切を放つ。いきなりだが、属性付与した風切を放つ事が出来た。これは今後も使えるだろう。


「うおっ!?」


 突然背後から迫る風切を、レイグは慌てて避ける。避けられた風切は、そのままロックドラゴンへと飛んで行くが、ロックドラゴンの鎧を軽く削るだけだ。殆どダメージは無い。


 まあ、それも予想の範囲内だ。俺はまずロックドラゴンの後ろ左足へと向かう。ロックドラゴンの剥製は、全身使おうと思ったが、止めた。まず、こんな巨大なもの、このままでは運べない。


 剥製するにも時間がかかってしまう。それなら剥製にするのは一部だけで良いだろう。顔だけでも十分な剥製になるだろうし、体内にある魔石も一緒に付ければ十分だろう。


 なので、悪いが邪魔な部分は落とさせてもらう。まずは切れる部分を作らないと。俺はシュバルツを持つ左手を限界まで逸らす。狙うは後ろ左足の付け根だ。


「旋風流奥義、死突!」


 俺の左手から放たれる神速の突きは、ロックドラゴンの鎧を貫き、ロックドラゴンの後ろ左足へと突き刺さった。


 突然の痛みに暴れ出すロックドラゴン。そのままいれば踏まれてしまっていたので、シュバルツを離して、ロックドラゴンから離れた。


 深く刺さっているシュバルツは、暴れるロックドラゴンから抜けずにそのままだ。


「何だよ、思いっきりやっても良いのかよ!」


 そんな俺を見て、レイグは笑いながらロックドラゴンへと向かって行く。そして右手にかなりの魔力を集めている。


 右手の拳に魔力を集めたまま、レイグはロックドラゴンの脇腹へと近付き、拳をコツンと当てる。見た目だけなら、何の力もない拳を当てただけだが、魔闘眼に映るのは、かなり圧縮されていた火属性の魔力が、ロックドラゴンの体内へ入ったところだ。


 そして


「グゥギャアアアアアア!???」


 ロックドラゴンは血反吐を吐きながら、地面を転がる。ロックドラゴンの体内で火の魔力が爆発したのだ。


 当然、体内はズタボロになり、ロックドラゴンには、想像を絶するような激痛が襲っているのだろう。しかし、外を傷付けず中だけを攻撃する方法か。かなり使えそうな技だな。俺も使えるかな?


 俺はそれを見ながらも、余りの痛みに大人しくなったロックドラゴンへと近づく。刺さったままのシュバルツを回収しなければ。


 俺はシュバルツを握り魔力を流す。そしてそのまま上へと切り上げる。ロックドラゴンの後ろ左足は、シュバルツが刺さっていた半ばから切られ、下半分が辛うじてくっ付いている状態だ。


 俺はそのまま、右手のレイディアントを振り下ろす。狙ったのは当然シュバルツを切り上げた際に出来た傷のところだ。そこに向かってレイディアントを振り下ろし、辛うじてくっ付いて部分を切り落とす。


 ロックドラゴンはもう痛みに叫ぶ余力もなく、身に纏っていた土の鎧も解けて、ボロボロと地面に落ちる。そのまま同じように前右足を切り落とす。


 ロックドラゴンは、最初のような動きは出来なくなったが、また、最後の1撃は残しているようで、口元に魔力が集まっている。


「面白え。命を懸けた一撃ってか? 受けてやる!」


 そして、何を思ったのか、ロックドラゴンが最後の一撃を放とうとしている事がわかったレイグは、ロックドラゴンの真正面に立ち出した。当然、レイグの奴隷たちから悲鳴が上がる。


 あいつ、真正面から、ロックドラゴンのブレスを受ける気か? 馬鹿なのか? そう思って見ていたら、レイグは俺の方を見て、明らかにおちょくったような表情を見せてくる。


「貴族様はビビって真正面にも立てねえよな? そこで尻尾巻いて隠れてな」


 ……ほぅ。そこまで言うなら受けてやろうじゃないか。俺はレイディアントを鞘に戻して、シュバルツだけを右手に持ち、レイグの隣に立つ。


 その姿を見たロナは、レイグの奴隷たちのように悲鳴を上げて、兵士たちは慌てる。グリムドだけは、はぁ、と溜息を吐く。俺の実力を信用してくれているんだよな? だから、そんな余裕なんだよな?


「来るぜ。ビビって逃げんなよ?」


 俺がグリムドたちを見ていると、レイグがそんな事を言ってくる。はっ、誰が逃げるかよ。俺はシュバルツを鞘には入れずに、右手に持ち、左下に下ろす。


 レイグは、左手を前に突き出し、右手を後ろに引いた。右手にはかなりの魔力が集まっている。その上、バチバチと音がする。


「グルルゥ……グルゥアアアアアア!!!」


 ロックドラゴンが、最後のブレスを放つ。地面をえぐり、俺たちへと向かってくるブレス。俺とレイグは迫るブレスから目を離さずに、迎え撃つ。


「はっはっは! 行くぜ! 雷龍砲!」


 レイグが右手に集めた雷を放つと、形を変えて、伝説上の生物、龍のような形へと変えて、ブレスへと迫る。俺も負けないように、魔力を溜めていたシュバルツを、下から一気に振り上げる。


「黒閃!」


 俺の放った黒い斬撃は、ブレスを切り裂き、ロックドラゴンの残っていた前左足を切り落とした。


 ロックドラゴンは、俺の攻撃をくらい、その場に崩れ落ちた。レイグの攻撃はロックドラゴンのブレスと相殺してしまったが。


 無言のまま、俺はレイグを見る。レイグもゆっくりと俺の方を向くので、目が合った瞬間、ニヤッと笑ってやった。すると、レイグの顔は真っ赤に変わる。はっはっは! 愉快愉快!


 テンションマックスのまま、みんなの元に戻る。みんな労ってくれるだろうと、思っていたが、戻って見て待っていたのは


「レディウス様……正座」


「え?」


 凍えるような視線で、俺を見てくるロナの姿があった。兵士たちは、俺たちから物凄く離れる。グリムドは、知らん振り。


「……ええっと、ロナ?」


「正座です」


「ロ……」


「正座」


「……はい」


 俺はロナと出会って初めて彼女に怒られてしまったのだった。怒りの理由は、しなくてもいい賭けをして、命の危険にあった事。まあ、最後のブレスの事だな。


 この事はヴィクトリアたちに報告するらしい。俺の懇願にも耳を傾けてくれなかったロナは、必ず言うだろう。


 俺はがっくりと肩を下ろしながら、兵士たちと帰る準備をするのだった。因みに、怒られている俺を見て笑っていたレイグは、奴隷たちに囲まれて、俺の数十倍は恐ろしい説教を受けていた。ザマァ見ろ!


「レディウス様、聞いているのですか!?」


「……すみません」


……ちくしょう

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