黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

158話 紹介

「それでは席におかけください、レディウス様」


 部屋に入ると、ケイマルさんに席を勧められたので座る。ロナは俺の背後に護衛のように立つ。向かいにはケイマルさんとマーナさんが座る。


 そして、みんなが座ると同時に扉がノックされ、従業員の女性がティーカップを乗せたお盆を持って部屋へと入って来た。従業員の女性が丁寧にティーカップを並べているのを見ていると


「それで、レディウス様はどのような御用でケストリア子爵領へ?」


「ああ、今度王都で国王陛下の誕生祭があるじゃ無いですか。その誕生祭の贈り物を、最近貴族の間で流行っているという、魔獣の剥製を贈ろうかと思いまして。それで、魔獣が多く生息する大平原の近くのケストリア子爵領へとやって来たのですよ」


「なるほど。確かに最近貴族の間では、魔獣の剥製が流行っていますね。冒険者ギルドの依頼にもなるべく傷付けずに魔獣を倒して、死体を持ってこい、というような依頼もあると聞きます」


 傷付けずに倒せか。まあ、せっかく剥製にするのだから、傷が多いのは駄目か。ある程度は剥製を作る際に目立たなくはしてくれるようだが、大き過ぎると隠せないそうだ。


 でも、強い魔獣相手に傷を多く作らずに倒せというのは無理という話だ。どこか一撃で決めるとか? うむ、中々難しいようだ。


 まあ、良いか。取り敢えずケイマルさんたちにお願いする事を話さなければ。


「なるほど。まあ、それはやってみないとわかりませんね。それでその関係でケイマルさんにお願いしたい事があるのですよ」


「ほうほう、それはなんでしょうかな?」


 さっきまで楽しそうに笑っていたケイマルさんだが、俺が話を始めると、商売人の鋭い目付きへと変わった。顔は笑っているけど目は鋭い。


「私たちの方でも食料などは当然用意したのですが、何があるかわからないので、少し余分に買いたいのですが、良いですか?」


「それはもちろんですとも。どれほど必要か言ってくだされば、明日までにはご用意致します」


 まあ、これは商会をやっているケイマルさんからしたら簡単な事か。これに関しては俺も直ぐに用意出来ると思っていた。だけど次に関してはどうだろうか。


「それともう1つあるのですが、魔山の奥まで案内出来る冒険者を知りませんか?」


「冒険者ですか……うむ、魔山を案内出来るほどとなれば、Bランク以上でしょうな。私が知っているのはAランクのパーティーで「金色の光」というパーティーなら大丈夫でしょうが……」


 うん? 何故か言い淀むケイマルさん。そのパーティーに何かあるのか?


「そのパーティーに何か問題があるのですか?」


「いえ、問題は無いのですが、向こうが受けてくれるかわからなくてですね」


 まあ、冒険者の中には貴族が嫌いという奴もいるだろう。ましてや、俺は神に問題があるからな。貴族になってからは余り表立っては言われなくなったが、貴族の中にも、普通に言ってくる奴はいるからな。


「取り敢えず会ってみたいと思うのですが、そのパーティーはどちらに?」


「確か、木漏れ日亭という宿屋に泊まっていたと思います。昨日私のお願いした依頼を終えて帰って来て、今日は休むと言っていましたので。このまま、ご案内しましょうか?」


「それはありがたいです。お願いしても良いですか?」


 俺の言葉に頷いてくれるケイマルさん。そしてそのまま立ち上がり部屋を出て行く。俺とロナも後について行き、少しして馬車がやってくる。ケイマルさんが乗り、その後に俺たちが続く。


「木漏れ日亭まで行ってくれ」


「了解しました」


 ケイマルさんが御者にお願いすると、御者は軽快に馬車を走らせる。馬車に乗っていたのは5分ほど。思ったより近かったようだ。


「ここが木漏れ日亭です。この中に「金色の光」のパーティーがいるはずです。それでは降りましょうか」


 ケイマルさんが先に馬車を降りる。俺たちも降りて、木漏れ日亭を見上げると、風鳴亭より少し大きいくらいか。店も綺麗だし、ここも良さそうな宿だな。まあ、メルさんのところから変えるつもりは無いが。


 ケイマルさんがそのまま扉に手を触れようとした時、扉の向こうで大きな音がなる。その後にガラスの割れる音が響き、男の怒鳴り声が聞こえてくる。何かあったのか?


 そう思った瞬間、扉の向こうから気配を感じたため、俺はロナのケイマルさんの腕を掴み、扉から離れさせる。そして次の瞬間、扉をぶち破り茶髪の男が飛んで来た。なんだ?


「ぐはぁっ! くそ! このクソ野郎! ベッキーを返しやがれ!」


 扉の向こうから飛んで来た男は、その扉の向こうに向かって大声で怒鳴り声を上げる。だけど、そんな怒鳴り声に帰って来たのは


「てめぇは面白え事を言うじゃねえか。ベッキーの方から誘って来たって言ってんだろ? なぁ、ベッキー?」


「ええ、そうよ、ゲビン。私が彼を一目惚れして誘ったのよ」


 金髪のツンツンヘアをして、ギラついた目付きをしており、口元は笑みを浮かべている男と、その男の左腕に抱き着く茶髪の女。その後ろには呆れた表情をする女性が4人。全員首に首輪を付けている事から奴隷なのだろう。


 このパーティーが「金色の光」か。なんだか一癖も二癖もありそうな連中だな。

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