黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

154話 初夜

「まあ、子爵が開く結婚パーティーにしては、頑張っている方かな?」


 ……入って来て早々そんな事を言ってくるウィリアム王子。開口早々それってなんだよ。でもまあ、王子が来たからには挨拶をせねば。俺は震えるヴィクトリアの手を握って、ヘレネーに目で合図をして王子の元へ向かう。


「よくぞ、いらしてくださいました。ウィリアム王子」


「私は来たくはなかったけどね。グラモアたちが行けって言うから仕方なく来たのさ」


 だったら来るんじゃねえよ、と叫びたいところだが、ヴィクトリアの知り合いとして、王子たちにも招待状は送ってある。それにそんな事を言えるわけもない。後ろでグラモアさんたちが申し訳なさそうにしているのが、唯一の救いか。


「……それじゃあ、好きにさせてもらうよ。父上はどこだい?」


「はい、どうぞごゆっくりなさって下さい。マリー、ウィリアム王子を陛下の下まで案内してくれ」


「わかりました。ウィリアム王子、こちらになります」


 うっ、そんなに睨まないでくれよマリー。ずっとヴィクトリアに酷い仕打ちをしていたところを見ていて。ウィリアム王子の事が嫌いなのは知っているが、他の侍女たちに相手させるわけにはいかないだろう。


 軽くマリーの殺気を浴びていると、隣からふぅ、と息を吐く声が聞こえて来る。


「大丈夫か、ヴィクトリア?」


 俺が頰を軽く触れながら尋ねると、ヴィクトリアは少しビクッとするが、微笑んでくれる。まだ少し表情が硬いが。


「……はい、大丈夫ですよ、レディウス。少し緊張しただけですから。それよりも大切な日なのですから楽しみましょう」


 無理に笑おうとしているのが丸わかりだが、今それを言っても仕方がない。後で俺の力で癒してあげるだけだ。俺がヴィクトリアの頭を軽く撫でて「無理するなよ?」と言うと、ようやくヴィクトリア本来の笑顔を見せてくれた。


 それから、特段問題もなくパーティーは進んでいった。貴族との挨拶も無事に終えて俺たちも仲良く食事をしていると


「なんだこれは。よくこんな不味いものを出せるね」


 と、怒鳴る声が聞こえて来る。俺はすぐに立ち上がり声のする方を見ると、侍女に向かって怒鳴っているウィリアム王子の姿があった。


 侍女は、元々この屋敷に勤めていた女性で、俺が出る頃はまだいなかった1人だ。そんな侍女が王子に向かって必死に頭を下げている。


 流石にこれ以上見ていられなくて、俺がその場に向かおうとした時、王子と侍女の間に入る2つの影。それは


「この馬鹿弟が、何問題起こしているのだ!」


「全く、恥ずかしいですよ、この馬鹿弟」


 第2王女であるメレアーナ王女と第3王女であるパトリシア王女だった。2人は腕を組んで侍女を庇うように立つ。


「なっ、あ、姉上たちもそうは思はないのですか! これなら、王宮の料理の方が……がっ!?」


 ウィリアム王子が王女2人にも続けて言おうとしたら、パトリシア王女が、王子の顔面めがけてグーパンチを放った。中々腰の入った一撃だったぞ。


「全く、本当に情けないですよ。あなたはこれからこの国を背負っていくと言うのに。あなたたち、この馬鹿を連れて行きなさい。第3王女として命じます」


「第2王女の私も命じよう。直ぐにこの馬鹿を王宮に連れて行くんだ」


 そして、あったという間に、会場から連れて行かれたウィリアム王子。俺もヴィクトリアもヘレネーも黙って見ているしかなかった。


 そんな俺たちに近づいて来るのは、申し訳なさそうな表情を浮かべる国王陛下だった。


「あの馬鹿息子が、大切なパーティーをめちゃくちゃにして申し訳ない。後日お詫びはさせてもらおう」


 陛下はそれだけ言って、会場から出て行ってしまった。陛下は何も悪くは無いのだが、責任を感じているのだろう。


 少し、雰囲気が悪くなってしまったが、そこからは滞る事なく無事にパーティーは進んで行き、俺たちの結婚式は幕を閉じた。


 夜は、今日のために頑張ってくれた侍女たちや兵士たちを労うための、食事会を開いて、みんなで楽しく食事をした。


 その後は、色々と準備をして俺は寝室に1人残らされている。2人はマリーやルシー、ヘレナに浴室に連れられて、現在入浴中だ。今日は大切な日だから入念にだとよ。


 何が大切な日だって? 決まっているだろ、初夜だよ、初夜。言わせんなよ、恥ずかしい。


 って事で、俺は1人で悶々としながら待っているわけだが、今日は色々とあったな。ずっと緊張しっぱなしだったけど、かなりヴィクトリアに助けられた。


 俺もヘレネーも貴族に関しては疎いからな。彼女がいなかったら、色々と困っていたところだ。もっと勉強しなきゃな。


 そんな事を考えていたら、コンコンと叩かれる扉。俺は緊張しながらも返事をすると、扉が開かれ入ってきたのは、白のネグリジェを着たヘレネーと、黄色のネグリジェを着たヴィクトリアだった。


 やばい、2人とも可愛すぎる。ヘレネーのモデル体型に、ヴィクトリアの武器である胸を強調するネグリジェ。2人はモジモジと恥ずかしそうにしながら、俺が座るベッドまでやって来る。


「2人一緒に来たのか?」


「ええ。私は経験済みだから、ヴィクトリアに愛してもらいなさい、って言ったら1人じゃ不安だからついて来て欲しいって、泣きつくものだから」


「な、泣きついてなんかいませんよ! 少し不安に思っただけですから!」


 突然2人で言い争いを始めるヘレネーとヴィクトリア。俺はそんな2人を見ながら、2人を抱きしめヘレネー、ヴィクトリアの順にキスをする。


「うむっ……もうレディウスったら」


「あむっ……ちゅっ……きゅ、急にどうしたのですか、レディウス?」


「いや、2人とも可愛いいなと思ってさ。これから、いろいろと2人には迷惑や心配をかける事もあると思うけど、こんな俺だけど、これからも支えて欲しい」


「ふふ、馬鹿ね、レディウスは。そんな事、当然じゃ無い」


「ええ。周りのみんながレディウスを敵だと言っても、私たちは最後までレディウスの側にいます。それが、レディウスが私たちを愛してくださる、恩返しになるのですから」


 俺はそんな嬉しい事を言ってくれる2人をベッドに押し倒して、3人で愛し合った。俺は何があろうと、この2人を守る。命に代えても。そう誓って。

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