黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

148話 事情

「さて、話してもらおうか。どうしてここで盗賊をしていたのか」


 俺は目の前に座る男、グレイブに尋ねる。隣には住民代表とかで隣に座るミレイナという女性。グレイブは当然盗賊団を率いていたリーダーだ。


 他のみんなには外で待っていてもらっている。ここにいるのは、俺と2人だけ。グリムドには兵士たちと一緒に、他の盗賊たちが下手な事をさせない様に見張っていてもらっている。


「わかりました。私たちは元々はブリタリス王国の住民でした。彼、グレイブと私はとある貴族の屋敷で兵士と侍女として働いていたのですが、子爵もご存知かとは思いますが、この前の戦争でブリタリス王国は敗戦してしまいました。
 私たちが支えていた貴族は、戦争があった地域の1つで、当然領地も戦火に見舞われてしまいました」


 昔の事を淡々と話すミレイナ。そういえば、戦争で俺が気を失っている間に、近隣の領地を抑えたとかロナが言っていたな。


「その結果、領主は殺されてしまい、そのままアルバストからの代官が土地を治めていたのですが、その代官は、税を以前の3倍、若い女を求めて来る様になり、私たち領民は生活が出来なくなるほどになってしまいました。後で聞いた話ですが、他の領地はそうなっている地域が多々あったそうです」


 うーん、俺もあまりあの領地について詳しい事は知らないんだよな。前にヴィクトリアがチラッと言っていたが、確か第3王女があの領地を治めているはずなのだが。


 ヴィクトリアはトルネスに嫁いだフローゼ様と変わらないぐらい良い人だと言っていたし。グリムドなら何か知っているかな?


「グリムド、来てくれ!」


 俺が入り口に向けて叫ぶと、直ぐにグリムドがやって来た。


「どうなさいましたか、レディウス様」


「ああ、申し訳ないが、この前の戦争で勝ち取った王領の事を教えて欲しいんだ。俺、戦争には参加していたが、終わった後の事を知らなくてさ」


「王領ですか。わかりました。王領は現在アルバスト王国第3王女パトリシア・アルバスト王女が王領の代官として派遣されております。
 ただ、パトリシア王女は、まだ動きは見せませんが、攻めて来るであろうブリタリス王国を監視しておかねばなりませんので、現在のブリタリス王国との国境付近から滅多に動く事はありません。
 そのため、1番領地が近いリストニック侯爵家が、パトリシア王女の代わりに殆どの領地を管理しております」


 ……なるほどな。全部が全部という訳ではないだろうが、リストニック侯爵の送った代官が税の額を上げているのだろう。


 それはリストニック侯爵の命令なのか、代官の独断なのかはわからないが。だけど、この事については俺たちはとやかく言えない。


 税は国に決められた額さえ治められたら、ある程度は自由にして良いからな。あまりに酷いと国が介入するが、今回の場所は色々と訳ありの領地だ。


「それであなたたちは、その領地からここまで?」


「はい。全員ではないですが、もうあの街では無理だと考えた者が20人ほど、戦争孤児を何人か拾って、後は周りの町や村で賛同してくれた者が集まってこの人数になりました」


「なぜ、この領地なんだ? 他にも領地はあっただろう?」


「それは、この領地の領主がいなくなったでしょう? その時丁度この領地の警備が緩くなったんです。そのため、私たちも入りやすくて」


 ……あの時か。それじゃあ、彼らは半年近くはここにいた訳だな。


 盗賊の数は兵士だった人たちが50人ほど。魔獣など相手をした戦闘経験のある農民が30人ほど。残りは戦闘経験も無い農民が100人ほどが、先ほど戦っていた盗賊たちらしい。


 その他にミレイナの様に非戦闘員が150人ほどと言う。全員では400人近くがこの拠点にいた様だ。ただ、非戦闘員はずっとここにいる訳でなく、山を下りて、麓の町で働いたりもしていたらしい。


「400人か。グリムド、アルノード子爵領の人口って」


「5千人程でしょうね」


 ふむ。そう言えばクリスチャンが弄りたい土地があると言っていたな。それにグレイブの弓の技量はかなりの物だ。正直に言うと仲間にしたい。


「グリムド、彼ら全員を受け入れる事は出来るか?」


「クリスチャンとも話をしなければなりませんが、大丈夫でしょう。彼を兵士に?」


「ああ、あの弓術は欲しい。魔法の外から放てる一撃。威力もかなりの物だ。それに殆ど素人ばかりの中でケントリー伯爵領の兵士を退ける程だ。ケントリー伯爵には話を通しておかないといけないけど」


 グリムドも俺の言葉に頷く。グリムドも戦力として欲しいのだろう。前科持ちなので、信用出来るまではある程度は縛りはあるが、無理な事はさせないつもりだ。


 後は彼らがそれを受け入れるだけだが。

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