黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

145話 依頼

「ここに来るのも久し振りだな」


 俺は馬車から見える景色にそう呟く。俺が初めて来た街で、そして裏切られた街。アルノード子爵領の隣にあるケントリー伯爵の街で『レクリウム』へとやって来た。


 ここに来た理由は、近隣領主であるケントリー伯爵に挨拶をするためだ。事前にクリスチャンが手紙を送っていてくれたようで、すぐに向かう事が出来た。


 付いて来ているのは、婚約者のヴィクトリアとヘレネー、護衛役にグリムドとロナに兵士が10人程度。クリスチャンが代理で残り、治安維持としてミネルバを残している。


 ちなみにロナはブランカの背に乗って、グリムドから色々と学んでいる。ブランカのやつ、久しぶりに会ったというのに俺の頭噛みやがったからな。今度お仕置きしてやらねば。


「レディウスはこの街に来た事があるのですか?」


「ん? ああ、昔な。ここの近くの森でヘレネーにも出会ったんだよ」


 俺がそう言うと、さすがにヴィクトリアも気が付いたのか、悲しそうな表情をする。ヴィクトリアにも俺の事は話してあるからな。森で起きた事も当然知っている。


 そして、俺の隣に座り、もう何年も光を見ていない左目を、ヴィクトリアは優しく撫でる。擽ったいじゃ無いか。


「そういえばヘレネーが助けなければ、レディウスの命は危なかったのですよね。間接的に、私がレディウスと出会えたのも、ヘレネーのおかげという事ですかね?」


「ふふん、私に物凄く感謝してくれても良いのよ?」


 ドヤ顔で胸を張るヘレネーに、笑顔のまま摑みかかるヴィクトリア。ヘレネーに出会う前では想像がつかないくらい、ヴィクトリアのヘレネーに対する態度は変わった。


 チームの時のティリシアやクララ相手にもここまで、自分をさらけ出す事はなかったからな。ヘレネーはそこまでさらけ出す事の出来る相手という事なのだろう。


 普通に走るにしては不自然に揺れる馬車の中で、俺は掴みあう2人を止めていると、馬車が止まる。どうやら、ケントリー伯爵の屋敷へと付いたようだ。


 少し髪などが乱れていたヴィクトリアとヘレネーは、パパッと神業のように素早く元に戻してしまった。すごいな。


 俺から順に馬車から降りると、屋敷の方から、40台ぐらいだろうか。茶髪の夫婦がやって来る。この方達がケントリー伯爵に夫人か。


「ここまでよくいらしたな、アルノード子爵よ。私の名前は、ディスバイア・ケントリー伯爵だ。親しいものはディスと呼ぶ。彼女は私の家内でミリシーアだよろしく頼む」


「はい。突然の申し出の中、このような時間を頂き有難うございます。私の名前はレディウス・アルノード。爵位は子爵。知っているかもしれませんが、私の婚約者でヴィクトリア・セプテンバームとヘレネー・ラグレスになります。よろしくお願いします」


 俺のケントリー伯爵は、互いに手を交わす。既に顔を知っているヴィクトリアとヘレネーと夫人は仲良く話しをしている。


 そういえば、前ケントリー伯爵が、ミストレアさんと知り合いだったんだっけ。その縁でヘレネーもケントリー伯爵たちとは知り合いだって言っていたな。


 それから俺たちは、屋敷に案内される。俺の両脇を固めるようにヴィクトリアとヘレネーが並び、背後を守るため、グリムドとロナが続く。


 そして、屋敷の応接室に案内されると、対面にケントリー夫妻が。向かい合うように俺とヴィクトリアとヘレネーが座る。グリムドとロナは後ろで立つ。


「まずは婚約おめでとうと言わせてもらおう。以前から知り合いであったヴィクトリア嬢とヘレネー嬢どちらも結婚する事になるとは。出来れば倅にヘレネー嬢と結婚して欲しかったが」


 そう言い苦笑いをするケントリー伯爵。残念だけど、ヘレネーは渡さないぞ。当然ヴィクトリアもだ。


 それから、俺たちは色々と情報交換をしながら話をしていると、聞き捨てならない話が、ケントリー伯爵の口から出て来た。


「そうだ。丁度元グレモンド男爵が出て行く数日後ぐらいから、盗賊の動きが活発になってな」


「盗賊……ですか?」


 俺はケントリー伯爵に尋ねるとケントリー伯爵は頷く。ケントリー伯爵から内容を聞いてみると、どうやらただの盗賊団では無いらしい。盗賊の中に物凄い弓の達人がいるとか。


 その達人のせいで、こちらの攻撃は当たらないのに、相手への攻撃は一方的に当たり、やられて行くという、かなり手強い相手らしい。ケントリー伯爵側の兵士も怪我人が多数いるらしい。


「こちらに貴族として来て、早々申し訳ないが、領地付近で暴れまくる盗賊を倒して欲しいのだ。数々の武勇を誇るアルノード子爵よ。頼まれてくれないだろうか?」


 そう言い、軽く頭を下げるケントリー伯爵。俺は二つ返事で受けた。理由は弓の達人に興味があるからな。さてと、弓の達人ってどんなやつなのだろうか。

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