黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

閑話 弟弟子の日常(4)

「かなりの人数だな」


「それは当然よ。トルネス王国にある全部の道場から呼ばれているのだから」


 俺とアルテナは、王宮の中にある訓練場へとやって来た。中には俺たちと年齢の変わらない男女が200人近く集められている。色々な流派が集まっているんだろうな。


 1つの道場で多くても5人ほどか。俺らの道場みたいに2人のところもあれば、多分来ていないところもあるのだろう。


 そんな中で待っていると、えらく豪華な服を着た男性と、その右手に握られている男の子が、壇上へと上がってくる。あの子がフロイスト王子かな?


「皆、よく集まってくれた。私の名前は、レグナントと言う。この国の王太子をしている。そして、私と手を繋いでいるこの子が、私の息子で、今回剣術を教えてもらう事になる、フロイストだ。よろしく頼む」


 あの人は王太子だったのか。そして手を握っている子が思った通りの王子だったな。


「皆も聞いているように、ここには烈炎流、旋風流、明水流の各流派の、12歳から16歳の門下生に来てもらっている。理由は、フロイストの剣術指南役兼護衛という事で来てもらってはいるが、正確には、フロイストと競い合える仲間となってくれる者を探している」


 レグナント王太子の突然の言葉に周りがざわつく。


「戸惑うのも当然だろう。剣術指南役兼護衛というのは未来の話で、まずはフロイストと一緒に修行をして貰い、その中でフロイストが合う流派が決まれば、その流派を重点的にする。選ばれなかった流派は、その時点で終わりというわけでは無く、そのまま護衛隊に入って貰いたい。フロイストの護衛は将来的には、100人規模の近衛隊を作ろうと思っている」


 まあ、まだ教えられる身である俺たちが、フロイスト王子に教えられるわけないわな。その後にレグナント王太子たちの横に並ぶように出て来たのは、各流派の上級の師範たちのようだ。


 烈炎流、旋風流は男性、明水流は女性のようだ。それからそれぞれの流派に俺たちも分かられた。人数は烈炎流が110人、旋風流が70人、明水流が20人。その中から各流派の5人ずつ選ぶらしい。烈炎流だけ物凄い倍率じゃないか。


「あちゃー、これは中々面倒な事になったわね」


「どうやって5人決めるんだろうな?」


 俺とアルテナが話をしていると、各流派毎に会場を分けられる。俺たちはこの王宮の騎士と烈炎流の師範の後ろについて行く。


 俺たちが案内されたのは、さっきの会場と変わらないほどの大きさの訓練場だった。そこで俺たちの方へと振り向く師範。茶髪のオールバックで、身長は170ほど。かなりの筋肉質で、腰に剣を差している。


「まずは自己紹介をしておこう。俺の名前はブレイズ。烈炎流の上級だ。よろしくな。それじゃあ早速やっていこうと思うが……最後の5人になるまで全員で戦え」


 ……絶対に面倒になっただろ、この人は。周りのみんなも戸惑う中、突然叫び声が聞こえて来た。そっちの方を見ると、ニヤつく男が、後ろから別の男へと切りかかっていた。そしてその男は、その隣にいる男へも切りかかった。


「この訓練場は保護結界が張られているから、死にはしないようになっている。外には回復魔法が使える魔法師が待機しているから遠慮はしなくても良いぞ」


 ブレイズさんのこの言葉を皮切りに、周りの参加者はそれぞれ剣を抜き、近くにいる参加者へと切りかかり始めた。


 俺にも切りかかってくる男が。だけど、突然の事に驚いてか、太刀筋も無い。ただ剣を振り回しているだけだ。こんな程度で慌てんなよ。


 俺は背にかけている大剣を抜き、切りかかってくる男の剣を弾く。別に切る必要は無いので、殴って気を失わせる。その隙を突こうと別の男が迫るが


「はぁあっ!」


 男に向かってアルテナが切りかかった。予想外だったのだろう。男は驚き防御が間に合わず、アルテナの剣をモロにくらってしまった。


「ふふん! これで貸し1つね!」


 胸を張ってドヤ顔をしてくるアルテナ。だけど、その後ろを襲いかかる影が。俺は気が付いたが、アルテナは気付いていない。


 俺はアルテナの横を通り過ぎ、アルテナへ切りかかろうとする男を蹴り飛ばす。魔闘脚した蹴りだ。男は何度も地面を跳ねて飛んで行った。


「これで、貸し無しな」


「ぐぬぬぅ……」


 アルテナは悔しそうな顔をするが、フン! と言って俺に背を向ける。そして


「私たちは5人の内の2人に入るわよ。こんなところで負けたら許さないから!」


 それだけ言うと、走り出してしまった。ったく、わかっているよそんな事は。俺も全身に纏を発動する。それにプラスして火魔法の身体強化も発動。


 俺は魔法を唱え終えると、まずは目の前で戦っている2人に向かって駆け出す。2人は鍔迫り合いをしていたが、そこに俺が来たので、驚いた顔をして見てくる。そんな暇はあるのかな?


「烈炎流、大火山!」


 上段から、2人に向かって一気に大剣を振り下ろす。俺が1番得意な技だ。2人は離れて避けようとするが、俺が思いっきり叩きつけた衝撃波で吹き飛ぶ。


 周りの奴らは俺は危険だと思ったのか、一斉に襲って来た。ちっ、面倒くさいな! 俺は切りかかってくるそれぞれの剣を避ける。


 頭を狙ったものはしゃがみ、突きを放って来たものは、兄貴ほど上手くは無いが、魔闘拳した腕で逸らす。避けた時のすれ違いざまに殴って気を失わせる。


 大剣で攻撃しても良いのだが、普通の剣に比べて加減が難しい。死なないと言っても、大怪我を負わせてしまうかもしれない。


 相手が盗賊やら悪党なら容赦しないのだが、同じ流派を学ぶ門下生だ。怪我させて剣士生命を終わらせたくは無い。


 ただ


「せいっ!」


 こいつには本気でやらないと厳しいかも。さっきから連続で攻撃してくる金髪の男。こいつの動きは他の奴らとは違う。しかもこの動き……


「ちっ、お前、旋風流も学んでいるな!」


 俺の発言に驚く男。どうやら当たりのようだ。兄貴との修行をしていなかったら気がつかなかったな。兄貴ほど混ざっては無いけど、足さばきだけは旋風流だったりしている。


 確かに動きは速いが、反応出来ない速さでは無い。兄貴や速度重視だったロナに比べたら、全然だ。それから俺と金髪の男が何度も打ち合っていると、


「そこまで!」


 ブレイズさんの声が響く。周りを見てみると、どうやらもう5人まで減っていたようだ。全く気がつかなかった……あっ、そういえばアルテナは!? 急いで辺りを見回すと、汗だくのアルテナが立っていた。どうやら残れたようだ。良かった。


 その後は、気を失った人たちは兵士たちに運ばれ、俺たちだけ移動する。移動した先には既に旋風流も明水流も集まっていた。まあ、当然か。


「フロイストにどの流派が合うかわからない。もしかしたら剣術自体が合わないかもしれない。だけど、君たちには後悔はさせないようにしよう。これからはフロイストを頼むぞ」


 こうして、俺たちはフロイスト王子と一緒に学ぶ事となった。貴族が6人、平民が9人の計15人のチームとして。



「黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く