黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

126話 予定の半分の終わり

「さぁ、もっと教えてくださいまし!」


「ちょっ、暑苦しいからそれ以上ひっつくな! ってかお前貴族の令嬢だろうが! もう少し慎みを持ちやがれ!」


「ふふっ、我が家の家訓には見つけた獲物は逃がすな、という家訓があるのです。そのためなら私は何にでもなりましょう!」


 ……すげぇ〜。なんて言うか、言葉に表す事が出来ないぐらいすげぇ。あのガウェインが押されすぎて若干諦めかけている。


「……私もあれくらい押して行けば……」


「ヴィクトリア?」


 その光景を見ながら、俺の隣でブツブツと呟くヴィクトリア。少しシャルンに似た雰囲気を放ち始めたので、声をかけると


「ひゃわぁっ! ななな、何でしょうか!」


 物凄くびっくりされた。ただ声をかけただけなのに。ヴィクトリアも自分の声に再び驚いて、今度は恥ずかしそうに顔を俯かせる。そして、誤魔化すように咳をする。


「コホンッ、そ、それで、魔剣の事なのですが」


「ん? アルフレッドがどこで手に入れたかってやつか? でも、それはアルフレッドが目を覚ましたらわかる事だろ?」


 ヴィクトリアは俺の言葉に頷くが、その後にだけど、と続ける。


「魔剣……魔武器全般に言える事なのですが、基本魔武器は魔道具より値段が高い物が多いのですよ。それに魔武器を作れる方が限られて来ます。アルバストだとダンゲンおじさん含めても5人に満たないでしょう」


 えっ? あの人そんなすごいの? 確かにこの黒剣もかなり使いやすくて、良い剣だけど。それにもう1本作ってくれているのに……お金足りるかな?


 俺が懐の心配をしている間に、ヴィクトリアは話を続ける。


「それにあの謎の能力が付いた魔武器を作ろうと思ったら、かなりの技術と、それなりの高価な材料が無ければ出来ません。なので、それ相応の武器を作ろうと思ったら、かなりの金額を出さなければなりません」


 確かにあれほどの剣を作ろうと思ったらかなりな金がかかるだろう。そう考えると、貴族の誰かになるのか?


 うぅむ。それじゃあ、やっぱりアルフレッドが目を覚ますまでわからないな。ある程度お金を持っている貴族で絞れるだろうけど、それでも多い。


「それか、どこかの商会が他の国から輸入しているかですね」


「うぅーん。輸入かぁ」


 商会と言っても色々な商会があるからな。やっぱりわからんな。アルフレッドが起きるのを待つしかない。下手すると、俺たちの帰る日まで目が覚めないかもな。昨日、親善戦で、今日入れても後7日で帰る日だから。


 それからは、俺たちは外が雨のため、離宮から出る事はせずに、各々が好きなようにして過ごした。俺も図書室に困って、領地経営の本を読んだりして、まったりと過ごした。


 たまに、ガウェインの叫び声が聞こえて来たが、特に気にする事なく本を読みふけっていた。


 夜ご飯の時は、ガウェインは何故か物凄くグッタリとしていたが。そのガウェインを甲斐甲斐しく世話をするシャルン。何かあったのだろうか? そんな風に考えてしまう。


 夜ご飯も食べ終え、食堂を出る頃には、ようやく雨も止んでいた。


「……軽く振るか」


 今日1日体を動かしていなかったから、少し気持ち悪い。取り敢えず部屋に取りに戻るか。しかし、この国にいるのも後6日か。前半は中々の日々を過ごせたからな。残り半分はどうなる事やら。俺はそんな事を考えながら部屋に黒剣を取りに戻るのだった。


 ◇◇◇


「こやつらが、闇ギルドのやつらか?」


「はい。その中でも、侵入や暗殺を専門に生業としている方たちです」


 私の目の前には、目元以外は黒い布で全てを隠した奴らが立っている。全員で5人だ。男か女かもわからないが、それでも、ケインズが選んで来た奴らだ。役には立つのだろう。


「作戦はいつ決行するのだ?」


「明日には始めようと思っています。王宮の兵士数人には金などを渡して、アルフレッド氏の居場所や侵入、退却経路は確保しております。皆様が失敗さえしなければ成功するでしょう」


「……我々を甘く見ないで貰いたい」


 闇ギルドの奴らの1人がそれだけ言って、再び黙り込む。


「ふん、お前たちやお前たちが侵入するために王宮の兵士どもを金で買収するのにかなりの額を使った。失敗は許されぬぞ」


「わかっていますよ。私たちも貰った金分は働かせて貰います」


 闇ギルドの奴らはそれだけ言って


「なっ!」


 目の前から消えおった!? 先ほどまでいたのに、まるで初めからいなかったかのように、気配が消えてしまった。


 だが、これなら奴らも成功するだろう。侵入しづらいだろうと、金に糸目はつけずにお膳立てをしたのだ。


 それに、ケインズが言うには万が一捕まっても、奴らは喋らないように鍛えているらしい。くく、これで私の下までたどり着けないだろう。


「ケインズ、ミネルバを呼べ。今日も可愛がってやる」


 さて、未だに私に屈服しない女でもいたぶろうか。

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