黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

108話 自己紹介と代わりに謝罪

「さあ、座って」


 俺はフローゼ様に促されるまま、空いていたヴィクトリアの隣の席に座る。


「それじゃあ、みんな揃ったし話を始めましょうか。昨日のパーティーで紹介したけど、もう一度しておくわね。私の名前はフローゼ・トルネス。この国の王太子、レグナント・トルネスの妻よ。よろしくねアルノード男爵」


「はい、よろしくお願いいたします、フローゼ王太子妃様」


「ふふ、そこまで堅くならなくて良いわよ。それでこの子がフロイスト。今年5歳になったわ」


「フロイスト・トルネスです! よろしくお願いします!」


 フロイスト王子は俺を見て元気に挨拶をしてくれる。子供らしさがあって可愛らしい。周りの侍女たちも微笑ましそうに見ている。


「それで、昨日からお世話になっているこの子がベアトリーチェ・トルネス。今年3歳だわ」


「よろちく」


 ベアトリーチェ様はぺこりと軽く頭を下げる。俺も微笑みながら頭を下げると、プイッとそっぽを向いてしまった。残念。


「それから、こっちの子が……」


「はいはい! 私の名前はシルフィオーネ・トルネスです! フロ君やベアちゃんのはとこになります! 年齢は7歳です! 婚約者はまだいません!」


 と、元気に挨拶をしてくれるシルフィオーネ様。別に婚約者の事は聞いていないのだけど。フローゼ様も苦笑いしている。


「シルは、トルネス陛下の弟のマグラード公爵の孫なのよ。今は会議で来ているから、手の空いている私が預かっているのよ」


 なるほど。


「それで、フローゼお姉様。私とレディウスを呼んだ理由は何なのですか?」


 自己紹介が終わると、ヴィクトリアがフローゼ様に早速俺たちを呼んだ理由を尋ねた。


「ヴィクトリアを呼んだ理由は、お父様から婚約の話を聞いたからよ。アルノード男爵を呼んだ理由は、それに関わっているっていうのを聞いたのと、多分、アルノード男爵も気になっていると思うけど、この子があなたの事を気に入っている理由を話しておこうと思ってね」


 フローゼ様はそう言ってベアトリーチェ様の頭を撫でる。確かにそれは気になった。昨日初めて会ったばかりなのに、なぜこんなにも懐いてくれるのか。物凄く可愛いので、懐かれて悪い気はしないのだが気にはなる。


 まずはヴィクトリアの婚約の事について話す。ヴィクトリアもだいぶん吹っ切れたのか、婚約破棄までの事をフローゼ様に話す。


 フローゼ様はヴィクトリアの話を聞くに連れて表情が険しくなる。普通に怖いのだが。


「あんの、馬鹿弟が! こんな良い子をほって他の女に目移りするなんて! しかも、その女にも相手にされずにお父様に頼んで無理矢理だったなんて! 本当に馬鹿じゃないの!」


 おおぅ、その女は俺の姉だから何も言えない。それに周りの子供たちも驚いてますよ。ベアトリーチェ様なんて、目を見開いて固まっちゃっていますよ。


 その事に気が付いたフローゼ様はコホン、と咳をして怒る前のように微笑む。だけど、もう手遅れだと思う。


「ごめんなさいね、ヴィクトリア。馬鹿弟の代わりに謝るわ」


「い、いいえ、気にしないでください、フローゼお姉様。フローゼお姉様は悪くありません。ただ、私に魅力が無かっただけで……」


「何を言っているのよヴィクトリア。あなたは女性の私から見ても羨ましいほど綺麗なのに。その優しく包み込むような眼差し、愛らしい笑顔、とてもハリのある大きな胸、折れそうなほど細い腰、柔らかそうなお尻。私なんて……」


 フローゼ様は自分の胸を見て、ヴィクトリアの胸を見て物凄く落ち込む。俺は何も言えないから黙っておく。ここで何か言ったらとんでもない事になりそうだからな。


「そ、そんな、胸を見ないでください! 恥ずかしいじゃないですか!」


「ふん、見られるなんて大きい子の特権よね。そう思うでしょ、アルノード男爵!」


「え? え、ええ、まあ……」


 確かに目に行くからみんなが見るわけで、小さかったら見られないものな。声には出さないけど。


「でも、良かったわ。ヴィクトリアは元気そうで。あの馬鹿弟と婚約者じゃ無くなったけど、私は昨日言ったとおり!ヴィクトリアの事家族と思っているからね。メレアーナとパトリシアも同じように思っているはずよ」


「はい。ありがとうございます、フローゼお姉様」


 ヴィクトリアは目を潤ませながら、フローゼ様に礼を言う。しかし、本当に良い人だな、フローゼ様は。言っちゃあ悪いけど、ウィリアム王子とは、同じ姉弟なのか疑いたくなるほど性格が違うな。


 アルバスト陛下が、少し甘やかせ過ぎた、と言っていたけど、この人を見ていると、確かにそう思えてくる。この人はかなりしっかりしているものな。


「その上、新しい男まで見つけているなんてね」


「ふぇっ!?」


 そう思っていたら、フローゼ様は俺をチラッと見てからヴィクトリアにそんな事を言ってウインクする。ヴィクトリアはフローゼ様の突然な発言に狼狽える。何のことだろうか?


「ななな、何の事でしょうか!?」


「ふふ、可愛いわね、ヴィクトリア。まあ、良いわ。私が口出す事ではないしね」


 フローゼ様は扇で口元を隠しながらふふふ、と微笑む。ヴィクトリアは顔を真っ赤にして指をモジモジと弄る。


「大丈夫か、ヴィクトリア? 顔真っ赤だぞ?」


「ふぇん!? だだだ、大丈夫でしゅ!」


「ぷっ!」


 俺は顔が真っ赤になったヴィクトリアの顔を覗くと、ヴィクトリアは慌てて俺から離れる。その時に同時に返事をしようと噛んでしまった。それを聞いていたフローゼ様が吹き出してしまった。ヴィクトリアは再び顔を真っ赤に。可愛い。


「ふふ、それじゃあ、ヴィクトリアは後で弄るとして、次に行きましょうか。アルノード男爵も気になっているベアトリーチェの事について話しましょうか」

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