黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

101話 アルバスト王国一の

 王都を旅立って3日が経った。現在は昼が少し過ぎたぐらいの時間帯だ。もうこの時間帯で今日の旅は終わりだ。何故こんな早くに終わるかというと、


「ようこそいらっしゃいました、国王陛下よ」


「ああ。今日はよろしく頼むぞ、セプテンバーム公爵よ」


 そう、ここがセプテンバーム公爵家の領地、パラデンだからだ。この辺りの中心都市で、第二の王都と呼ばわれるほど。かなり栄えている。俺も、当然ながらここに来るのは初めてなので、周りを見回していると


「どうですか、私の故郷は?」


 隣でヴィクトリアがドヤ顔で胸を張っていた。その都度揺れる大きなお胸。眼福です。


「いや、凄いな。確かに第二の王都って呼ばれるだけあるよ。まだ入口あたりだけど、住む人の顔は笑顔で活気が溢れているし、物凄く過ごしやすそうだ」


 俺が正直な感想を述べると、ヴィクトリアは本当に嬉しそうに喜ぶ。それほどこの街が好きなんだな。


 それから、親善戦出場者が毎年止まる屋敷へと案内される。凄い事に学年毎に屋敷をがあって、屋敷の中でも男女に分かれている特別な屋敷らしい。


 食堂など共用の場所だけが一緒で、後寝室、お手洗い、お風呂などは一緒になる事はないらしい。


 この時期以外は、この街に泊まりに来た貴族などに貸しているという。確かにこれほど立派なら貴族でも使いたいだろう。下手すると男爵領の屋敷より立派だ。


 そして、屋敷には俺とガウェイン、ティリシアとクララが案内される。ヴィクトリアはさすがに本邸の方で休むみたいだ。まあ、滅多に帰って来られなかったみたいだから偶には息抜きして欲しい。


 部屋は当たり前のように1人一部屋になる。その部屋も、俺が今住んでいる家より広い。ただただ圧巻されるだけだ。ここまでくるとほぇ〜しか言えなくなる。


 俺は荷物を置いてベッドに寝転がり、これからの事を考える。今日はこれからは自由行動だ。街に出て遊びに行ってもいいし、屋敷に篭っていてもいい。屋敷には訓練場や図書室もあるみたいだからな。なんでも出来る。


 ただ、夜の門限までには戻ってくるように付き添いの先生から言われている。


 ガウェインは荷物を置いたら街へ女の子を探しに行くとか言って飛び出してしまったし、ティリシアとクララも、2人で買い物に出かけてしまった。他の学年の人たちには俺は避けられているから話した事は無いし。どうしたものか。


 そんな事を思いながらゴロゴロとしていたら、扉がコンコンと叩かれる音がする。誰か来たのだろうか? まあ、セプテンバーム公爵家の屋敷だから警戒する必要も無いから直ぐに開ける。すると


「あっ、レディウス、今大丈夫ですか?」


 扉の前にはヴィクトリアが立っていた。


「あれ? ヴィクトリアはここじゃなくて本邸の方で今日は休むんじゃなかったっけ?」


「はい。でも、その前にレディウスを連れて行きたいところがあるのです。今からどうですか?」


 俺を連れて行きたいところ? 一体どこだろうか? 場所はわからないが、特にすることも無く暇していたから行くか。


「ああ、特段する事は無いから構わないぞ」


「そうですか! では行きましょう!」


 俺がそう言うと、ヴィクトリアは嬉しそうに微笑む。そのまま歩き出すヴィクトリアの後を俺はついて行く。


 どうやら、目的の場所までは歩いて行くそうだ。それは良いのかと思ったが、どうやらこの街に帰って来たときは、歩いて回るようにしているらしい。その方が、住民とも話したり出来るからと言う。


 現に、ヴィクトリアが街の中を歩いていると、みんながヴィクトリアに話しかける。みんなが親しげにヴィクトリアに話しかけて、ヴィクトリアもそれぞれの人の名前を呼び返す。


 凄いな。それぞれの名前を覚えているのか。その事を尋ねると


「えっ? そんなの当たり前じゃ無いですか?」


 と、とんでも無い答えが帰って来た。さすがに当たり前では無いと思うが、それを言ったら何だか怒られそうだったので、黙っておく。俺も領地行ったら頑張ってみるか。


 そして、街中を歩く事30分。表の通りから少し外れたボロい工房のようなところへやって来た。どうやら、鍛冶屋兼武器屋のようだ。


「ダンゲンおじさんはいらっしゃいますか〜?」


 ヴィクトリアはその工房に入るなり、誰かを呼ぶ。しかし誰も反応しない。いないのだろうか? そう思ったら、ヴィクトリアは入口入って直ぐのところに置かれていた鉄板と棒を持って、叩き始めた。物凄くうるさい! 俺は思わず耳を塞いでしまった。すると


「なんじゃい、やかましいのお!」


 と、店の奥から、1人の年寄りが現れた。見た目は霞んだ茶髪をした60代の年寄りだ。その年寄りはヴィクトリアをみると


「おおっ! ヴィクトリアの嬢ちゃんじゃねえか。戻って来ていたのか!」


 と、嬉しそうにヴィクトリアに話しかける。さっきの人たちと同じだな。


「はい。今日1日だけですが、戻って来ました」


「そうかい、そうかい。それで今日は何のようだ? 嬢ちゃんの頼みはある程度は聞いてやるが、まさか前みたいにクソの奴の剣を打てって言うじゃねえだろうな?」


 ヴィクトリアとダンゲンという年寄りの話を聞いていたら、突然ダンゲンさんの雰囲気が変わった。歴戦の戦士でも震えるような殺気。俺も一瞬気圧された。クソの奴って一体誰だ?


「い、いいえ、今日は彼に剣を用意して欲しいのです」


 ヴィクトリアは声を震わしながらも、俺の方を向く。少し涙目だ。俺は直ぐにヴィクトリアの側に寄って、庇うように前に立つ。ダンゲンさんは遠慮無しに俺をジロリと睨み付けてくる。


「ほう〜、あの野郎に比べたら100万倍はマシじゃねえか。良い鍛えられ方をして、お前も努力を惜しんでねえな。うんうん、やっぱり俺の剣を持つ奴はこういう奴じゃねえと」


 そして、何か良かったのかわからないが、1人で納得してしまった。一体何なんだ?


「レディウス。紹介しますね。彼の名前はダンゲンさん。以前は王都で鍛冶屋を営んでいたのですが、ある事情で王都は出入り禁止になりまして、ここで店を上げている人です。今のレディウスみたいに物凄く人を選びますが、腕は一流で、王国一の武鍛治職人になります」


 そうして、ヴィクトリアから紹介されたのは、本当かどうかはわからないが、アルバスト王国一の武器職人と言われる年寄りだった。

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