黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

87話 お願い

「ききき、貴様! 何故ここにいる! 貴様にはまだ誰も送っていないはずだぞ!」


 俺はぎゃあぎゃあと喚くバルトを無視して、ロナとクルトを見る。クルトは血塗れで倒れている。近くには足を血で汚した男たちがいるから、あいつらにやられたのだろう。


 ロナは外見的にはどこも怪我などは無いようだが、涙を流している。ガリッ、と俺の奥歯が欠けるのがわかる。俺はそれほど歯をくいしばるほど怒りを覚えていた。


「バルト・グレモンド。お前は……殺す」


 ◇◇◇


 ロナたち救出前


「う……う、ぅん……」


「おい、目が覚めたか?」


 俺は落ち着かずに、ガラナの家を歩き回っていると、ガラナが声をかける声が聞こえる。目を覚ましたのか!? 俺はすぐにガラナの側に立つと、寝転んでいる女性ーーフランさんが目を覚ました。


「こ、こは? それに、ガラナさん?」


「おう、目を覚ましたか?」


 フランさんはガラナの言葉に頷き体を起こす。マリエナさんに事前に怪我はないかを診てもらっているので、彼女が気を失っていたのは、怪我によるものではなく、疲労によるものだ。


 予想だが、昨日の夜からロポは走り続けたのだろう。その上に乗っていたフランさんも当然疲労が溜まる。そのせいで気を失っていたのではと思う。


「……私は……そうだ! ガラナさん、大変なの! ロナとクルトが!」


「落ち着け、フラン。落ち着いて初めから話してみろ」


 フランさんは、ガラナの言葉に再び頷き、ポツリポツリと話し始める。フランさんはロナやクルトと一緒に指名依頼を受けていたらしく、2人と一緒に馬車に乗って依頼の村に向かったそうだ。これは、俺もロナから手紙をもらったので知っている。


 その村は入った瞬間から色々とおかしかったらしい。村の大きさの割には住んでいる人の数は少なく、いるのは男たちだけ。女や子供、老人すら1人も見かけなかったと言う。


 その事に不思議に思ったクルトが、村を調べる事にしたらしい。ほんの数時間ではあまり見つける事が出来なかったが、村の裏には掘り返されて埋めたような跡が残った地面があったと言う。恐らく村の人を埋めたのだろう。


 より、警戒心が高くなった3人は、依頼の原因の畑を監視する名目で夜まで隠れていたら、村人として残っていた男たちが武装してやってきたらしい。


 そこで、クルトたちの考えは予想から確定になり、交戦。奇襲を仕掛けて、戦いも有利に進めて、残りは村長を名乗る男たちを捕まえるだけだったところに、ローブを着た男が現れたとフランさんは言う。


 フランさんが最後に見たのは、蹴り飛ばされて気を失うクルトと、クルトを助けるためにローブの男に向かうロナの後ろ姿だったらしい。


 それが悔しかったの、辛かったのかはわからないが、フランさんは話している途中から涙を流し出す。


「わ、私、ロポの背に乗って逃げる事しか出来なくて、ぐすっ、ロナたちを助ける事が出来なくて……」


「ああ、わかったよ。ありがとな、話してくれて」


 フランさんは首を振る。この人は逃げた事を後悔しているが、俺はそんな風には思わない。この人が生きて帰ってきてくれたおかげで、早く事情がわかったのだから。感謝はすれど、怒ったりなどは絶対にしない。


 怒るとすれば、ロナたちを嵌めた奴らだ。話からして、依頼の時点で仕組まれていたのだろう。それに、フランさんが言うにはフランさん以外は生かして捕らえるように計画されていたと言う。


 それならロナたちは生きているだろう。殺す必要があるなら、その時点で殺しているからな。そして、2人を生かす理由があるとすれば


「俺が狙いか……」


 あの2人と関わりがあるとしたら俺しかいないだろう。身代金狙いなら貴族の子供を狙うだろうし。奴隷にするなら黒髪のせいで売れないロナは狙われる理由がない。唯一狙う理由があるとしたら、俺に恨みがある連中だな。


「ガラナ、俺行くわ」


「レディウス、当てはあるのか?」


「少し知り合いに力を借りるよ」


 俺はそのままガラナの家を後にする。日が昇って2時間ほどか。まだ学園には行ってないだろうが、急がないと入れ違いになる。俺は纏を発動して走り出す。急がないとな。


 ◇◇◇


「ふぅ、ギリギリ間に合ったな」


 俺は王都に入ってある屋敷の前へとやってきた。その屋敷というのは


「あら? レディウスでは無いですか? どうしたんですか?」


 ヴィクトリアの屋敷だ。俺は今セプテンバーム家の屋敷の前にやって来た。そこでちょうど、馬車に乗ろうとしているヴィクトリアに出会う事が出来た。ギリギリ間に合った。


「ヴィクトリア、セプテンバーム公爵はおられるか?」


「えっ? お父様ならいますが、お父様に何か用ですか?」


「ああ」


 ヴィクトリアは訝しげに俺を見てくるが、俺がこれ以上何も言わないと思ったのだろう。


「わかりました。付いて来て下さい」


 と言ってくれた。御者の人が学園はどうするのかと聞いてくるが、ヴィクトリアは遅れて行くと言う。すまないヴィクトリア。


 そして、ヴィクトリアに屋敷を案内されついたのは、一つの扉の前だった。


「ここはお父様の書斎です。いつも朝はここにいるはず」


 そして、ヴィクトリアが扉をノックすると、1人の男性が顔を覗かせる。たしか、ゲルムドさんだったか?


「おや、お嬢様どうされたので? それにそちらの方は……」


「ごめんなさいねゲルムドさん。レディウスがお父様に会いたいと言って」


「……うーむ、いくらお嬢様の頼みでも、旦那様にもスケジュールがあってな」


 そう言い、考え込むゲルムドさん。たしかにセプテンバーム公爵は忙しい身だろう。本来であれば俺なんかが会える人物では無い。だけど


「そこをなんとか出来ないかしら?」


「しかしですなぁ……」


「構わん、入れろ」


 ゲルムドさんに断られると思ったら、扉の向こうから声が聞こえる。その言葉を聞いて、ゲルムドさんは扉を開けてくれた。俺はヴィクトリアの後ろに続き中へ入る。


 中では、椅子につき机の上に乗せられた書類と格闘しているセプテンバーム公爵の姿があった。


「何の用だ小僧。見ての通り俺は忙しい。手短にな」


 セプテンバーム公爵は俺に見向きもせずにそう言い放つ。ヴィクトリアはその姿に何かを言おうとしたが、俺が止まる。そしてそのまま


「ちょっと、レディウス! 何をしているのです!?」
  
 ヴィクトリアは慌てたように声を出す。俺はヴィクトリアの声を気にせずに両手両膝をつき頭を下げる。土下座の姿勢だ。


「……一体なんの真似だ小僧?」


 さすがにヴィクトリアの驚いた声を上げれば、見ないわけにはいかなかったのだろう。セプテンバーム公爵から尋ねられる。俺はその姿勢のまま話し始める。


「セプテンバーム公爵。無礼を承知でお願いがあります! 公爵家の力を私に貸してください!」


 ロナたちを早く探し出すには俺1人では到底見つけられない。こういう時はいくら自分を磨いても意味がない事に悔しさが募る。だが、今はその悔しさで立ち止まっている暇は無い。


 そこで考えたのが、公爵家の力を借りる事だった。公爵家の情報網を一部でも借りる事が出来れば、ロナたちを見つけ出す手がかりが掴めるはず。


「とりあえず顔を上げて理由を説明してみろ。内容次第だ」


 俺はセプテンバーム公爵に言われた通り顔を上げてから、フランさんに聞いた話をする。俺の話を聞き終えたセプテンバーム公爵は


「それで、犯人を見つけるために公爵家の力を借りたいと?」


「はい。そういう事です」


 それから、少し考えて公爵は


「……よかろう。公爵家の力を貸してやる。しかし、借りるからには何かを返すべきだろう。お前は公爵家に対して何を返してくれるのだ?」


「私は……」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品