黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

78話 対抗戦(8)

「なっ!? フュ、フューリがやられただと! く、くそぅ! ランベルト! 直ぐに奴を倒せぇ! 今直ぐにぃ!」


 ようやく現実を見る事が出来たのか、ランバルクが俺を指差しながら喚き散らす。うるせぇ野郎だ。俺も剣を構え直し、ランバルクへと迫る。だが間に割り込むようにランベルトが入ってくる。


「兄者の下へは行かせん!」


「押し通る!」


 俺の剣とランベルトのハルバートがぶつかり合う。何十とぶつかり合うが、そこを狙うかのように、ランバルクは魔法を放って来た。こいつ、ランベルト毎狙って来たのか。


 俺が離れようとした時、俺とランベルトを覆うように透明な膜が張られる。これは


「2人の邪魔はさせません!」


 ヴィクトリアが光魔法で防いでくれたようだ。ランバルクは顔を怒りに染めて、残りの2人に指示を出す。アリッサとフォックスは指示通りヴィクトリアを狙いに行くが、その2人を止めるようにアリッサにはティリシアが、フォックスにはガウェインが向かう。


「お前は心配なのだろう」


 俺がヴィクトリアたちを気にしていたら、ランベルトがそんな事を言ってくる。


「お前は稀に見る強者だ。黒髪なのが惜しいぐらいにな。そんなお前からしたら、奴らみたいな弱者の事が心配なのだろう。その点、俺は奴らに対して何も思っていないからな」


 ランベルトは鼻で笑ってそう言ってくる。はぁ〜、なんて可哀想な思考をしているんだか。


「心配なんかしてねぇよ」


「なに?」


「俺はチームのみんなを信頼してんだよ。みんなはお前たちのチームにも劣らない才能を持っている。この試合も俺たちが勝つ!」


 ◇◇◇


「しっ!」


「うおっ!」


 あぶねぇ〜。フォックスの槍捌きは中々のもんだぜ。俺は辛うじて盾で逸らしているが、少しずつ擦り傷が増えて行く。


「ほらほら、どうしたどうした! 落ちこぼれ! 避けてばかりじゃあ勝てないぜ!」


 フォックスはニヤニヤとしながらも、俺を挑発してくる。全く、うざい野郎だ。もう、そんな事言われ慣れてるんだよ!


「うるせぇ!」


 俺は剣で切りかかるが、フォックスは槍で防ぐ。そのまま、石突きで足払いをしてくる。俺は跳んで避けるが、石突きで突きを放って来た。俺の腹にめり込み、俺は後ろに転がる。


「げほっ、げほっ!」


「いや〜、まさかあの黒髪がランベルトとあそこまでやりあうとは思ってもみなかったぜ。だけど、チームが弱かったら意味がないよなぁ! なぁ、落ちこぼれぇ!」


 ニヤニヤニヤニヤと本当にうるさいな。俺は腹を抑えながらも立つ。確かにレディウスに比べたら俺は弱い。家でも兄貴たちには勝てずに舐められている。だけどなぁ。


「俺もニヤニヤと笑われて黙ってねえよ!」


 俺はレディウスに教えてもらった纏を発動する。俺は生まれつき魔力が少ない。だから、使える技も限られてくる。どデカイのなんかを撃ったら、2発撃てたら良い方だろう。


 纏も覚えたの魔闘脚と盾に魔闘装が出来るようになっただけ。レディウスみたいにどれもこれもとは器用には出来なかった。だけど、


「負けねぇ!」


 俺はフォックス目掛けて駆け出す。フォックスは先程までの俺のスピードとは違う事に驚いているが、即座に対応する。


 俺はフォックスに向かって何度も剣を振り下ろす。魔闘脚が使えるのはほんの数分だ。切れるまでに決着をつけなければ。


「ちっ! 面倒だな! アースクエイク!」


 そこで、フォックスは石突きを地面にぶつけ魔法を発動する。発動は一瞬だったので、揺れはすぐに収まったが、その数秒の揺れのせいで、俺はバランスを崩してしまった。


「これで終わりだ!」


 フォックスは俺に槍を突きつけてくる。狙いは当然バッチだ。俺は迫る槍を剣で叩く。軌道を逸らされた槍は、そのまま俺の脇腹へと刺さった。


「ぐうっ!」


 口の中に熱いものがこみ上げてくるが、今は我慢だ。フォックスはすぐに槍を抜こうて引っ張るが、俺は右手に持つ剣を放り投げて、槍を掴む。フォックスの引っ張られる力について行く。それと同時に左手に持つ盾に魔力を流す。


「て、てめぇ!」


 俺はフォックスの槍を引っ張る力に乗って、フォックスの側まで寄る。そこで槍から手を離し、フォックスの襟元を掴む。慌てた様子のフォックスの顔がよく見えるぜ。


「歯食いしばりやがれ!」


 そして、俺は左手に持つ盾でフォックスの顔を思いっきり殴り飛ばす。フォックスの顔が歪むほどの一撃だったが、俺の脇腹を刺したんだ。これでおあいこにしてやる。


 ゴロゴロと転がったフォックスは、そこから動く気配がない。気を失ったか。近づくと、フォックスの顔は青紫に腫れて、鼻と口から止めどなく血が溢れる。歯も何本か折れている……回復魔法で歯って治るんだっけ?


 わからないが、取り敢えずバッチを取っておこう。俺はフォックスの胸に付けてあるバッチを取る。


「確かに俺はクリフィール・・・・・・家の落ちこぼれだ。だけどな。その事を甘んじて受けていられるほど、俺も出来た人間じゃねえんだわ。親父にも兄貴たちにも見返してやるんだからよ」


 ふぅ、でも今はもう魔力も無くて、治療も出来ない。少し寝かしてもらうぜ、レディウス。

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