黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

64話α 記憶喪失

「……ここは」


「目が覚めたか、エリシア!」


 私が天蓋を見ていると、横から慌てたような声が聞こえて来る。横にいたのは


「……ウィリアム様?」


「ああ、私だよ。良かった、突然倒れてビックリしたんだから!」


 ……私はどうして気を失ったのかしら? 確か服を買いに行って、そこで、グレモンド領で出会った黒髪の女の子に出会ったんだっけ。それから


「痛っ!」


 頭が痛い。あの女の子の後に誰かに会ったのは覚えているのに、誰に会ったかまでは思い出せない。思い出そうとすればするほど、頭痛が……


「うぅっ」


「大丈夫かい、エリシア! 誰か! 誰か来てくれ!」


「だ、大丈夫ですウィリアム様。少し落ち着いて来ましたから」


 少し考えるのを止めたら、頭痛も少しずつ引いていった。でも、どうして痛くなるのだろう。それからとても大切な事を忘れているような気もするし。何なんだろう一体……。


「エリシア様、大丈夫ですか!? あっ! 失礼いたしました!」


 私とウィリアム様が話していると、慌てて部屋に入って来たのはミアだった。私が倒れたって聞いて急いで来てくれたのね。


「なに、構わないよ。君はエリシアの専属の侍女だからね。気にしないで入って来てくれ」


「は、はい、失礼いたします。エリシア様、お加減はいかがですか?」


「ええ、大丈夫よミア。ごめんね、心配かけて」


 私がそう言うと、ミアは首を横に振る。


「でも、どうしたのですか? 突然倒れるなんて……」


「その事ならすぐに解決するだろう。犯人の黒髪の男はすでに捕らえてあるからな」


 黒髪の男……ぐぅっ、まただ。また頭痛がする。どうしてなの? 何かを思い出そうとすれば、頭痛がする。


「大丈夫ですか、エリシア様」


「やはり、医者に診てもらった方がいいのでは無いのか?」


 頭を抱える私を見て心配そうに見て来る2人。ふぅ、何とか落ち着いてきたけど……。


「エリシアはここで休んでいてくれ。私がその男に会ってくるから」


「……わかりました」


 ウィリアム様は私にそう言い微笑んでから部屋を出ていった。部屋にいるのは私とミアだけ。でも、私はその出会った黒髪の男が気になる。でも、どうすれば……


「エリシア様、お水をお持ちしました」


「ありがとう、ミア。それから少し頼まれてくれないかしら」


 ◇◇◇


「……って事です」


「そんな偶然があるんだね。ミストレア様が助けて弟子にした少年が、王子の婚約者になったエリシア様の腹違いの弟だったなんて」


 レイブン将軍は、自分が思っていた以上の案件だと気がついて、はぁ〜と溜息を吐く。少し同情します。


「でも、それを証明する事は出来るかい?」


「本人たちに確認してもらえればかと。いくら勘当にしたからと言っても、国から聞かれれば話さない事は出来ないでしょう。それにバルトが俺に兄だと名乗っているところをヴィクトリア様にも聞かれましたし」


「なるほどね。わかった。グレモンド男爵にも確認してみよう」


 そんな風に俺とレイブン将軍が話し合っていると、外から扉が叩かれる。俺は当然動けないのでそのまま座って、レイブン将軍が扉を開けると、そこにはレイブン将軍について来た兵士の1人が立っていた。


「レイブン様。お話中失礼します」


「何かあったかな?」


「先ほど王子の近衛兵がやって来まして、捕らえた黒髪の男と合わせて欲しいと」


 レイブン将軍は俺と兵士を交互に見比べる。あの王子が俺に何か用なのか?


「わかった。それじゃあ彼を連れて来てくれ」


 レイブン将軍は少し考えたが、特に問題は無いと考えたのか、兵士に俺を連れていくように指示を出す。俺は後ろから縛られている手の縄を兵士に掴まれ、無理やり立たされる。


 そして、腕を引っ張られ歩かされる。少し雑いぞこの人。縄が手に擦れて痛い。


 それからレイブン将軍の後をついていく事10分ほど。王宮の中にある一室に案内された。中に入ると、先ほどの王子が兵士を伴って座っていた。


 俺は、王子の前まで連れて来られると、その場で膝をついて膝を立てるように座らされる。


「ウィリアム王子。男を連れて来ました」


「ああ、ありがとうレイブン将軍。申し訳ないね。あなたのような方にお願いして」


「いえ。私もお願いした身です。お気になさらず。それよりこの男ですが」


「そうだね。それで何かわかったかい?」


「はい。彼はエリシア様と腹違いの兄弟のようです」


「へえ〜」


 そこで、ウィリアム王子はジロジロと俺を見てくる。


「それが本当だと言う証拠は?」


「それはグレモンド男爵に確認してもらうしか無いでしょうな」


 それを聞いたウィリアム王子は少し考えるそぶりを見せる。


「まあ、いいや。彼を犯罪奴隷で何処かに売ってくれ」


「なっ! 何故ですか!?」


 ウィリアム王子の発言にレイブン将軍は驚きの声を上げる。


「彼は確かにエリシアの姉弟なのかも知れない。だけど、姉弟でも、エリシアに危害を加えた事には変わりないはずだよ」


「それはまだ……」


「とにかく。彼は犯罪奴隷として……」


「待ってください!」


 レイブン将軍がいくら言おうとしても、ウィリアム王子の考えは変わらずに、ウィリアム王子が俺の処分について決めようとした時、扉が開かれた。そして入って来たのは


「ウィリアム様。少しお待ちいただけますか?」


 ミアに支えられるようにして立っている姉上だった。ミアは俺の顔を見て目をこれでもかと見開いて、次には目に涙を浮かべ始めた。


「エリシア。部屋で休んでと言ったはずだろ?」


「そうなのですが、ウィリアム王子にお伝えしていない事がありまして」


「伝えていない事?」


「はい。私が気を失ったのは彼に何かをされたわけではありません。ただ、体調が悪かっただけです。彼は偶々目の前にいただけです」


「それは彼が姉弟だから庇っているわけじゃないのかい?」


 ウィリアム王子が姉上に尋ねると、姉上は俺を見てくる。そして俺を見ると、頭を痛そうにして抱える。どうしたのだろうか? そう思っていたら


「ぐうっ……彼が姉弟ですか? 私にはバルトしか姉弟がいなかったはずですが……」


「エリシア様!?」


 と、姉上は言った。……俺の事を忘れているのか? 姉上を支えているミアも驚いたように声を上げる。ウィリアム王子もレイブン将軍もどういう事かと不思議そうな顔をしている。


「……これは、記憶喪失でしょうか?」


「わからないね。エリシアは彼を見るか思い浮かべると頭痛が起こるようだ。こればかりは医者に診てもらわなければ。まあ、それは後だ。レイブン将軍、彼を解放してくれ。何もしていないなら捕らえておく必要もない。さあ、戻ろうかエリシア」


「……はい……痛っ!」


 ウィリアム王子はそれだけ言って、エリシアと一緒に部屋を出て行ってしまった。ミアは一瞬振り返り、俺に頭を下げて出て行った。


「……取り敢えず、レディウス君。君を解放するよ。少し話をしよう」


「……はい」


 久しぶりに会ったのだが、何とも言えない出会いになってしまったな。

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