黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

63話 牢屋で

「ここに入っていろ!」


「ぐっ!」


 いってぇ〜な。牢屋に放り込みやがって。もう少し丁寧でもいいだろう。


「お前はこっちだ」


「きゃあ!」


 そして俺の隣の牢屋に、ロナが入れられる。あの野郎、ロナにまで手荒にしやがって。女の子だぞこの野郎! 俺とロナを放り込んだ後は兵士たちは出て行った。


「大丈夫かロナ?」


「は、はい、大丈夫です、レディウス様。ちょっとお尻をぶつけただけです」


 そう言ってお尻をさするロナ。ちょっ、お尻をこっちに向けなくていいから! 全く、女の子がそんな事しちゃあ駄目だぞ!


 俺はお尻を向けてくるロナを無視して、牢屋を見渡す。この牢屋は王宮の中にある近衛騎士団の騎士宿舎の地下にある牢屋になる。


 姉上が倒れた後、俺はウィリアム王子に殴り飛ばされ、王子たちに付いてきていた兵士たちに捕らえられた。ロナも俺と一緒にいたせいで巻き込んでしまった。


 それから王宮まで連れてこられて、ここに入れられたという訳だ。


 地下牢をぐるりと見渡すが、他の牢屋には余り人がいないな。まあ、いても困ると言えば困るのだが。そう思っていたが


「……うぅん、誰だい? 新しい仲間かい?」


 俺の左側にはロナがいたのだが、俺の右側に人が寝ていた。くわぁ〜と背伸びをしている男は金髪のオールバックで、何処か文官のような姿をしている。年齢は20歳手前ぐらいだろうか。すごく若く見える。


「ええっと、あなたは?」


「僕ですか? 僕の名前はクリスチャン・レブナレスと言います。アルバスト王国の元事務官でした」


 やっぱり王宮で働く文官だった。年齢を聞くと21歳だと言う。やっぱり若かった。でも、どうしてそんな人がこの牢屋に閉じ込められているんだ?


「いや〜、僕の上司の人が脱税や賄賂とか色々と悪い事をしていてね。それをその上の上司の人に話したら、なんとその人とも繋がっていてね。僕がその罪を被らされたんだ」


 家も官舎だったので、クビになれば住めなくなるとか、クリスチャンさんはそう言いながらアハハと笑っている。……笑い事では無いような。


「それで君たちは何故牢屋に?」


 俺たちはエリシア様(姉上という事は隠している)が倒れた時に目の前にいて、倒れた原因だと疑われているため連れて来られた、とクリスチャンさんに話す。


 まだ、街には未来の王妃についての発表はされていないらしいが、王宮内では広がっているそうだ。クリスチャンさんも知っていた。


「へぇ〜、そんな事があったのか。それなら僕と同じだね。冤罪仲間だ」


 そして再びアハハと笑うクリスチャンさん。そんな仲間は嫌だよ。


 それから、クリスチャンさんと色々と話していくと、この人は内政・外政問わずに出来るらしい。商人相手でも言い負かせることが出来るほどとか。


「だけど、上司に冤罪を押し付けられたからね。僕は運が良くてクビ、悪ければ奴隷落ちってとこかな」


「その割には落ち着いていますね」


「うん。僕の感なんだけど、なんか助かりそうな気がするんだ」


 いやいやいや、それは少し楽観視しすぎでは無いだろうか。でも、クリスチャンさんは信じている様子だ。まあ、本人が信じているなら余り言っても仕方がないか。


「それなら、もしここから出られたら、この王都から少し離れた場所に村があるんですよ。そこは俺の知り合いもいるので、俺の名前を出せば泊まれると思いますよ」


「おお、それはありがたい。ぜひ使わせてもらうよ」


 それから、ロナも入れて暇潰しにたわいのない話をしていた。


 この前戦争した『ブリタリス王国』は、急な増税で内乱になっている事。アルバスト王国の西側にある『トルネス王国』の事や、大草原の魔獣や、大草原の山に住む山民族の話など、色々と教えてくれたりと、中々面白い話が聞けた。


 そんな話をしていると


 ガチャ、ガチャ


 と、鎧の擦れる音が牢屋の中を鳴り響いていく。どうやら兵士がやって来たようだ。さすがに俺たちも黙り、兵士たちがやって来る入口の方を見る。そしてやって来たのは


「やあ、怪我はないかい、レディウス君」


「レイブン将軍。何故ここに?」


 現れたのはレイブン将軍だった。うしろには前にミストレアさんの家に来た時について来ていた人たちもいる。


「ウィリアム王子から黒髮の男が、エリシア様に危害を加えたから捕らえたと聞いてね。特徴を聞けば隻眼だと言うじゃないか。だから確認しに来たのさ」


 なるほど。確かに黒髮の隻眼と言えば、俺ぐらいしかいないか。それからレイブン将軍は護衛の2人に俺を牢屋から出すように命令する。


 だけど、まだ疑いが晴れていないため、腕は後ろで縛られて2人に挟まれるように立つ。


「君から話が聞きたいからね。少し来てもらうよ」


「わかりました」


「来い!」


 俺は、引っ張られてレイブン将軍の後ろについて行く。ロナが心配そうに俺を見て来るが、俺はちらりと振り返って微笑んでおく。ロナに心配をかけたくはないからね。


 それから、地下牢を出て、近衛騎士団の騎士宿舎の中を歩く。そして連れてこられたのは、狭い個室になる。


 中には机が1つに椅子が2つあるだけだ。レイブン将軍が奥側に座り、俺は扉側に座らされる。他の2人は外で待っておくそうだ。


 レイブン将軍は机の上に置かれた、魔道具らしき物のボタンを押す。すると、魔道具らしき物は光り出したではないか。


「これは光魔法のライトの代わりになる魔道具でね。夜とかでも持ち運びができるし、点けたり消したり出来るから結構便利なんだよね」


 へえ〜、そんな物があるのか。それは欲しいな。これがあったらわざわざ火を点けなくても良いので、火災の危険も無いだろうし。でも、魔道具だから高いんだろうなぁ。


「それじゃあ、今回の君が捕まった事について話を聞こうか。全て本当の事を話して欲しい」


 そう言って、真剣な表情になるレイブン将軍。まあ、嘘つく事は特に無いので全部話すか。どうせ俺が生きている事はバルト経由でグレモンド家にもバレるんだ。ここで話しても一緒だろう。


 俺は、今回の出来事について、全て話す事にした。

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