黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

57話 食堂での会話

「ぐすっ……はむあむ……ぐすっ……あむ……ごくっ」


「泣くか食べるかどっちかにしなよ」


「うるさい。クララには関係ない。ぐすっ……もぐもぐ……」


 美人な女性が机一杯に乗せられた料理を泣きながら食べるって、中々シュールだな。


 今俺たちは食堂にいる。同じ席に座っているのは俺とガウェイン。ティリシアさんと友達のクララさんだ。


 見た目は140センチほどの茶髪の小さい女の子なのだが、戦闘に関しては短剣を両手に持って、素早い動きで相手の急所を狙うという中々の技術を持っている。騎士というより暗殺者に近いかな。


 そんなクララさんと一緒に俺たちは食堂にやってきた。理由はティリシアさんを慰めるためだ。模擬戦が終わった後に、ティリシアさんは泣き出してしまったのだが、どうやら負けたら良くある事らしい。


 良くあるらしいのだが、もちろん今日入ったばかりの俺はそんな事は知らない。なのでどうしようかと1人でアワアワと戸惑っていたら、ティリシアさんの友達のクララさんが助けてくれたのだ。


 模擬戦が終わった後は丁度昼食の時間なので、そこでいっぱい食べさせたら泣き止むというので、ここまで連れてきたのだ。それを面白そうだとガウェインは付いてきた。


 それからティリシアさんは30分もの間、止まる事なく食べ続けている。泣きながら。しかし、こんな細い体にどれだけ入るのだろうか? 俺たちだと胸焼けがするほどの量を1人で食べている。凄えな。


「もぐもぐ……うっぐん……ご馳走様でした。美味しかった〜」


 俺と戦っていた時は鋭い目付きで俺を睨む様な顔をしていて、さっきまでは泣きながらご飯を食べていたのに、食べ終えると今度は可愛らしい笑顔を見せてくれる。思わずドキッとしてしまったぞ。


「お前には恥ずかしいところを見せてしまったな。どうも負けると悔しくてな。涙が止まらなくなるんだ」


 そう言い今度は照れた様に顔を赤く染める。クールな人かと思ったらコロコロと表情が変わる人だなぁ。でも睨まれているよりかは好感が持てる。


「いえ、別に構いませんよ。負けて悔しいのはわかりますから」


 俺も何百と悔しい思いをしてきた。ミストレアさんには全戦全敗だからな。俺がそんな事を考えながら言うと、今度はぷくっと頰を膨らませて俺を見てくる。今度はなんだ?


「さっきから思っていたのだが、なぜそんなに余所余所しいのだ。剣を交えた仲間だろう。普通に話してくれ」


 ああ、俺が敬語で話すのが嫌だったのか。まあ、本人がそう言っているから良いか。


「わかった。これで良いか、ティリシア」


「ああ!」


 俺が敬語を止めただけでティリシアは笑顔を向けてくれる。もう、初めの睨みつける様な表情は見られない。クララもそれなら自分も普通で良いと言ってくれたのでこのまま話す。


「しかし、お前本当に強いんだな? ティリシアがやられるなんて思ってもなかったぜ」


「ほんとよね。中途入学なんてどんなコネを使ったのかと思ったわ」


 ガウェインとクララがそんな事を言ってくる。コネって……。そんなものは全くない。別に隠す様な話ではないので、俺が学園に入る事になった経緯を話す。おっ、このオムライス美味い。


「お前あの戦争に出てたのかよ……」


「なるほど。それでケイネス将軍に認められたのか。私も一度会ったことあるが、中々の武人だった」


「その年で近衛に誘われるなんてすごいわね〜」


 反応は三者三様だ。ガウェインは知り合いから話を聞いていたのか、戦争について結構詳しかった。俺が1人で軍を止めたことも知っていた。さすがにその事については、みんな驚きを通り越して呆れに変わっていたが。あれは本当に運が良かっただけだ。


「そうか。それなら私とクララ、それにレディウスと後誰かを入れれば対抗戦も勝てるかもしれんな!」


 すると突然ティリシアがそんな事を話し出す。なんだ対抗戦って?


「対抗戦って何なんだ?」


「ああ、レディウスは知らねえな。毎年9月の初め頃から学年でチームを作って争う行事があるんだよ。それが対抗戦。メンバーは同学年なら誰でも良くて、補欠合わせて最大7人まで登録出来る。
 合同学科は1人飛び級したから199人。騎士学科は逆にレディウスが増えたから31人。合わせて230人だな。商業科は鍛えていないから参加はしないが、対抗戦の間の模擬店なんかを開いたりする」


 へぇ〜、それは面白そうだな。230人だから最低でも33チーム出来るのか。それに騎士学科や合同学科関係無くか。


「ただ、俺らの代は毎年あるチームが毎年勝ってるんだよ」


「あるチーム?」


「ああ、それはーー」


「ここにいたかティリシア!」


 毎年勝っているチームについてガウェインから聞こうとしていたところに、横からティリシアを呼ぶ声が聞こえる。


 みんな声のする方をみると、そこには紫色の髪をした男が立っていた。紫色の髪を後ろで一本でくくり、前髪をファサー、と右手で払う。後ろに付いていた女性たちはそれを見てキャアキャアと騒ぐ。何だこいつら?


「……ランバルク。何の用だ?」


 ランバルク……ああ、学年2位か! 騎士学科のランベルトの兄で、侯爵家の後継だったか。そんな奴がティリシアに何の用だろうか?


「今年こそ良い返事を貰いたくてね。対抗戦のチームに入って欲しい。魔女がいない今、学年1位のランベルト、僕、学年3位の君が入れば優勝は間違いない。どうだい?」


 そういう事か。まあ、優勝目指すならティリシアもチームに入れたいと思うのは当然だな。上位3人が入ればほぼ負け無しだろう。


「毎年言っているが、お前のチームには入らんと言っているだろうが」


 しかし、ティリシアはそれを断ってしまった。ティリシアの顔には、明らかに嫌悪感が浮かんでいる。そんなに嫌なのかな。


「それに私はここにいる者と組む事にしたからな」


 そう言って俺たちを見るティリシア。まあ、俺は構わないけど。クララも頷いている。ガウェインは、えっ、俺も? みたいな顔をしているが、この流れだとお前もだ。


「ふん、下世話な奴らばかり集めて。それに黒髪なんぞ入れて汚らわしい。綺麗なお前が汚れるぞ?」


「貴様と一緒になる方が断然汚れるわ」


 うわぁ〜、ティリシアさん、そんなはっきり言っちゃうんだ。ランバルクは額に青筋を浮かべている。めっちゃ怒っているぞ。


「そこまで言うなら、僕たちに勝つ自信があるのだろう? 賭けをしようじゃないか?」


「賭けだと?」


「ああ。お前たちが僕たちに勝てば何でもいう事を聞いてやる。僕たちが勝てばティリシア、お前は僕の奴隷になって貰う!」


 何言っているだこいつは? そんなもん約束する訳ないだろう。


「良いだろう。受けて立つ!」


 何でだよ!? 何で受けちゃうんだよ! 俺たちみんなティリシアの方を見るけど、ティリシアは自信満々に胸を張っている。どこからそんな自信が出るのか。それを聞いたランバルクはニヤリと笑みを浮かべている。


「くく、負けたお前が僕の前にひざまづくのが楽しみだ!」


 ランバルクはそう言って食堂を出て行ってしまった。


「ティリシア。そんな約束していいのか? もし負けたら……」


「ふん、勝てばいいだけの話だ。レディウスは負ける気でいるのか?」


「まさか? 俺は誰とやっても勝つ気でいるよ」


「ふふ、それでこそ私を倒した男だ。取り敢えずはこれから残りのメンバーを集めよう」


 ティリシアはワクワクしながらそんな事を言う。はあ。少し巻き込まれた感はあるが、まあ、乗りかかった船だ。ティリシアが奴隷になるのを黙って見ているわけにはいかないな。俺も頑張るとするか。

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