黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
53話 今後について
「……何だか慌ただしいな」
レイブン将軍に近衛騎士団への入団を勧められた翌日。俺は再び王宮にやって来た。
昨日、あの後はみんながいる廃村に戻り、王国から送られて来た食事をみんなで食べた。
夜にはガラナたちも戻って来ていて、収容所に連れて行かれたうちの数人はガラナと一緒に戻って来ていた。首輪も無事に取れていたな。
それから、みんなに俺が近衛騎士団に入る事を告げると、みんな祝福してくれたのは嬉しかったな。ロナやクルトは自分の事のように喜んでくれて。
みんなで俺の入団祝いや、ガラナたちの首輪が取れたお祝いなどして、誰も来ない廃村でどんちゃん騒ぎして昨日は終えた。
今日、王都に着くと、まだ昨日の祝勝祝いの余韻が街中に漂っていた。あちこちで寝ている人がいて、ゴミも散乱している。それを起きている人が片付けていき、寝ている男の人をど突いていた。
そんな光景をあちらこちらで見かけながら王宮に辿り着いたのだが、王宮の中も、街中とは違った雰囲気で慌ただしい。何かあったのだろうか。
俺は、昨日マグロスさんに貰った通行用のバッチを付けて王宮の中を進んで行く。目的地は昨日行ったレイブン将軍の部屋だ。明日も同じところに来るように言われたからな。
昨日に比べて、王宮の中は兵士や侍女たちとすれ違う事が多い。そんな兵士や侍女たちに頭を見られて、近づいてこようとして、胸元にあるバッチを見て離れて行く光景を見ながら、王宮を進んで行くと
「あっ!」
昨日の曲がり角のところに、昨日ぶつかった金髪のゆるふわの髪をした女性が、座り込んで何かを探していたのだ。
昨日と違うのは、翡翠色のドレスでは無くて、学園の制服を着ていた。そしてその周りには侍女が2人、同じ様に座り込んで何かを探していたのだ。
ただ、不思議なのが、周りの視線が少しおかしい事だ。確かに王宮の中の通路というここに座り込んでいるという事は変な事なのだが、何というか、周りの視線には憐れみや同情といった感情が混じっているように思える。
それに気が付いている、金髪の髪をポニーテールにした侍女が
「お嬢様。ここは私たちが探しておきますので、お嬢様は屋敷に……」
と、ここから離れるように伝える。もう1人の茶髪をボブカットにして、カチューシャを付けた侍女も頷いている。だけど
「いえ、私も探すわ。あれは亡くなったお婆様から頂いた大事な物だもの」
そう言って2人の侍女と同じ様に地面に視線を向けて探す女性。昨日は暗くてよく見えなかったけど、物凄く綺麗な女性だな。
ゆるふわな金髪の髪は腰まであって、タレ目がちな目は柔らかい印象を与え、制服を物凄く盛り上がる胸。折れそうなほど細い腰。すらっとした足。ヘレネーさんの様に鍛え上げた綺麗な体とはまた別の綺麗さがある。
どこかの令嬢なのだろう。かなりモテるんだろうな。そんな事を思いながら彼女たちを見ていたら、茶髪の侍女が俺に気が付き、近寄って来たのだ。
「あなた、さっきからジロジロとお嬢様見て何か用ですか? それにどうして黒髪のあなたが王宮に入れるのです!?」
「ちょっと、ルシー。そんな言い方ないでしょう。すみません。私の侍女が急に」
俺が侍女に責められていると、その後ろから金髪の女性がやってくる。いや、どちらかと言えばこの侍女の方が正しいと思うのだが。見ていたのには変わりないし。
「いえ、こちらこそ申し訳ございません。余りにも綺麗だったもので」
「そう。それでは失礼いたしますね」
……言われ慣れているのか、素っ気なく返された。少しショック。というか、俺の顔は覚えていない様だ。まあ、暗かったかし、泣いていたからあまり俺の顔を見ていないのだろう。それから彼女たちが探しているものと言えば
「あの〜」
「……まだ何か?」
再び話しかけると、少し機嫌の悪い声で振り返る金髪の女性。2人の侍女は苛立ちを隠そうともしないで俺を睨んでくる。2人の侍女も金髪の女性に比べたら劣るがかなりの美人だ。そんな2人に睨まれると、少し怖い。
だけど、ここで臆するわけにはいかない。俺は昨日拾ったイヤリングをポケットから取り出す。
「お探しの物ってもしかしてこれでしょうか?」
3人の女性は俺の手の中にあるイヤリングを食い入る様に見る。……3人とも俺の手の中にある物を見るために近づいているので、物凄くいい匂いがする。
「こ、これは!?」
そして、金髪の女性は俺の手を両手で掴んできた。
「こ、これをどこで見つけたのですか!? ど、どうしてあなたが持って!?」
余りの驚きに顔を近づけて問い質してくる女性。ちょっ!? ち、近いって!? 物凄くいい匂いがして、少し頭がクラクラしていると
「お嬢様。少し落ち着いてください。相手も困ってしまいます」
と金髪のポニーテールの侍女が女性に落ち着く様に言ってくれた。自分の行動に気が付いた金髪の女性は、顔を赤くして離れていった。少し残念。
「ご、ゴホン! そ、それで何故あなたがこれを持っているのでしょうか?」
「それは昨日ここで拾ったからです。覚えておりませんか? 昨日ここであなたとぶつかったのですが?」
「……あっ! あなたがあの時の男性だったのですね!? 昨日は済みませんでした。昨日は色々あったので、気が動転していて」
俺が聞いてみて、ようやく思い出した様だ。そして昨日の事を思い出しながら頭を下げられる。後ろの侍女の2人は困惑としながらも、一緒に頭を下げる。
「いや、大丈夫ですよ。全然気にしていませんから」
俺が頭を上げてくださいと言うと、頭を上げてくれた。物凄く申し訳なさそうな表情をしている。そこまで気にしなくて良いのに。
「見つけて頂き有難うございます。このイヤリングはお婆様の形見でして」
「そうだったのですか。それは良かったです。それでは俺は失礼しますね」
目的は果たしたから、そろそろ行かないと。俺は再び歩き出そうとすると
「ええっと、お名前を伺っても? お礼がしたいのですが」
金髪の女性がそんな事を言ってくる。いや、ただ落し物を拾っただけだからそんな事を気にしなくて良いと思うのだが。
「お礼は必要ありませんよ。正直に言うと落とした人は見つからないと思って兵士の方に渡すつもりでしたから」
俺は最後に頭を下げて王宮の中を進み始める。しかし、綺麗な人だったな。ヘレネーさんに勝るとも劣らない程だった。かなりモテるんだろうな。
そんな事を思いながらも、無事にレイブン将軍の部屋に辿り着いた。昨日た同じ様に部屋の前に待機する兵士の人に話しかけると、取り次ぎをしてくれる。そして許可が出たので中に入ると
「よく来たね」
中には、昨日と同じ様に奥にレイブン将軍が座っており、他にはブルックズ近衛騎士団長にマグロスさんがいる。ミストリーネさんはいない様だ。
俺はレイブン将軍に促されるまま席に座る。
「早速で悪いのだが、君には来週から学園に入ってもらうよ」
……はっ? 笑顔でそんな事を言ってくるレイブン将軍に、俺は言葉を発する事が出来なかった。そんな俺を見てレイブン将軍は笑いながら説明してくれた。
「君は戦闘能力に関しては他の騎士にも負けないだろうし、ある程度の教養はミストレア様から教えてもらっていると思う。
だけど、近衛として基本的な事は知らないと思うから学園で学んでもらうんだ。いきなり近衛騎士団に入って、直ぐに貴族の護衛を任されても何をすれば良いかわからないだろう?」
「学園ではいくつかの学科に分かれていて、その中にある騎士学科に入ってもらう事になる。騎士としての基本を学んでもらうんだ。そこには騎士の卵が沢山いるし、学園で貴族の子息や令嬢に見初められて、雇われる事もある」
レイブン将軍の説明に続いて、ブルックズ団長も説明してくれる。確かに近衛騎士団に入るって言っても何も知らないからな。それが学べるなら有難い。
「期間は来年の卒業までかな。今は6月で卒業が来年の3月だから9ヵ月間学園に入ってもらう事になる。本当は4年かけて学んで行くんだけど、さっきも言った通り戦闘に関しては文句無しだから、教養だけならその期間で覚えられるだろう。学園の方には私の方から手続きしておくから」
ニコニコしながらレイブン将軍はそんな事を言って来る。こうして、俺が学園に入る事は決まったのだった。
レイブン将軍に近衛騎士団への入団を勧められた翌日。俺は再び王宮にやって来た。
昨日、あの後はみんながいる廃村に戻り、王国から送られて来た食事をみんなで食べた。
夜にはガラナたちも戻って来ていて、収容所に連れて行かれたうちの数人はガラナと一緒に戻って来ていた。首輪も無事に取れていたな。
それから、みんなに俺が近衛騎士団に入る事を告げると、みんな祝福してくれたのは嬉しかったな。ロナやクルトは自分の事のように喜んでくれて。
みんなで俺の入団祝いや、ガラナたちの首輪が取れたお祝いなどして、誰も来ない廃村でどんちゃん騒ぎして昨日は終えた。
今日、王都に着くと、まだ昨日の祝勝祝いの余韻が街中に漂っていた。あちこちで寝ている人がいて、ゴミも散乱している。それを起きている人が片付けていき、寝ている男の人をど突いていた。
そんな光景をあちらこちらで見かけながら王宮に辿り着いたのだが、王宮の中も、街中とは違った雰囲気で慌ただしい。何かあったのだろうか。
俺は、昨日マグロスさんに貰った通行用のバッチを付けて王宮の中を進んで行く。目的地は昨日行ったレイブン将軍の部屋だ。明日も同じところに来るように言われたからな。
昨日に比べて、王宮の中は兵士や侍女たちとすれ違う事が多い。そんな兵士や侍女たちに頭を見られて、近づいてこようとして、胸元にあるバッチを見て離れて行く光景を見ながら、王宮を進んで行くと
「あっ!」
昨日の曲がり角のところに、昨日ぶつかった金髪のゆるふわの髪をした女性が、座り込んで何かを探していたのだ。
昨日と違うのは、翡翠色のドレスでは無くて、学園の制服を着ていた。そしてその周りには侍女が2人、同じ様に座り込んで何かを探していたのだ。
ただ、不思議なのが、周りの視線が少しおかしい事だ。確かに王宮の中の通路というここに座り込んでいるという事は変な事なのだが、何というか、周りの視線には憐れみや同情といった感情が混じっているように思える。
それに気が付いている、金髪の髪をポニーテールにした侍女が
「お嬢様。ここは私たちが探しておきますので、お嬢様は屋敷に……」
と、ここから離れるように伝える。もう1人の茶髪をボブカットにして、カチューシャを付けた侍女も頷いている。だけど
「いえ、私も探すわ。あれは亡くなったお婆様から頂いた大事な物だもの」
そう言って2人の侍女と同じ様に地面に視線を向けて探す女性。昨日は暗くてよく見えなかったけど、物凄く綺麗な女性だな。
ゆるふわな金髪の髪は腰まであって、タレ目がちな目は柔らかい印象を与え、制服を物凄く盛り上がる胸。折れそうなほど細い腰。すらっとした足。ヘレネーさんの様に鍛え上げた綺麗な体とはまた別の綺麗さがある。
どこかの令嬢なのだろう。かなりモテるんだろうな。そんな事を思いながら彼女たちを見ていたら、茶髪の侍女が俺に気が付き、近寄って来たのだ。
「あなた、さっきからジロジロとお嬢様見て何か用ですか? それにどうして黒髪のあなたが王宮に入れるのです!?」
「ちょっと、ルシー。そんな言い方ないでしょう。すみません。私の侍女が急に」
俺が侍女に責められていると、その後ろから金髪の女性がやってくる。いや、どちらかと言えばこの侍女の方が正しいと思うのだが。見ていたのには変わりないし。
「いえ、こちらこそ申し訳ございません。余りにも綺麗だったもので」
「そう。それでは失礼いたしますね」
……言われ慣れているのか、素っ気なく返された。少しショック。というか、俺の顔は覚えていない様だ。まあ、暗かったかし、泣いていたからあまり俺の顔を見ていないのだろう。それから彼女たちが探しているものと言えば
「あの〜」
「……まだ何か?」
再び話しかけると、少し機嫌の悪い声で振り返る金髪の女性。2人の侍女は苛立ちを隠そうともしないで俺を睨んでくる。2人の侍女も金髪の女性に比べたら劣るがかなりの美人だ。そんな2人に睨まれると、少し怖い。
だけど、ここで臆するわけにはいかない。俺は昨日拾ったイヤリングをポケットから取り出す。
「お探しの物ってもしかしてこれでしょうか?」
3人の女性は俺の手の中にあるイヤリングを食い入る様に見る。……3人とも俺の手の中にある物を見るために近づいているので、物凄くいい匂いがする。
「こ、これは!?」
そして、金髪の女性は俺の手を両手で掴んできた。
「こ、これをどこで見つけたのですか!? ど、どうしてあなたが持って!?」
余りの驚きに顔を近づけて問い質してくる女性。ちょっ!? ち、近いって!? 物凄くいい匂いがして、少し頭がクラクラしていると
「お嬢様。少し落ち着いてください。相手も困ってしまいます」
と金髪のポニーテールの侍女が女性に落ち着く様に言ってくれた。自分の行動に気が付いた金髪の女性は、顔を赤くして離れていった。少し残念。
「ご、ゴホン! そ、それで何故あなたがこれを持っているのでしょうか?」
「それは昨日ここで拾ったからです。覚えておりませんか? 昨日ここであなたとぶつかったのですが?」
「……あっ! あなたがあの時の男性だったのですね!? 昨日は済みませんでした。昨日は色々あったので、気が動転していて」
俺が聞いてみて、ようやく思い出した様だ。そして昨日の事を思い出しながら頭を下げられる。後ろの侍女の2人は困惑としながらも、一緒に頭を下げる。
「いや、大丈夫ですよ。全然気にしていませんから」
俺が頭を上げてくださいと言うと、頭を上げてくれた。物凄く申し訳なさそうな表情をしている。そこまで気にしなくて良いのに。
「見つけて頂き有難うございます。このイヤリングはお婆様の形見でして」
「そうだったのですか。それは良かったです。それでは俺は失礼しますね」
目的は果たしたから、そろそろ行かないと。俺は再び歩き出そうとすると
「ええっと、お名前を伺っても? お礼がしたいのですが」
金髪の女性がそんな事を言ってくる。いや、ただ落し物を拾っただけだからそんな事を気にしなくて良いと思うのだが。
「お礼は必要ありませんよ。正直に言うと落とした人は見つからないと思って兵士の方に渡すつもりでしたから」
俺は最後に頭を下げて王宮の中を進み始める。しかし、綺麗な人だったな。ヘレネーさんに勝るとも劣らない程だった。かなりモテるんだろうな。
そんな事を思いながらも、無事にレイブン将軍の部屋に辿り着いた。昨日た同じ様に部屋の前に待機する兵士の人に話しかけると、取り次ぎをしてくれる。そして許可が出たので中に入ると
「よく来たね」
中には、昨日と同じ様に奥にレイブン将軍が座っており、他にはブルックズ近衛騎士団長にマグロスさんがいる。ミストリーネさんはいない様だ。
俺はレイブン将軍に促されるまま席に座る。
「早速で悪いのだが、君には来週から学園に入ってもらうよ」
……はっ? 笑顔でそんな事を言ってくるレイブン将軍に、俺は言葉を発する事が出来なかった。そんな俺を見てレイブン将軍は笑いながら説明してくれた。
「君は戦闘能力に関しては他の騎士にも負けないだろうし、ある程度の教養はミストレア様から教えてもらっていると思う。
だけど、近衛として基本的な事は知らないと思うから学園で学んでもらうんだ。いきなり近衛騎士団に入って、直ぐに貴族の護衛を任されても何をすれば良いかわからないだろう?」
「学園ではいくつかの学科に分かれていて、その中にある騎士学科に入ってもらう事になる。騎士としての基本を学んでもらうんだ。そこには騎士の卵が沢山いるし、学園で貴族の子息や令嬢に見初められて、雇われる事もある」
レイブン将軍の説明に続いて、ブルックズ団長も説明してくれる。確かに近衛騎士団に入るって言っても何も知らないからな。それが学べるなら有難い。
「期間は来年の卒業までかな。今は6月で卒業が来年の3月だから9ヵ月間学園に入ってもらう事になる。本当は4年かけて学んで行くんだけど、さっきも言った通り戦闘に関しては文句無しだから、教養だけならその期間で覚えられるだろう。学園の方には私の方から手続きしておくから」
ニコニコしながらレイブン将軍はそんな事を言って来る。こうして、俺が学園に入る事は決まったのだった。
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