黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

43話 路地裏の争い

「おらぁっ! クソガキどもが! てめえらみたいなクズは、俺たちに取って来た物を渡して、くたばっていれば良いんだよ!」


「がはっ!」


「いやぁぁぁあ! クルト! セシル! や、止めて! 2人をこれ以上傷付けないで!」


 路地から聞こえたそんな声。覗いてみると、5人の屈強そうな男たちが、俺の1つ下ぐらいの年齢の子供たちを囲んで殴ったりしていた。


 女の子は腰ぐらいまである黒髪をしている。俺以外では初めて見たな。殴られている男の子2人は茶髪だ。3人の共通点といえば、ボロボロの格好をしているくらいだろう。


 大方こいつらは、女の子を盾にこの子供たちに盗みをやらせて、用済みになったから殺そうとしているってところかな。はぁ、やっぱり煌びやかな王都でもこういう影はあるものだな。


 まあ、見ていても仕方ない。このまま見ていても男の子たちが殺されるだけだ。俺は男たちのいる路地に入る。そして


「お前たち。何をしている」


 俺の声に振り返る男たち。捕まっていた女の子も俺の方を見る。ただ、男の子たちは動かない。気を失っているのか、それとも。


「けっ。誰か来たと思ったら黒髪のガキじゃねえか。焦って損したぜ」


「確かにな。おいガキ。有り金全部置いて行ったら見逃してやる」


「へへ、酒の足しに少しはなるだろうな」


 男たちはそれぞれ下卑た笑みを浮かべそんな事を言ってくる。女の子は助けに来たと思った相手が、自分と変わらない年の少年に落胆の表情を浮かべる。


 まあ、気にはしないが。そんな視線は慣れている。俺は男たちの声を無視して近づく。男たちは俺が気にする様子もなく近づいてくるのに苛立ちを見せる。


「おい、ガキっ! 俺たちの声が聞こえねぇのか! とっとと有り金おいて消えねえとぶっ殺すぞ!」


 男たちは懐からナイフを取り出し俺に刃を向けてくる。こいつら、俺の腰に提げてある剣が見えないのか? それとも剣を持っていようが、ガキなら勝てるとでも?


「ちっ、聞こえてねえのかよ。痛い目見なきゃわからねえようだ、なあ!」


 俺に1番近くにいた男が、右手で殴りかかってくる。俺はそれを左手で掴む。魔鎧だけで十分だな。そのまま男の腕を外側に捻りあげる。男は踏ん張ろうとするが、纏をした俺の力には勝てずに膝をつく。


「いでででででで! は、はなし、離してくれぇ!」


 男は余りの痛みに懇願するが、離す訳がない。こういう奴は大抵離した瞬間に殴りかかってくるものだ。だから俺はそのまま捻る。本来ならいかない方へ。そしてボキッと折れる感触。その瞬間


「ぎゃああああああ! う、うでがぁぁあ!」


 男は赤子のように地面をのたうち回りながら泣き叫ぶ。……うるさい。スラム街は兵士も来ないと聞いていたが、これだけの声を聴きつけたら来るかもしれないな。


 だから俺は黙らせるために、地面に転がる男の喉を踏む。男は喉を足で押さえられ苦しそうにもがくが、俺はそのまま足に力を入れる。そして喉を踏み潰す感触。男はそのまま動かなくなった。


 男たちは唖然とした表情で、動かなくなったかつての仲間と俺を見比べる。


「こ、殺しやがった……。こいつ……こいつぅ!!!」


 残り4人の内1人が激情して、ナイフを振りかざしてくる。そのナイフを俺は魔闘拳をした右腕で掴む。この程度のナイフでは、魔闘拳した俺の手は切れない。


 男は、ナイフが引いても押しても微動だにしない事に少しずつ焦ってくる。小声でくそっ、くそっ、と呟くが動かない。諦めて離せばいいものを。


 俺は左手の逆手で左腰に差している剣を抜く。そのまま男を右切り上げで切る。男はそのまま骸となって後ろに倒れた。


 俺が残りの3人を睨むと、3人がヒィィ! と情けない声を出す。俺が一歩進むと、男たちは三歩下がる。しかし、俺が止まらないとわかると、女の子を掴んでいた男が


「こ、交渉しよう! お前はこの子が欲しいんだろ? や、やるから見逃してくれ! た、頼む!」


 と言って女の子を前に突き出してくる。さっきまで右手に掴んでいたのに、俺に突き出す時は左手に変わっている。そして右手は腰の後ろ。……バレバレだろそれ。


 だけど、気付いていないフリをして近づく。さっきまで慌てていた男の表情が、下卑た笑みに変わっていく。俺が罠にかかったと思っているのだろう。そして、俺が後少しで女の子に触れる事が出来る距離で


「馬鹿め! かかったな!」


 男は女の子を俺に向かって突き飛ばし、ナイフを俺の顔目掛けて振り下ろしてくる。女の子は突然後ろから押し出された事に驚き、そのまま俺に飛び出してくる。


 俺は女の子を右手で優しく抱き止め、逆手持ちになっていた剣を、手の中で回転させる。いつも通りの持ち方になった剣を、ナイフを持つ男の右肩へと振り上げる。それだけで、男の右腕は肩から飛んでいった。


 男は飛んでいった腕を見るが、俺は何か言葉を発する前に喉を切る。左手で喉から溢れ出る血を止めるように押さえるが、血は止まらない。男はそのまま死んでいった。


 残り2人がこの場から逃げようとしたので、風切を放ち首を飛ばす。1人は首から上が飛んで死んだが、もう1人は途中で躓いたのか、体勢を崩したので、口から上を切り飛ばしてしまった。まだ狙いが甘かったな。


 こんな事はスラム街では日常茶飯事なのだろう。女の子は男たちが死んでいくのを見ても、泣き叫ぶ事はなかった。そして、全員が死んだのを確認すると、倒れている男の子たちの元へ駆け寄る。


 俺も男の子たちに近づいて確認すると、2人の内1人は息をしていて、辛うじて生きているような状態だ。もう1人はもう……。言うのは辛いが、辛うじて生きている男の子を助けるためだ。


「お嬢ちゃん。左側の子はもう亡くなっている。だから諦めるんだ。だけどもう1人の子はまだ息をしている。その子にこれを飲ませるんだ」


 俺は持っていたポーションを渡す。女の子は1人の男の子が死んでいる事に涙を流すが、もう1人の男の子がまだ助かる事を聞くと、直ぐにポーションを受け取って飲ませる。人の死にも慣れているんだろうな。


 そしてポーションを飲み終えた男の子は


「ゲホッ! ゲホッ! こ……こ、は?」


「クルト! 良かったぁ! 良かったよぉ! クルトまで死んだら私!」


 そのまま男の子を抱き締める女の子。男の子は呆然とした表情で女の子を見るが、助かって良かった。よし、俺はその間に殺した男たちの遺体を処理するか。


 ◇◇◇


「助けてくれてありがとうございます」


 女の子が俺に頭を下げる。男の子はベッドで横たわっている。今俺たちは宿屋にいる。宿屋の店主は、汚い格好をしている女の子たちを見て、嫌そうな顔をしていたが、俺が多めに払うと無視してくれた。


 名前を聞くと男の子の名前はクルト、女の子の名前はロナと言うらしい。元々は知らないもの同士だったが、あのスラム街を生き延びるためにはみんなで協力していたそうだ。だけど、子供だけで生きるのにはあの場所は厳しかった。


 日に日に減っていく仲間たち。それを側で見ていたクルトたちは、あの男たちの言葉に乗せられる。それから盗みなどをして男たちに渡していた。その見返りとして、腐りかけのパンなどを貰って過ごしていたと言う。


 そして、今日も同じ事をして男たちに渡したら、突然ロナが捕まり奴隷に売ると言ってきたらしい。その事に反対したクルトたちは殴られて俺が見た場面になる。


 男たちの死体はそのまま放置した。男の子の死体だけでも連れて来たかったが、街中を運ぶ訳にもいかずに他の死体と置いて来た。2人には申し訳ないと謝ったが二人も仕方ないと言ってくれた。


 なんでスラム街に置いて来たかと言うと、スラム街では死体がそのまま置かれている事がたまにあるらしい。そして気がついたら消えていると。2人が言うには誰かが片付けているというが。だから下手に持ち運ぶよりかはバレないと2人は言う。


 しかし、この2人を助けたのは良いが、これからどうしようかな。このまま放り出すのは助けた意味が無いし。


 この2人を、特に黒髪の少女、ロナを見ているとどうしても自分と重ねてしまう。一歩違えば俺もこうなっていたかもしれない。そして助けた事も。ミストレアさんたちに助けて貰った俺みたいに。


 さあ、どうしたものかな。取り敢えず2人に聞いて見るか。


「ロナとクルトだったかな。2人はこれからどうする?」


 俺が尋ねると、ロナは一瞬クルトを見て、俺の方に向き直る。そして


「私はお兄さんみたいに強くなりたいです! 私はさっきまで自分は弱いと思っていました。黒髪はダメなんだって。
 だけど、黒髪でも自分より大きな相手でも、簡単に倒してしまうお兄さんを見て違うんだと思いました! お兄さん、私を鍛えてくれませんか!? ……お兄さんに払うお金はありません。だから、代わりにこの体を差し出します! だから!」


 必死に懇願してくるロナ。ベッドではそんなロナを見て驚いているクルト。まさか鍛えてくれと言ってくるとは思わなかった。ますます俺と重なる。面白いな。ミストレアさんもこんな風に思っていたのだろうか。


「わかったよ。俺の教えられる事は教えるよ。君はどうする?」


「お、俺も強くなりたい! あんな風に舐められるのはもう沢山だ!」


 クルトも決意の満ちた目で俺を見てくる。よし、そうと決まれば、俺ももう迷わない。俺もまだ修行の身だが、2人と一緒に強くなっていこう。


「俺の名前はレディウスだ。よろしくなクルト、ロナ」


「ああ、よろしく頼む兄貴!」


「よろしくお願いします、レディウス様!」


 俺はこの2人を仲間として、弟子として、従者として一緒に過ごす事になった。

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