黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

35話 問答無用です

「思ってたより暇なんだな〜、馬車って」


「あはは。それはそうだよ。ただ乗っているだけだからね。レディウスは今まで馬車に乗った事は無いのかい?」


「ああ。10歳までは家を出られなかったし、その後はずっと師匠のところにいたからな。ここまで長いのは初めてだ」


 今俺は、御者をしているライルの隣に座っている。ライルと話をするためだ。王都に向けての旅も今日で2週間目になる。これでようやく半分進んだそうだ。


 初めて馬車に乗った時はレクリウムに行く時だったかな? あの時は見るもの全てが初めてだからかなり興奮したものだ。


「なになに? 何の話? 僕も混ぜてよ!」


 俺とライルが話していると、馬車の木窓を開けてアレスが話しかけてくる。


「馬車は暇だなって話だよ。それより、纏出来たのか?」


「ううっ、そ、それは、その〜」


「レディウスに見て欲しいって」


「ら、ライネ!」


 アレスが言い渋っていると、アレスの横からライネがそう言ってくる。この旅が始まってから俺はアレスに纏を教えている。


 まあ、纏と言っても魔力を体に均等に流せるようにするところからになるのだけれど。


「わかったよ。ライル、悪いけど後ろに戻るわ」


「ああ、頑張って」


 俺はライルに変な笑みを向けられながら馬車の中へ戻る。何なんだよ?


 因みに、ライルたちにはアレスが女だって事はバレている。ライルは気が付かなかったみたいだけど、ライネが気付いたみたいでアレスは問いただされて話してしまった。


 同性だとわかりやすいのかな。風鳴亭のメルさんも気付いていたっぽかったしな。


「ほれ、やってみろ」


「うん! いくよ!」


 アレスに魔鎧をさせると、うーん、少しずつ均等にはなっているんだが、他の箇所に比べて左腕に魔力が集まっている。これは切られたのが原因かな。


「アレス。体の殆どは均等に行き渡っているけど、左腕だけ、他の場所に比べて魔力が多いぞ」


「そ、そうなの!? うーん、自分の中じゃあ均等になっていると思っていたんだけど」


 うんうんと首を傾げながら試行錯誤するアレス。そんなアレスを見て笑っていると


「あんたたち、付き合ってるの?」


 とライネが聞いてきた。その言葉にアレスの顔は真っ赤になってしまう。


「どどど、どうしてそう思うのさ!?」


「え? だって、赤の他人にしては仲が良いし、アレスも私といるより嬉しそうだから」


「何言ってんだよ。ただ、パーティーを組んでいるだけだよ。それにアレスにはもっと良い人がいるって。な、アレス」


 アレスに申し訳ないから、ライネの誤解を解こうと話すと


「……そうだね……レディウスのバカ」


 アレスの表情が一転して不機嫌になってしまった。ほら、ライネが変な事を聞くから。


「いや、今のは明らかあんたが……まあ良いわ。それならあんた好きな人とかいるの?」


 と、今度は俺にそんな事を尋ねてくる。アレスも何故か食い入るように俺の方を見てくる。ど、どうしたんだよ。俺の好きな人か。


 その言葉で思い出されるのは青い髪をした女性。離れて1ヶ月以上になるけど、元気にしてるかなぁ?


「れ、レディウス?」


「あ、ああ悪い。いるよ、好きな人」


「……え」


「へぇ、誰なの?」


 えらく食いついてくるなライネは。こういう話好きなのかな。まあ、女性は恋愛話が好きって言うしな。それとは反対にアレスの元気が無くなってしまった。何なんだ一体?


「俺の剣の師匠の孫娘。今は修行のため別れているけど、修行が終わったら再会する約束しているんだ」


 ヘレネーさんも王級目指して頑張っているんだろうな。そんなヘレネーさんに負けないように俺も王都に着いたら頑張らないとな。


「ん? どうしたんだアレス? どこか痛むのか?」


 俺がヘレネーさんの事を話していると、アレスは俯いてしまった。お腹でも痛いのだろうか。


「な、何でもないさ! 僕はライルの方に行くからっ!」


 そう言ってライルの隣へ移動してしまった。何だよ。アレスが見て欲しいって言うから馬車に戻ったのに、そのアレスが馬車から出たら意味ないじゃないか。


「どうしたんだろうなアレスは?」


「あんた、本気でそれ言っているの?」


 俺がライネに聞いてみると、ライネに物凄く呆れられた。そして頷くと、はぁとため息を吐かれる。なんかそれイラっとするぞ。


「アレスも可哀想に。レディウスって鈍感って言われた事ない?」


「鈍感? いや、無いな」


 ライネはダメだこりゃ、と首を横に振る。全く意味がわからないな。そんな風に話しながらも馬車を進めて行くと


「レディウス。今日はあの村に泊まろうと思う。いいか?」


 と、ライルが御者台から尋ねてくる。俺も外を見ると、ケストリアに比べたら小さいが村が見える。特に問題は無いので頷く。


 そのまま馬車を進めて行き、村の入り口で身分証確認をされて村に入る。ここの人は兵士というより自警団みたいなものだな。人口は500人ってところかな。


「それじゃ、私は馬車の置けるところに行ってくるから、みんなには宿をお願いしていいかな?」


「ああ、構わないよ」


 いつも通りライルは馬車を置きに行き、俺とアレスとライネは宿を探す。3日ぶりのベッドだ。ここのところ地面か、馬車の中で野宿だったからな。


「さあ、行くか」


「そうね」


「……」


「グゥ!」


 俺たちも宿を探すために村の中を歩くのだが、まだアレスの機嫌が悪い。俺、なんかしたかなぁ。俺とアレスに挟まれているライネは、居心地悪そうにして俺を睨んでくるし。


 気まずい雰囲気の中、宿を探していると


「た、大変だぁ! 盗賊が、盗賊が攻めてきたぞ!」


 と入り口の方から男が叫びながら走ってくる。そして外から馬に乗った男が先頭に盗賊が入ってきた。全員で50人ほどか。結構な人数だな。


「てめぇら! 命が欲しければ金目の物を出せ! ヒャッハハ!」


「女もだ! 女も寄越せ!」


 盗賊たちはそう言いながら村人たちを切って行く。あいつら!


「アレス。今すぐライネを連れてライルのところへ行くんだ」


「れ、レディウスはどうするの!?」


「俺は奴らを止める。その内に安全な場所に避難するんだ。ロポもアレスたちについてあげてくれ」


「グゥ!」


 この小さな村だと避難する場所は少ないだろうが、側にロポがいれば安全だ。


「で、でも」


「行けっ!」


 俺は剣を抜き盗賊へ迫る。村の自警団程度では相手にならないか。俺は近くにいた盗賊から切る。


「来いよ、盗賊ども!」


 盗賊どもの注意を引きつけるために大声で叫ぶ。俺に気付いた盗賊の頭らしき男は俺の方を指差しながら殺せと叫ぶ。


 良し良し。いい感じで集まってきたな。俺は近くの盗賊から攻めていく。


「死ねや!」


「うるせえよ!」


 切りかかってくる盗賊の剣を逸らし脇腹を切る。体が半分ぐらい切れたな。その間にも次々と迫ってくる盗賊を切り伏せていく。


 剣を弾いて蹴り飛ばす。魔闘脚の蹴りだ。骨が折れるのがわかる。血反吐を吐きながら倒れる盗賊を無視して、斧で切りかかってくる男の攻撃を避け、首を切る。


 他の盗賊たちも俺が危険だと思ったのか囲うように攻めてくる。避けては切ってを繰り返す。


 気がつけば、俺の後ろに増えていく死体。20人は切ったか。流石に不味いと思ったのか盗賊の頭は退却を促す。


 このまま逃せば面倒だ。俺は盗賊の頭を追おうとしたその時、盗賊の頭の首が跳んだ。そして馬から落ちる体。


 他の盗賊たちは頭がやられた事に困惑としている中、入り口から白馬に乗った1人の騎士が入って来た。今のはあいつがやったのか。


 右肩には両翼の絵が描かれており、その騎士がつけるマントにはアルバスト王国の紋章が描かれていた。


「今すぐ投降しなさい。さもなくば我ら銀翼騎士団があなたたちの相手をしましょう」


 兜の中は女性なのか? 透き通るような綺麗な声だ。だけど、盗賊たちは顔を青くして武器を捨てる。頭がやられたのもあるのだろうけど、銀翼騎士団って言うのに反応している。


 そして、その後に同じ騎士服を来た人たちがやって来て、その騎士は他の人たちれ指示を出す。俺はどうしようか。そう考えていると


「あなたはまだ反抗の意思があるという事ですね」


 と、いつの間にか馬を降りて俺の側に来ていた騎士が俺に剣を向けてくる。この人とんでもない勘違いをしているぞ。


「い、いや、俺は」


「問答無用です」


 しかも人の話を聞かないし!

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