黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

25話 ケストリア支店

「はい、次!」


 街の門で待たされる事10分ほど。ようやく俺たちの番になった。ケイマルさんが馬車を進めて、自分の身分証を見せている。……俺のギルドカードって使えるのかな? 3年前から一度も使ってないから不安になってきた。


「これは、ケイマル様! お戻りになられましたか。先ほど子爵様がお探しでしたよ。なんでも戦闘奴隷が欲しいとかで」


「そうかね。それは悪い事をしたな。また開拓でもするのだろうか?」


「それはわかりませぬが……はい、大丈夫です。それで、そっちの小僧は?」


 うおっ、いきなり態度が変わった。まあ、俺の髪を見ながら言っているあたり、黒髪だからだろうけど。俺はドキドキしながらも自分のギルドカードを渡す。


 門兵は俺のギルドカードをジロジロと見る。ど、どこかおかしいところがあるのだろうか?


「なんだお前、このギルドカード、死亡扱いになっているぞ。本当にお前のか?」


 なんと、そういう扱いになっていたのか。まあ、確かに3年も顔を出さずに、受けた依頼も成功させずに帰ってこなかったらそうなるか。


「はい。これは私のです。3年前に瀕死の重傷を負ってから、動けるようになるまで時間がかかってしまって」


 俺は左目の傷跡を指差しながら言う。本当は1ヶ月で治ったのだが。まあ、あれは特別だな。


「なるほどな。まあ、黒髪だったら有り得るか。ただ、このカードは今は身分証として機能していないから、冒険者ギルドへ行って更新して来い。今は仮身分証だ」


 門兵はそう言い手のひらを俺に向ける。確か大銅貨1枚だったか。俺が大銅貨1枚を渡すと、代わりに木の札を渡される。今日の用事が1つ増えたな。


 そうして、通行の許可を貰ったので、ケイマルさんが馬に指示を出し動き出す。よくよく考えたら支店長が馬を操っているっていうのもおかしな話だよな。まあ、本人は喜々としてやっているから何も言えないけど。


 門をくぐり抜けると、どこの街も同じなのか、屋台が立ち並ぶ。どこかへ行く人、帰って来た人が食べれるようにかな。


 しかし、馬車はかなり目立つ。たぶん後ろに馬を10頭も連れているからだろう。後は俺の髪の毛を指差して何か言っている。


 しかし、昔ほど気にはならなくなった。全く気にしないミストレアさんやヘレネーさんと出会ったからかな? これが良い傾向なのか、悪い傾向なのかはわからないが。


 そうこうする内に、とある店の前で馬車は止まる。ここがガラブキス商会のケストリア支店らしい。でかいな。店は3階建ての地下付きで、1階は家具や野営用具などで、2階は生活用品等、3階は武器や防具で、地下が奴隷商らしい。


「では、レディウス殿。馬の査定が終わるまで中を見て行かれますか?」


「そうですね。必要品とか買いたいですし」


「それなら、私の権限でレディウス殿は割引させていただきましょう。助けて頂いたお礼です」


 おお、それは有難い。今はお金を持っているけど、いつ必要になるかわからないから、安くなるなら助かる。


 そして馬車が帰って来たのがわかったのか、中から従業員が出てくる。そしてその中で1人の女性がケイマルさんの方へとやって来た。


「全くあなたは……。支店長なのだから、もう少しどっしりと店で構えて下さらないと困りますわ」


「はっはっは。なに、昔からの癖が抜けなくてな。レディウス殿紹介しよう。彼女はこのケストリア支店の副支店長で、私の妻のマーナだ。マーナ、この方は私の命の恩人のレディウス殿で、その相棒のロポ殿だ。丁重にもてなしてくれ」


 ケイマルさんがそう紹介した瞬間、マーナさんがケイマルさんの襟を掴む。笑顔だけど目が笑っていない。


「あなた、命の恩人とはどういう事でしょうか?」


「お、落ち着けマーナ。それは中で話すから手を離してくれ」


 ケイマルさんがそう言うと、納得はしてなさそうだけど、マーナさんも手を離す。そして俺の方を向いて


「レディウスさん。この度は主人を助けて頂き有り難うございます。なんとお礼をしたら」


 と頭を下げられた。……生まれて初めて頭を下げられたのでどうしたら良いのかわからない。


「あ、頭を上げてください。偶々出会っただけですから。それに、お礼ならケイマルさんがお店の商品を安くしてくれるとおっしゃってくださったので」


「それは勿論です。では中へ案内致しましょう」


 そう言い店の中へ入るマーナさん。その後ろをケイマルさんが付いて行く。それにしても、俺の頭について何も言わないな。従業員の人は嫌な顔をしている人もいるのに。


「あのマーナさん。質問いいですか?」


「はい。何でしょうか?」


「マーナさんは、黒髪が気にならないのですか?」


「はい。私は特に気にしません。商売をしていると、魔法が使えても使えなくても関係ないと思ってくるんです。どれだけ魔法が使えようとも、商売人としての能力が無かったら意味がありませんから。だから商売人の世界では、髪の色を気にする人はあまりいませんよ」


 と微笑みながら話してくれる。さっき嫌な顔をしていた人も、その話を聞いて気まずそうな顔をしている。なるほどな。確かに、商売人に腕っ節はあまり関係ないのか。


 そんな話をしながら案内されたのは、なぜか奴隷がいる地下だった。


「ええっと、マーナさん? 何故地下に?」


「それは、私共が扱っている商品を見てもらうためです」


 そう言い進むマーナさん。まあ、見るだけなら。そう思い俺もマーナさんの後へ続いて行く。そして地下に降りると、中には逃げられないように首輪をした人たちがいた。


 階段から降りてすぐ左右に牢屋があり、中に奴隷の人たちが入っている。1つの牢屋に3人入り、左右に10ずつ、全部で60人近くいる。屈強な男性もいれば、扇情的な女性もいる。中には俺とあまり変わらない年の子どももいる。


「ここは、一般奴隷の売り場となっています。値段的には安くて5万ベクからになります」


 うーん。金貨一枚で人が買えちゃうのか。安いのか高いのかわからないな。……ん?


「あのマーナさん。一般奴隷というのはどういう事ですか?」


「はい。一般奴隷というのは、この店で先ほど申しました最低価格5万から99万ベクまでの奴隷を指します。そしてそれとは別に高級奴隷というのが存在しまして、全てが100万以上と高額になっております」


 ほえ〜! 全てが100万以上ってとんでもないな。何でそんなに高いのだろうか?


「高級奴隷は、かなりの美貌の持ち主や、紫髪と魔法の才能がある者など様々な者がいます。なのでどうしても高くなってしまうのです」


 なるほどな。価値があるから高くなるからな。俺だと最低価格の5万もいかないかもな。


「わかりました。では上に上がりましょう」


 俺が笑顔でそう言うと、マーナさんは残念そうな表情で俺を見てくる。いや、だって、そんなお金無いもん。


「見ていかれないのですか?」


「はは。それがあまり手持ちがなくて、見ても買えないので、それなら見ない方が良いかなと思ったんです」


「それは、仕方ありませんね。では戻りましょうか」


 そして俺はマーナさんについて行き上に戻った。

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