黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
14話 走り回る巨獣
「はぁはぁ、何であんなに速いんだあいつ!」
「グゥグゥグゥッ!」
僕の背後から黒い毛玉が突進してくる。僕は何とか避けるけど、毛玉は木に飛び上手い事方向転換をして、再び僕を追いかける。
走り慣れない山の坂道。邪魔をするように鬱蒼と生い茂る雑草。時折飛んで来る黒い毛玉。なぜこんな事になっているかと言うと、1週間前の流派を教えて貰った時まで遡る。
◇◇◇
「なら僕が教えて貰いたい流派は、ミストレアさんと同じ全部では駄目でしょうか?」
僕がそう言うと、ミストレアさんの目が鋭くなる。ヘレネーさんも少し厳しい目つきで僕を見て来る。僕が無理を言っているのは承知の上だ。
どの流派も、それぞれの先達が命を賭して残したものだろう。自分の全てを使って作り上げたものだと思う。それを剣術のけの字もわかっていない素人の僕が、全ての流派を覚えたいと言うのは、侮辱の他ならない。
それでも……。
「お二人が何をふざけた事を、と思っているのはわかっています。だけど、僕が強くなるためには一つだけでは足りないんです」
僕は鋭い目つきで僕を見て来るミストレアさんにそう答える。
「レディウスはそれがどれだけ無茶な事を言っているのかわかっているのかい? 私でも全てを修得するのに10年はかかった。そんな私ですら天才などと言われた。それをレディウスは4年そこらで覚えられると?」
覚えられるかと問われれば、はいとは言いづらい。だけども
「僕の命をかけて覚えます。そうじゃないと、国を建てるなんて話は夢のまた夢ですから」
僕はミストレアさんに向かってニヤッと笑ってみせる。するとミストレアさんも、少し困ったような、しかしどこか嬉しそうな表情を浮かべる。
「全く、困った弟子だねぇ。わかったよ。それなら私が教えられるものを全て叩き込んであげるよ。覚悟するんだね!」
「はい、よろしくお願いします!」
◇◇◇
そしてその日から修行が始まったのだが
「グゥグゥグゥグゥグゥグゥ!」
俺はあの日から毎朝ミストレアさんにこの山に連れて来られて、ロポに追いかけられている。理由は、まず武術をやる上で重要な足腰を鍛えるらしい。
それに1番適しているのが山の中を駆け回る事らしく、ヘレネーさんも昔はよくロポに追いかけられたと言っていた。
そしてこのロポなのだが、僕は初めホワイトラビットの色違いか何かかと思っていたのだけれど、別の魔獣だったみたい。
ミストレアさんに聞くと、ロポの種類はファントムラビットという魔獣らしく、自分の大きさや形を変えたりする事が出来るらしい。
ランクBの魔獣らしくかなり強いとの事。僕だったら一撃で殺されるらしいよ。……今僕はそんな奴に追いかけ回されている。
ミストレアさんの方針では、命の危険を感じた方が人間は成長するという、とんでもない方針なので、ロポに変身させ僕を追わせて来るのだ。
今のロポは、見た目が2メートル強の巨体にになり、全身の毛がハリネズミみたいに鋭い棘みたいになっており、口元からは上下2本、合計4本の牙が見えている。
……もうあの愛らしいロポの姿は残っていない。あるとすれば鳴き声だけだ。
「グゥグゥグゥ!」
「くそっ! ポーションで回復出来るからって遠慮無しに追いかけ回しやがって!」
そう叫びながら後ろを振り返ると、そこには大きく口を開けて僕に噛み付こうとして来るロポの姿があった。
「うおっ!」
僕は咄嗟に避けようとしたら、何かに躓いたみたいでその場でこける。でも良かった。あのままいたらあの鋭い牙で噛み付かれていたところだった。
メリメリメリメリ、ドォーン!
……何かが折れる音がしたのでそっちの方を見ると、木が倒れていく姿があった。木を噛んでへし折ったのか。そしてロポは少しキョロキョロとして振り返り僕を見つけると
「グゥ!」
嬉しそうな鳴き声を上げて僕は向かって飛びついて来る。くそっ! そっちがその気ならこっちだって楽しんでやる!
それから2時間。ミストレアさんが僕たちのところへ来るまで山の中を走り回っていたのだった。
◇◇◇
バシャッ!
「うおっ! 冷た!」
家に戻ってきた後もあまりの疲労で動けなかったのでその場に寝転んでいたら、僕の顔に何か冷たいものがかけられる。びっくりして体を起こすと、体の上で寝そべっていたロボが転がっていく。
この時はこんなに愛らしいのに、追いかけ回して来る時はあんなに怖いんだな。そんな事を思いながら振り向くと
「お婆様が次の修行に移るって」
木の桶を手に持ったヘレネーさんが立っていた。しかし、顔をそっぽに向けながらだけれど。1週間前のあの日からこんな感じだ。
理由はわかっている。僕が全ての流派を覚えると無茶な事を言ったからだ。ヘレネーさんは今年で12歳になるらしい。
4歳の頃から剣に興味を持ち、昨年に烈炎流を免許皆伝したらしい。7年かけてようやくらしいのだが、それでもかなり早いらしい。
本来なら早くて10年。長ければ一生出来ないらしい。その流派を3つとも、それを4年そこらで身に付けようとする僕に対して怒っているのだろう。剣はそこまで簡単なものではないと。
「ヘレネーさん」
「……何よ?」
僕はそんなヘレネーさんに何か言葉をかけたかった。でも、なんて言えばヘレネーさんは許してくれるのだろうか。いや、許してもらうなんて事は出来ないだろう。なら結果を残すしかない。
「僕絶対に修得しますから。全部の流派を」
「……っ! 勝手にすればいいじゃないの!」
ヘレネーさんは、僕に怒りながら家へと戻っていった。……今はこれで良いんだ。今言葉でいくら言ってもわかってもらえない。それなら行動で示すしかない。
僕はそう思いながらロポを連れてミストレアさんの下へと向かって行った。
「グゥグゥグゥッ!」
僕の背後から黒い毛玉が突進してくる。僕は何とか避けるけど、毛玉は木に飛び上手い事方向転換をして、再び僕を追いかける。
走り慣れない山の坂道。邪魔をするように鬱蒼と生い茂る雑草。時折飛んで来る黒い毛玉。なぜこんな事になっているかと言うと、1週間前の流派を教えて貰った時まで遡る。
◇◇◇
「なら僕が教えて貰いたい流派は、ミストレアさんと同じ全部では駄目でしょうか?」
僕がそう言うと、ミストレアさんの目が鋭くなる。ヘレネーさんも少し厳しい目つきで僕を見て来る。僕が無理を言っているのは承知の上だ。
どの流派も、それぞれの先達が命を賭して残したものだろう。自分の全てを使って作り上げたものだと思う。それを剣術のけの字もわかっていない素人の僕が、全ての流派を覚えたいと言うのは、侮辱の他ならない。
それでも……。
「お二人が何をふざけた事を、と思っているのはわかっています。だけど、僕が強くなるためには一つだけでは足りないんです」
僕は鋭い目つきで僕を見て来るミストレアさんにそう答える。
「レディウスはそれがどれだけ無茶な事を言っているのかわかっているのかい? 私でも全てを修得するのに10年はかかった。そんな私ですら天才などと言われた。それをレディウスは4年そこらで覚えられると?」
覚えられるかと問われれば、はいとは言いづらい。だけども
「僕の命をかけて覚えます。そうじゃないと、国を建てるなんて話は夢のまた夢ですから」
僕はミストレアさんに向かってニヤッと笑ってみせる。するとミストレアさんも、少し困ったような、しかしどこか嬉しそうな表情を浮かべる。
「全く、困った弟子だねぇ。わかったよ。それなら私が教えられるものを全て叩き込んであげるよ。覚悟するんだね!」
「はい、よろしくお願いします!」
◇◇◇
そしてその日から修行が始まったのだが
「グゥグゥグゥグゥグゥグゥ!」
俺はあの日から毎朝ミストレアさんにこの山に連れて来られて、ロポに追いかけられている。理由は、まず武術をやる上で重要な足腰を鍛えるらしい。
それに1番適しているのが山の中を駆け回る事らしく、ヘレネーさんも昔はよくロポに追いかけられたと言っていた。
そしてこのロポなのだが、僕は初めホワイトラビットの色違いか何かかと思っていたのだけれど、別の魔獣だったみたい。
ミストレアさんに聞くと、ロポの種類はファントムラビットという魔獣らしく、自分の大きさや形を変えたりする事が出来るらしい。
ランクBの魔獣らしくかなり強いとの事。僕だったら一撃で殺されるらしいよ。……今僕はそんな奴に追いかけ回されている。
ミストレアさんの方針では、命の危険を感じた方が人間は成長するという、とんでもない方針なので、ロポに変身させ僕を追わせて来るのだ。
今のロポは、見た目が2メートル強の巨体にになり、全身の毛がハリネズミみたいに鋭い棘みたいになっており、口元からは上下2本、合計4本の牙が見えている。
……もうあの愛らしいロポの姿は残っていない。あるとすれば鳴き声だけだ。
「グゥグゥグゥ!」
「くそっ! ポーションで回復出来るからって遠慮無しに追いかけ回しやがって!」
そう叫びながら後ろを振り返ると、そこには大きく口を開けて僕に噛み付こうとして来るロポの姿があった。
「うおっ!」
僕は咄嗟に避けようとしたら、何かに躓いたみたいでその場でこける。でも良かった。あのままいたらあの鋭い牙で噛み付かれていたところだった。
メリメリメリメリ、ドォーン!
……何かが折れる音がしたのでそっちの方を見ると、木が倒れていく姿があった。木を噛んでへし折ったのか。そしてロポは少しキョロキョロとして振り返り僕を見つけると
「グゥ!」
嬉しそうな鳴き声を上げて僕は向かって飛びついて来る。くそっ! そっちがその気ならこっちだって楽しんでやる!
それから2時間。ミストレアさんが僕たちのところへ来るまで山の中を走り回っていたのだった。
◇◇◇
バシャッ!
「うおっ! 冷た!」
家に戻ってきた後もあまりの疲労で動けなかったのでその場に寝転んでいたら、僕の顔に何か冷たいものがかけられる。びっくりして体を起こすと、体の上で寝そべっていたロボが転がっていく。
この時はこんなに愛らしいのに、追いかけ回して来る時はあんなに怖いんだな。そんな事を思いながら振り向くと
「お婆様が次の修行に移るって」
木の桶を手に持ったヘレネーさんが立っていた。しかし、顔をそっぽに向けながらだけれど。1週間前のあの日からこんな感じだ。
理由はわかっている。僕が全ての流派を覚えると無茶な事を言ったからだ。ヘレネーさんは今年で12歳になるらしい。
4歳の頃から剣に興味を持ち、昨年に烈炎流を免許皆伝したらしい。7年かけてようやくらしいのだが、それでもかなり早いらしい。
本来なら早くて10年。長ければ一生出来ないらしい。その流派を3つとも、それを4年そこらで身に付けようとする僕に対して怒っているのだろう。剣はそこまで簡単なものではないと。
「ヘレネーさん」
「……何よ?」
僕はそんなヘレネーさんに何か言葉をかけたかった。でも、なんて言えばヘレネーさんは許してくれるのだろうか。いや、許してもらうなんて事は出来ないだろう。なら結果を残すしかない。
「僕絶対に修得しますから。全部の流派を」
「……っ! 勝手にすればいいじゃないの!」
ヘレネーさんは、僕に怒りながら家へと戻っていった。……今はこれで良いんだ。今言葉でいくら言ってもわかってもらえない。それなら行動で示すしかない。
僕はそう思いながらロポを連れてミストレアさんの下へと向かって行った。
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