黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
12話 目指す道
「しっ!」
シュン! と僕の耳元で剣で風を切る音が聞こえる。そして僕の首元でピタッと止まる。首元に冷んやりとした剣が当たる。こ、こえぇ〜! 後少しズレていたらズバッといかれてたよ!
そして、ミストレアさんは剣を手元に戻し鞘に入れる。そしてジッと僕の方を見て来る。な、なんだ?
「……」
「み、ミストレアさん?」
そ、そんなに見つめられると恥ずかしいです。でもここで目を逸らしたら負けな気がするから僕もミストレアさんの目をじっと見る。
「……まあ、及第点てところかね」
「……えっ? って事は……」
「仮修行は終わり。今から正式な弟子としてレディウスを鍛えるよ。ヘレネー、レディウスに剣を」
「はい、お婆様。ほらレディウス」
「あ、ありがとう……あれ?」
なんだろう。仮修行を始めて今日で5日目。さっきのミストレアさんの感じだと、魔鎧が体全身に均等に魔力が行き渡ったみたいだけど、なんかあっさりとしている。
「ほら、何ぼさっとしているんだい。さっさと剣を抜きな。あんたには、ぼさっとしている暇なんてないだろう」
そうだ。僕には限られた時間しかないんだ。そして、昨日ミストレアさんたちと話した話を思い出す。
◇◇◇
「冒険者じゃ、厳しい、ですか……」
今日の修行が終わり、夕食をみんなでとっていると、ミストレアさんがそんな事を言い出す。理由は、僕が黒髪でも蔑まれない様にするにはどうしたら良いかという話だ。
僕の中では、黒髪は無能など、他の色の髪をした人たちに比べて、弱いと思われている印象があると思っている。実際その通りだと思う。やっぱり、使える魔法があるのと無いのでは、全く違うからだ。
こっちが殴りに行ったって、向こうが魔法を放てばそれでおしまいだし。
だから、僕のまずの目標は、ミストレアさんの元で修行をして強くなり、数年後に冒険者に復帰し、ランクを上げていけば、それなりに認められるのでは無いかと思っていたのだ。だけど
「それじゃあ、認められるのはその冒険者だけだろう? 他の市民や貴族たちには認められなくても良いのかい?」
と言われたのだ。そう言われたら認められたいに決まっている。その上
「それに、レディウスが冒険者として成功したとしても、貴族は多分認めないだろう。認める者もいるとは思うが、中には冒険者は野蛮だと思う貴族もいる。そうなれば、黒髪が調子に乗っていると潰しに来る貴族もいるだろう」
「ならどうすれば……」
僕がそう呟くと、ミストレアさんはニヤリと怖い顔をする。何だろうか?
「なら、その貴族が文句の言えない立場になれば良いのさ」
貴族が文句を言えない立場? 僕はそんな人がいるのだろうかと考えていたが、隣に座っているヘレネーさんが驚きの表情でミストレアさんを見ていた。
「お婆様! そんな事を口にするだけでも反逆罪に問われるわよ!」
「な〜に、私を罪に問いたかったら、軍隊でも引き連れて来いってね。それに私もこの風潮をどうにかしたかったんだよ。髪の色で全てが決まるなんて馬鹿げている。実際には紫色でも犯罪を犯した阿呆はいるし、黒髪でも優秀な奴はいる、レディウスみたいにね」
ゆ、優秀なんて言われたの初めてだな。て、照れるぜ。
「別に魔法だけが全てじゃ無いだろう? 武術だってあるし、勉学だってある。それなのに、属性を持っているかどうかで決まるのは馬鹿げていると思う。まあ、紫髪の私が言っても説得力が無いんだけどね」
そう言って笑うミストレアさん。今までの話を聞いてミストレアさんが何を言いたいのか大体わかった。僕もここまで言われてわからないほど馬鹿では無い。
だけど、それはかなり険しい道となる。道半ばで力尽きるかもしれない。でも、男なら誰しもが夢見る頂きだ。
「……ミストレアさんは、僕に王になれと言っているんだね?」
僕がそう尋ねるとミストレアさんは首を振る。
「別に私が言っている訳じゃない。それを決めるのはレディウス、お前自身だ。その道はかなり厳しい。ましてやお前は黒髪。生半可な覚悟じゃ届かない。それでも目指すというなら私は助けてやるというだけだ」
「ちょっとお婆様! レディウスもそう簡単に考えちゃダメよ! 言葉にするのは簡単だけれど、そう簡単な事じゃ無いんだからっ!」
」
とヘレネーさんは必死な顔で猛反発して来る。どうしたんだろう急に。今まではそんな事を言わなかったのに。
「ムシャムシャムシャ」
……こんな空気も御構い無しとグポは俺の膝の上で黙々と野菜を食べている。呑気なやつだ。でも、なんだか落ち着いた。僕はヘレネーさんの方を見て
「わかっているよ、ヘレネーさん。生半可な事じゃないことぐらい。でも、僕自身が目指して見たいんだ。僕が黒髪であろうと紫髪であろうと、誰しもが強くなれる可能性があるって証明出来るように」
「レディウス……。わかったわよ。私はもう言わない」
そう言い黙ってしまったヘレネーさん。僕の事を心配してくれているんだね。
「まあ、まずの目標としては修行をして強くなる。そして数年内に起こる『アルバスト王国』と『ブリタリス王国』の戦争に従軍する事ね」
「その戦争は必ず起こるのですか?」
僕が裏切られる前に冒険者ギルドでこっそりと聞いた話だ。いつ起こるかわからないけど、今は軍備増強しているってきいたな。
「ああ、必ず起こるだろう。時期としては今学園に入学しているウィリアム王子が卒業してからだろうね。ウィリアム王子の初陣を勝たせるために、かなり力を入れているそうだ」
……なんでこんな情報を知っているのだろうか? そういえば貴族の人に知り合いがいるって言っていたな。僕を助けた時もその帰り道だったらしいし。
それにしても学園か。姉上は元気にしているだろうか。……思い出すだけ無駄か。もうあの家とは勘当しているんだ。
僕がアルバスト王国に戻る頃は、今の話からして数年後。その頃には姉上も結婚しているはず。もう会う事も無いだろう。
それにしても戦争か。つい1月前までは関係無いやと思っていたけど。まさか、考えなければいけなくなるなんて。
「まあ、それも全部修行次第だ。前にも言った通り、死ぬかもしれないところにお前を送る訳には行かないからね。修行をして、戦争でもある程度は生き残れるだろうと判断出来なければ、レディウスの目標はそこで終わりだ」
「はい、わかっています。ミストレアさん、よろしくお願いします!」
僕は深く頭を下げる。戦争云々を抜きにしても、僕はこの人に教わりたい。それ程に、纏は魅力的だった。何より踊るように剣を振るうミストレアさんがカッコ良かった。
「ああ。そのためには魔鎧を頑張っておくれ」
「はい!」
◇◇◇
「すみません。すぐに準備をします」
そうだ。僕にはぼーっとしている時間なんてないんだ。だけど、どんな事を教わるのが楽しみだ。
シュン! と僕の耳元で剣で風を切る音が聞こえる。そして僕の首元でピタッと止まる。首元に冷んやりとした剣が当たる。こ、こえぇ〜! 後少しズレていたらズバッといかれてたよ!
そして、ミストレアさんは剣を手元に戻し鞘に入れる。そしてジッと僕の方を見て来る。な、なんだ?
「……」
「み、ミストレアさん?」
そ、そんなに見つめられると恥ずかしいです。でもここで目を逸らしたら負けな気がするから僕もミストレアさんの目をじっと見る。
「……まあ、及第点てところかね」
「……えっ? って事は……」
「仮修行は終わり。今から正式な弟子としてレディウスを鍛えるよ。ヘレネー、レディウスに剣を」
「はい、お婆様。ほらレディウス」
「あ、ありがとう……あれ?」
なんだろう。仮修行を始めて今日で5日目。さっきのミストレアさんの感じだと、魔鎧が体全身に均等に魔力が行き渡ったみたいだけど、なんかあっさりとしている。
「ほら、何ぼさっとしているんだい。さっさと剣を抜きな。あんたには、ぼさっとしている暇なんてないだろう」
そうだ。僕には限られた時間しかないんだ。そして、昨日ミストレアさんたちと話した話を思い出す。
◇◇◇
「冒険者じゃ、厳しい、ですか……」
今日の修行が終わり、夕食をみんなでとっていると、ミストレアさんがそんな事を言い出す。理由は、僕が黒髪でも蔑まれない様にするにはどうしたら良いかという話だ。
僕の中では、黒髪は無能など、他の色の髪をした人たちに比べて、弱いと思われている印象があると思っている。実際その通りだと思う。やっぱり、使える魔法があるのと無いのでは、全く違うからだ。
こっちが殴りに行ったって、向こうが魔法を放てばそれでおしまいだし。
だから、僕のまずの目標は、ミストレアさんの元で修行をして強くなり、数年後に冒険者に復帰し、ランクを上げていけば、それなりに認められるのでは無いかと思っていたのだ。だけど
「それじゃあ、認められるのはその冒険者だけだろう? 他の市民や貴族たちには認められなくても良いのかい?」
と言われたのだ。そう言われたら認められたいに決まっている。その上
「それに、レディウスが冒険者として成功したとしても、貴族は多分認めないだろう。認める者もいるとは思うが、中には冒険者は野蛮だと思う貴族もいる。そうなれば、黒髪が調子に乗っていると潰しに来る貴族もいるだろう」
「ならどうすれば……」
僕がそう呟くと、ミストレアさんはニヤリと怖い顔をする。何だろうか?
「なら、その貴族が文句の言えない立場になれば良いのさ」
貴族が文句を言えない立場? 僕はそんな人がいるのだろうかと考えていたが、隣に座っているヘレネーさんが驚きの表情でミストレアさんを見ていた。
「お婆様! そんな事を口にするだけでも反逆罪に問われるわよ!」
「な〜に、私を罪に問いたかったら、軍隊でも引き連れて来いってね。それに私もこの風潮をどうにかしたかったんだよ。髪の色で全てが決まるなんて馬鹿げている。実際には紫色でも犯罪を犯した阿呆はいるし、黒髪でも優秀な奴はいる、レディウスみたいにね」
ゆ、優秀なんて言われたの初めてだな。て、照れるぜ。
「別に魔法だけが全てじゃ無いだろう? 武術だってあるし、勉学だってある。それなのに、属性を持っているかどうかで決まるのは馬鹿げていると思う。まあ、紫髪の私が言っても説得力が無いんだけどね」
そう言って笑うミストレアさん。今までの話を聞いてミストレアさんが何を言いたいのか大体わかった。僕もここまで言われてわからないほど馬鹿では無い。
だけど、それはかなり険しい道となる。道半ばで力尽きるかもしれない。でも、男なら誰しもが夢見る頂きだ。
「……ミストレアさんは、僕に王になれと言っているんだね?」
僕がそう尋ねるとミストレアさんは首を振る。
「別に私が言っている訳じゃない。それを決めるのはレディウス、お前自身だ。その道はかなり厳しい。ましてやお前は黒髪。生半可な覚悟じゃ届かない。それでも目指すというなら私は助けてやるというだけだ」
「ちょっとお婆様! レディウスもそう簡単に考えちゃダメよ! 言葉にするのは簡単だけれど、そう簡単な事じゃ無いんだからっ!」
」
とヘレネーさんは必死な顔で猛反発して来る。どうしたんだろう急に。今まではそんな事を言わなかったのに。
「ムシャムシャムシャ」
……こんな空気も御構い無しとグポは俺の膝の上で黙々と野菜を食べている。呑気なやつだ。でも、なんだか落ち着いた。僕はヘレネーさんの方を見て
「わかっているよ、ヘレネーさん。生半可な事じゃないことぐらい。でも、僕自身が目指して見たいんだ。僕が黒髪であろうと紫髪であろうと、誰しもが強くなれる可能性があるって証明出来るように」
「レディウス……。わかったわよ。私はもう言わない」
そう言い黙ってしまったヘレネーさん。僕の事を心配してくれているんだね。
「まあ、まずの目標としては修行をして強くなる。そして数年内に起こる『アルバスト王国』と『ブリタリス王国』の戦争に従軍する事ね」
「その戦争は必ず起こるのですか?」
僕が裏切られる前に冒険者ギルドでこっそりと聞いた話だ。いつ起こるかわからないけど、今は軍備増強しているってきいたな。
「ああ、必ず起こるだろう。時期としては今学園に入学しているウィリアム王子が卒業してからだろうね。ウィリアム王子の初陣を勝たせるために、かなり力を入れているそうだ」
……なんでこんな情報を知っているのだろうか? そういえば貴族の人に知り合いがいるって言っていたな。僕を助けた時もその帰り道だったらしいし。
それにしても学園か。姉上は元気にしているだろうか。……思い出すだけ無駄か。もうあの家とは勘当しているんだ。
僕がアルバスト王国に戻る頃は、今の話からして数年後。その頃には姉上も結婚しているはず。もう会う事も無いだろう。
それにしても戦争か。つい1月前までは関係無いやと思っていたけど。まさか、考えなければいけなくなるなんて。
「まあ、それも全部修行次第だ。前にも言った通り、死ぬかもしれないところにお前を送る訳には行かないからね。修行をして、戦争でもある程度は生き残れるだろうと判断出来なければ、レディウスの目標はそこで終わりだ」
「はい、わかっています。ミストレアさん、よろしくお願いします!」
僕は深く頭を下げる。戦争云々を抜きにしても、僕はこの人に教わりたい。それ程に、纏は魅力的だった。何より踊るように剣を振るうミストレアさんがカッコ良かった。
「ああ。そのためには魔鎧を頑張っておくれ」
「はい!」
◇◇◇
「すみません。すぐに準備をします」
そうだ。僕にはぼーっとしている時間なんてないんだ。だけど、どんな事を教わるのが楽しみだ。
コメント
ふにゃんふなゃん15
王道な成り上がり修行展開で面白いです!アツいですね!