黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

10話 目指すべき技

「はぁ、はぁ」


「次はここ、それにここも!」


「ぐっ、がっ!」


くそ、ミストレアさんは容赦無く魔力の薄いところを切ってくる。この修行を初めて3日目になるが、もう切られていないところは無いぐらいだ。


この人、薄いと顔や男の急所まで遠慮なく切ってくるから恐い。確かにこれは逃げるぞ。


だけど、この3日間で少しずつ感覚が掴めてきた、気がする。多分今はほぼ均等な筈なんだけど。


「何気を逸らしているんだい!」


やべっ! 少し意識を逸らしたら全くわからない左側を狙われた。そしてそのまま左肩から斜めに切られる。しかも上手い事軽く表面だけ。それでも痛いものは痛いのだけれど。


「ぐうっ!」


僕は剣の勢いで膝をつく。目の前にはミストレアさんが立っている。そしてヘレネーさんから受け取ったポーションを頭からかけてくる。ふぅ、痛みが少しずつ引いてきた。


「全く、修行中に意識を逸らして。集中しなさい。死にたいのかい?」


「すみません。始めた頃よりはマシになったかもと考えていたら集中が切れていました」


「確かに3日前に比べたらマシにはなっているが、これは基本中の基本だ。これが出来なければ次には進められないよ。最終的には自分の体以外にも魔力を通せるようにならないといけないんだからねぇ」


「自分の体以外にもですか?」


僕が尋ねるとミストレアさんは頷く。


「まず、纏には色々な技がある。足に魔力を溜め、走る速度、跳躍の高さ、蹴りの強さなどを上げる魔闘脚。腕に魔力を集め、筋力などを上げる魔闘拳。目に魔力を集める事で、相手の魔力の流れを見る事が出来る魔闘眼。これらは魔鎧が出来てこそ使える技だ」


「なんだかカッコいいですね……あっ、もしかして(纏う)と(魔闘まとう)ってかけてたりしています?」


「……」


バシン!


痛い! 僕が冗談を言ったらミストレアさんに叩かれた。僕は叩かれた箇所をさすりながらミストレアさんを見る。離れたところでヘレネーさんはお腹を抱えて笑っている。くそぅ。


「全く、くだらない事を考えていないで話を聞きな。他には逆に魔力を一箇所に集めて攻撃力や防御力を上げる技もあるけど、今は関係ないから省くよ。その魔鎧、纏の技を出来るようになれば次の技だ。ヘレネー、私の剣を」


「はい、お婆様」


そこで、ミストレアさんは側で手伝いをしているヘレネーさんに剣を持ってくるように言う。そしてヘレネーさんは持ってきた剣をミストレアさんへ渡す。なんだあれ? さっきまで訓練用に使っていた剣と比べ物にならないくらい、凄い存在感を放っているんだけど。


「レディウス、見ておくんだよ。まずは魔鎧だけだ。ヘレネー、魔法で攻撃してきな」


「はい、燃やせファイヤーボール!」


「えっ、ちょっ!」


ミストレアさんが存在感のある剣を鞘から抜くと、ヘレネーさんに向かってそんな事を言う。ヘレネーさんも遠慮なしに魔法を放つし。


ちょっと危ないって! 僕がそう言おうとしたけど、既に遅く、ミストレアさんは迫ってくる火の玉を剣で切ろうと振るう。でも、剣にぶつかった火の玉は、その瞬間爆発した……ってええ!?


「ミストレアさん! 今行きま……す……ね、え?」


僕が心配で駆け寄ろうとしたけど、煙の中から無傷のミストレアさんが出てきた。傷どころか砂煙すら付いていない。何で?


「これが魔鎧の効果だ。それに今はただの剣で切ったため切らずに魔法が爆発したんだ。レディウスも知っていると思うけど、魔法を防ぐには盾などの物で防ぐか、魔法でしか防げないからねぇ」


……今初めて知りました。そうなんだ、知らなかった。


「そして次は、纏の応用で、この剣に魔力を通す。まだ魔闘眼が出来ないレディウスにはわからないかもしれないけど、今この剣には魔力を集めている。この状態で、さあヘレネー」


「はい、ファイヤーボール!」


ミストレアさんが再びヘレネーさんに言い、ヘレネーさんが魔法を放つ。さっき無事な姿を見たから、先ほどみたいに慌てないけど、それでも少し不安だ。


万が一があれば……ポーションがあるから大丈夫なのか? そんな事を考えている間に、火の玉がミストレアさんに迫る。そして


「ふん」


先程と同じ様に火の玉を剣で切ろうと振る。でもさっきと違うのは、触れた瞬間爆発せずに、そのまま剣で切れて火の玉が消滅した事だ。すげぇ〜。僕はもうその言葉しか思いつかなかった。


「今のが剣に魔力を通した結果だ。これを装備に魔力を纏わせる事から魔闘装と言う。ただし、これが1番難しい。自分の体以外に魔力を流すからね。しかし、これが出来れば、魔法の使えないレディウスの切り札になる。相手は基本魔法を使ってくるからね」


……僕の切り札になる技。僕は余りの凄さに言葉が出なかった。


「この技に合わせて魔闘眼で魔法の魔力の少ないところを狙えば、どんな強力な魔法も断ち切る事が出来る。まあ、そのためにはその魔法の少ないところと同じかそれ以上の魔力を、魔闘装していなければ無理だけどねぇ」


とミストレアさんは笑うが、それでも、僕でも強くなり、魔法の使えるみんなに対抗出来る可能性があるなんて。それなら……。


「ミストレアさん。続きをしましょう」


「ん? どうしたんだい急に」


「早くその技が使いたくなりました」


多分僕はニヤケていたのだろう。ミストレアさんもニヤリと笑い


「なら、やろうかね。後悔するんじゃないよ」


と迫ってくる。僕は再び体中に魔力を通し魔鎧を発動する。頑張るか。

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