黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
3話 旅立ち
「……朝か。うぅ〜ん!」
朝、まだ太陽が出る前に僕は起きた。これは僕の毎日の日課となっているので、自然と体が起きるようになった。
僕は寝間着から動きやすい服に着替えて、動きやすい靴へ履き替える。そして
「今日も頑張るぞ」
母上から貰った剣を持ち外へ出る。グレモンド男爵家にある中庭に出て、軽く準備運動をする。
準備が出来てからは、まずは体を温めるために走る。この中庭は一周で300メートル程しかないから、10週ほど走る。
それからは腕立てに腹筋をそれぞれ300回ずつして、剣を抜く。
3年前は持つのも辛かったけど、最近では振る回数を増えている。
母上が亡くなってから3年が経つ。母上の墓前で頑張ると誓ったあの日から毎日体を鍛えるようにしている。と言っても独学で出来る程度なので、他の子より少し動ける程度だ。
他の人が剣を使っているのを見る事が出来れば、少しでも違うのだろうけど、バルトも姉上も魔法を習っているから剣術を教えていない。バルトには少しだけ教えていた気もするけど、一瞬だったと思う。
この屋敷にいる兵士も剣を腰に下げてはいるけど、抜いているのを見た事が無いし。
だからこの3年間は体作りに力を入れた。それから剣を振るくらいかな。剣も初めはかなり重たくて、ふらふらとしていたけど、最近は本で見た通りにしているとふらふらしなくなった。
基本に忠実に構えて、振り上げ、振り下ろす。これだけ。これを毎日何千としているだけ。
それから姉上にはお願いして、この世界の事、魔法の事を教えて貰った。魔法の話の時は少し辛そうな表情を浮かべていたけど、少しでも使えるようにしておきたかったから。
まずこの世界の事だけど、この世界はグリノティアと呼ばれているらしい。1年間で360日で1月で30日、それが12ヶ月となり、1日24時間らしい。
1週間6日でそれぞれの日が魔法属性にちなんで、火、水、土、風、闇、光となっており光の日は休みとなっている。
そして僕が住む国『アルバスト王国』は、ユメリア大陸の中央に位置する国で、周りは他の国に囲まれている。人口は50万程になる国だ。この辺りは中国家群が集まった地域で、周りには似たような国が10ほど集まっている。
南には大平原が広がり山があるのだが、魔獣が多いため開拓が進んでいない。色々な国々が狙っているが。
その向こうには国があるらしいが、行くには魔山を越えるか、別の国を通らないといけないので多分行く事は無いだろう。
そして『アルバスト王国』の北にはいくつかの国を挟んで『ベルギルス帝国』、東は『メルトファリア王国』と言う大国がある。
この2つの国は川幅が10キロもあるメルト川を挟んだ向こうにあるのだけれど、今は停戦状態でいつ爆発してもおかしく無いと姉上は言っていた。でも今はあまり関係ない話とも言っていた。
それから魔法については、簡単に魔力を体に巡らす方法を教えて貰った。いわゆる身体強化ってやつだ。これだけで走る速度や力、視力も上がるみたい。姉上に手本を見せて貰ったけど、その状態で跳んだら屋敷の2階まで跳んでびっくりしたな。
姉上が言うには、僕は属性は勿論持ってないけど、3属性持ちに匹敵する程の魔力があるらしい。修行次第では5属性持ちほどにもなると物凄く喜んでいたな。
それから毎日、体に魔力を巡らす瞑想をしている。初めはどれが魔力か全くわからなかったけど、最近は意識すると体に温かいものが流れる感覚がわかるようになってきた。
出来た事に嬉しすぎて、身体強化を調子に乗って使って、壁に突っ込んだけど。あの時の姉上は物凄く怖かった。ミアにも同じように怒られたっけ。
そんな事をしていたらあっという間に3年が経ってしまった。バルトももう僕に興味が無いのか、ここ2年ほどは殴ってくる事も無くなったし、ケリー夫人も母上がいなくなったので、僕にちょっかいをかける事も無くなった。
家の使用人たちは今までと同じようなものだけど、何もされなくなっただけマシだ。
だけど、この生活も今日で終わり。理由は僕はこの家を出て行くから。
今年で姉上は14歳。この歳から貴族の子息たちは学園に通う事になる。そのため王都にある学園に行き、寮に入るため家から出る事になる。
なので、この家で僕を守ってくれる人はいなくなるわけだ。今までは何かある毎に姉上が助けてくれたけど、これからはそうもいかない。
ゲルマンもそう思ったのだろう。この前本人に呼び出されて、姉上が入学すると同時に僕を勘当すると言ってきた。まあ、理由は黒髮って事もあるんだろうけど。
それに僕は直ぐに返事をした。このままこの家にいても母上と誓ったように生きていけないと思ったからだ。これから辛い事があろうと、自分で決めた道なら耐えられると思ったからだ。
ゲルマンからは少しばかりの手切れ金を貰って家を出る事になる。
ミアの事は姉上にお願いしている。ミアは母上付きだったけど、昨日までは僕に付いていてくれた。だけど、僕がいなくなるとなれば、ミアは解雇されてしまう。だから姉上の侍女の1人としてもらう事にした。
姉上もその事は分かっていたのだろう。直ぐにゲルマンに言ってくれたので、ミアは今日から姉上付きの侍女となる。ミアには泣かれてしまったけど、何とか説得したら分かってくれたので、安心して出て行ける。
「もう、こんな時間か」
気がつけば太陽が顔を出し、侍女たちも働き出す時間帯だ。僕もそろそろ出発の準備をしなければ。
それから部屋に戻って、水に濡れた布で体を拭き、着替える。支度と言っても殆ど持って行くものはない。精々少しばかりの着替えと、お金。それにこの剣ぐらいかな。
そんな風に支度をしていると
コンコン
と扉を叩く音がする。僕は扉を開けるとそこには
「やっぱり準備をしていたのね」
姉上とミアが立っていた。
「姉上、ミア、どうしたのですか?」
「どうしたのですかじゃないわよ。……もう行くの?」
「はい、今日までが約束の期限ですから」
僕がそう言うと、ふんわりと花の香りがした。気がつけば姉上に抱きしめられたようだ。
「ごめんなさいね。私にもう少しお父様に言えればレディウスも出て行く事にならなかったかもしれないのに」
「いえ、いつかはこうなる事はわかっていました。それが今日だったってわけです。それに僕から出ていく話をするつもりでしたので結果は変わらなかったと思います。姉上は気にしないでください」
少しの間ぎゅっと抱きしめてくれて、少ししたら離れる姉上。目尻には涙が溜まっている。そして
「レディウス様」
「ミアも今までありがとうね。これから姉上に仕えて元気に過ごすんだよ」
7歳も年上に言う言葉じゃないけど自然と出てきた。ミアは我慢出来なかったのか涙を流しながら抱きついてくる。
「ばい! 頑張っでエリシア様にお仕えじまず!」
僕はミアの背中をぽんぽんと叩いてあげる。僕の2人目の姉上。元気でね。
それから落ち着いた姉上たちと少し話をして屋敷の門まで来る。屋敷の門を警備している兵士は怪訝そうな目で見て来るけど無視だ。
「姉上、ミア、今までありがとうございました。これからは元気でお過ごし下さい」
「もう、どうしてそんなに他人行儀なのよ。……また会えるわよね?」
正直に言うとはい、とは言えない。だけど
「もちろんですよ、姉上。次に会う時は姉上の子供が見たいですね」
「も、もうっ! レディウスったら! ……元気でね」
「レディウス様! お元気で!」
……ミア、鼻水垂れているぞ。可愛らしい顔が台無しだな。
「2人とも元気でね」
僕はそう言いながら門を後にする。さあ、ここからどうするか。まずは冒険者ギルドに行って冒険者になろう。今の実力じゃ他の国にも行けない。少しでも強くならないと。
母上。1人になりましたが、頑張って生きて行きます。見守っていて下さい。
朝、まだ太陽が出る前に僕は起きた。これは僕の毎日の日課となっているので、自然と体が起きるようになった。
僕は寝間着から動きやすい服に着替えて、動きやすい靴へ履き替える。そして
「今日も頑張るぞ」
母上から貰った剣を持ち外へ出る。グレモンド男爵家にある中庭に出て、軽く準備運動をする。
準備が出来てからは、まずは体を温めるために走る。この中庭は一周で300メートル程しかないから、10週ほど走る。
それからは腕立てに腹筋をそれぞれ300回ずつして、剣を抜く。
3年前は持つのも辛かったけど、最近では振る回数を増えている。
母上が亡くなってから3年が経つ。母上の墓前で頑張ると誓ったあの日から毎日体を鍛えるようにしている。と言っても独学で出来る程度なので、他の子より少し動ける程度だ。
他の人が剣を使っているのを見る事が出来れば、少しでも違うのだろうけど、バルトも姉上も魔法を習っているから剣術を教えていない。バルトには少しだけ教えていた気もするけど、一瞬だったと思う。
この屋敷にいる兵士も剣を腰に下げてはいるけど、抜いているのを見た事が無いし。
だからこの3年間は体作りに力を入れた。それから剣を振るくらいかな。剣も初めはかなり重たくて、ふらふらとしていたけど、最近は本で見た通りにしているとふらふらしなくなった。
基本に忠実に構えて、振り上げ、振り下ろす。これだけ。これを毎日何千としているだけ。
それから姉上にはお願いして、この世界の事、魔法の事を教えて貰った。魔法の話の時は少し辛そうな表情を浮かべていたけど、少しでも使えるようにしておきたかったから。
まずこの世界の事だけど、この世界はグリノティアと呼ばれているらしい。1年間で360日で1月で30日、それが12ヶ月となり、1日24時間らしい。
1週間6日でそれぞれの日が魔法属性にちなんで、火、水、土、風、闇、光となっており光の日は休みとなっている。
そして僕が住む国『アルバスト王国』は、ユメリア大陸の中央に位置する国で、周りは他の国に囲まれている。人口は50万程になる国だ。この辺りは中国家群が集まった地域で、周りには似たような国が10ほど集まっている。
南には大平原が広がり山があるのだが、魔獣が多いため開拓が進んでいない。色々な国々が狙っているが。
その向こうには国があるらしいが、行くには魔山を越えるか、別の国を通らないといけないので多分行く事は無いだろう。
そして『アルバスト王国』の北にはいくつかの国を挟んで『ベルギルス帝国』、東は『メルトファリア王国』と言う大国がある。
この2つの国は川幅が10キロもあるメルト川を挟んだ向こうにあるのだけれど、今は停戦状態でいつ爆発してもおかしく無いと姉上は言っていた。でも今はあまり関係ない話とも言っていた。
それから魔法については、簡単に魔力を体に巡らす方法を教えて貰った。いわゆる身体強化ってやつだ。これだけで走る速度や力、視力も上がるみたい。姉上に手本を見せて貰ったけど、その状態で跳んだら屋敷の2階まで跳んでびっくりしたな。
姉上が言うには、僕は属性は勿論持ってないけど、3属性持ちに匹敵する程の魔力があるらしい。修行次第では5属性持ちほどにもなると物凄く喜んでいたな。
それから毎日、体に魔力を巡らす瞑想をしている。初めはどれが魔力か全くわからなかったけど、最近は意識すると体に温かいものが流れる感覚がわかるようになってきた。
出来た事に嬉しすぎて、身体強化を調子に乗って使って、壁に突っ込んだけど。あの時の姉上は物凄く怖かった。ミアにも同じように怒られたっけ。
そんな事をしていたらあっという間に3年が経ってしまった。バルトももう僕に興味が無いのか、ここ2年ほどは殴ってくる事も無くなったし、ケリー夫人も母上がいなくなったので、僕にちょっかいをかける事も無くなった。
家の使用人たちは今までと同じようなものだけど、何もされなくなっただけマシだ。
だけど、この生活も今日で終わり。理由は僕はこの家を出て行くから。
今年で姉上は14歳。この歳から貴族の子息たちは学園に通う事になる。そのため王都にある学園に行き、寮に入るため家から出る事になる。
なので、この家で僕を守ってくれる人はいなくなるわけだ。今までは何かある毎に姉上が助けてくれたけど、これからはそうもいかない。
ゲルマンもそう思ったのだろう。この前本人に呼び出されて、姉上が入学すると同時に僕を勘当すると言ってきた。まあ、理由は黒髮って事もあるんだろうけど。
それに僕は直ぐに返事をした。このままこの家にいても母上と誓ったように生きていけないと思ったからだ。これから辛い事があろうと、自分で決めた道なら耐えられると思ったからだ。
ゲルマンからは少しばかりの手切れ金を貰って家を出る事になる。
ミアの事は姉上にお願いしている。ミアは母上付きだったけど、昨日までは僕に付いていてくれた。だけど、僕がいなくなるとなれば、ミアは解雇されてしまう。だから姉上の侍女の1人としてもらう事にした。
姉上もその事は分かっていたのだろう。直ぐにゲルマンに言ってくれたので、ミアは今日から姉上付きの侍女となる。ミアには泣かれてしまったけど、何とか説得したら分かってくれたので、安心して出て行ける。
「もう、こんな時間か」
気がつけば太陽が顔を出し、侍女たちも働き出す時間帯だ。僕もそろそろ出発の準備をしなければ。
それから部屋に戻って、水に濡れた布で体を拭き、着替える。支度と言っても殆ど持って行くものはない。精々少しばかりの着替えと、お金。それにこの剣ぐらいかな。
そんな風に支度をしていると
コンコン
と扉を叩く音がする。僕は扉を開けるとそこには
「やっぱり準備をしていたのね」
姉上とミアが立っていた。
「姉上、ミア、どうしたのですか?」
「どうしたのですかじゃないわよ。……もう行くの?」
「はい、今日までが約束の期限ですから」
僕がそう言うと、ふんわりと花の香りがした。気がつけば姉上に抱きしめられたようだ。
「ごめんなさいね。私にもう少しお父様に言えればレディウスも出て行く事にならなかったかもしれないのに」
「いえ、いつかはこうなる事はわかっていました。それが今日だったってわけです。それに僕から出ていく話をするつもりでしたので結果は変わらなかったと思います。姉上は気にしないでください」
少しの間ぎゅっと抱きしめてくれて、少ししたら離れる姉上。目尻には涙が溜まっている。そして
「レディウス様」
「ミアも今までありがとうね。これから姉上に仕えて元気に過ごすんだよ」
7歳も年上に言う言葉じゃないけど自然と出てきた。ミアは我慢出来なかったのか涙を流しながら抱きついてくる。
「ばい! 頑張っでエリシア様にお仕えじまず!」
僕はミアの背中をぽんぽんと叩いてあげる。僕の2人目の姉上。元気でね。
それから落ち着いた姉上たちと少し話をして屋敷の門まで来る。屋敷の門を警備している兵士は怪訝そうな目で見て来るけど無視だ。
「姉上、ミア、今までありがとうございました。これからは元気でお過ごし下さい」
「もう、どうしてそんなに他人行儀なのよ。……また会えるわよね?」
正直に言うとはい、とは言えない。だけど
「もちろんですよ、姉上。次に会う時は姉上の子供が見たいですね」
「も、もうっ! レディウスったら! ……元気でね」
「レディウス様! お元気で!」
……ミア、鼻水垂れているぞ。可愛らしい顔が台無しだな。
「2人とも元気でね」
僕はそう言いながら門を後にする。さあ、ここからどうするか。まずは冒険者ギルドに行って冒険者になろう。今の実力じゃ他の国にも行けない。少しでも強くならないと。
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