人外と友達になる方法

コング“シルバーバック”

第43話 そんな理由じゃダメですか? 〜認定試験篇〜

 奏鳴、光秀、竜夜の三人が部屋に戻ると悠火は窓を開けて夕涼みしていた。

「何黄昏てんだよ!」

 奏鳴は悠火の隣に立ち悠火の背中を叩く。

「ああ……ちょっと考え事をな……」

 悠火の顔を見て奏鳴はぞっとした。
 落ち着いているように見えるが、心の奥では鎮まらない怒りを堪えているのに気付いたからだ。
 ちなみにこれは奏鳴が人の感情を読むのが上手いわけではない。
 感情の読み取りは黒奈の得意な妖術なのだ。

「……何かあったのか」

「何でもねぇよ」

「……そっか」

 悠火が何に怒っているのかまではわからない。
 しかし悠火が話したくないなら無理に聞くことはできない。

「僕、一度部屋に着替え置いてきますね」

 竜夜は風呂で着替えた使用済みの服を部屋に置いてくるために一度部屋に戻るらしい。
 ついでに飲み物を買って来てと頼むと快く引き受けてくれた。

「それじゃ、行ってきます」

「おう」

竜夜が出て行ったのを確認して、悠火は先ほどのことを2人に話した。

「確かに酷い言い草だな……だから機嫌が悪かったのか」

「え、顔に出てたか? 竜夜に気づかれてないよな?」

「大丈夫だろ」

 悠火は竜夜に気づかれないようにするために平然を装っていたらしい。

「確かに鵺の動向を追う以上仲間が強いのに越したことはない。でも、仲間を笑う奴を隊に入れるわけにはいかない」

「そうだけどなぁ……」

 奏鳴の歯切れが悪いのもわかる。
 舞姫は五大家のそれも次期当主だ。即戦力なのは間違いないし、もしかすると悠火たちより強いかもしれない。

「ねぇ悠火」

 これまで黙って本を眺めていた光秀が口を開いた。

「何だ? てか、お前は何の本読んでだよ」

 悠火が光秀から本を取り上げる。
 その本のタイトルは『宮園家4世紀の歴史』と言う悠火ならば間違いなく読まない堅苦しいものだった。

「宮園家って、あいつの家だろ?」

「そう。彼女は確かに僕たちのことを何も知らない。でも、僕たちも彼女のことを何も知らないんだ」

「確かにそうだけど……」

「それで、ここが気になったんだけど…」

 光秀は本の中でも比較的最近のことが書かれたページを開けて、指差した。
 そこに書かれていたのは宮園舞姫についての記録だった。




竜夜は鼻歌交じりで部屋へと戻った。

(まさか上級の悠火さんの隊に入れるなんて思ってもみなかったなぁ……父さんも母さんも驚くぞ……)

「えらく上機嫌ね」

「うわぁ!」

 竜夜は突如隣から声をかけられて思わず叫んでしまった。
 周りの客も何事かとこちらの様子を見てくる。

「舞姫様が僕に何か御用ですか?」

「あんた、あいつらの隊に入るんでしょ?」

「はい……ダメ元でお願いしたら了承してもらって」

「……何であんたなのよ」

「え?」

 舞姫の声が小さ過ぎて竜夜には聞こえなかった。

「何でもないわ。それより、あなたは何で妖術師になったの?」

「どうして僕のことなんか……」

「いいから答えなさい!」

 舞姫の剣幕に押され竜夜は自分が妖術師を目指した経緯を話した。

「なるほどね……確かにあんたを三下扱いしたことは謝るわ。ごめんなさい」

 舞姫は頭を下げて謝罪する。

「そんな、顔をあげてください! 僕なんて下級ですし……五大家の舞姫様からしたら三下ですよ……」

 竜夜は少しネガティブ過ぎるところがある。
 竜夜のことを少しは理解した舞姫はようやく悠火が怒った理由を理解した。

「私、最低だ……嫌われるに決まってるじゃない」

「あの……僕でよかったら何か力になりますよ?」

 竜夜が協力を申し出る。

「あ、もしかして家のことだったりしますか? だとしたら僕が力になれることはないと思いますが、愚痴ぐらい聞きますよ? 次期当主って期待されて気張ってばかりじゃ大変ですしね」

 元気のない舞姫を少しでも元気付けようと竜夜が必死に話してくれているのを舞姫はわかっている。
 にも関わらずその助けの手を取ることができない。

「……ねぇ。1つ聞いていいかしら?」

「はい! 何でもどうぞ?」

「名前……あんたの名前を教えなさい」

「あ、そういえば自己紹介してませんでしたね。相楽竜夜です」

「そう……相楽はどうして私にそこまでしてくれるの?」

「実はうちの両親が昔、宮園家に助けていただいたことがあるんです。だから宮園家である舞姫様をお助けすることは多少ながら恩返しになるかなと思いまして……と言うのが表向きの理由です」

「表向き? じゃあ本当の理由は何なのよ」

 竜夜は恥ずかしそうに少し間を置いてから言った。

「困ってる女の子を放っておけないじゃないですか」

 何を言っているのだろう、と舞姫は思った。
 自分は由緒ある宮園家の当主となるために幼少の頃から厳しく育てられてきた。
 家臣の男衆にも稽古で負けたことはない。
 女だからと下に見られるのが舞姫は大嫌いだった。
 しかし今はどうしてか嫌な気がしない。

「何よそれ……そんな理由で……」

「そんな理由じゃダメですか?」

 竜夜が純粋な目で舞姫を見つめる。
 そんな竜夜のまっすぐな瞳に舞姫の中で何かが動いた。

「相楽……私ね……もういらないんだって……」

 舞姫は自分の身に降りかかった悲劇をゆっくりと話し始めた。



読んでいただきありがとうございます。コングです。

一体いつまで続くんだ認定試験篇…
この後の話の流れは考えてますが細かいところは考えてないので、しばらくバトルなしの日常回が続くと思います。現代アクションなのにね(笑)

竜夜がスゲェ良い奴になった。もともと良い子キャラだけど、まさかここまでとは…生みの親として鼻が高い!

「あの子私が育てたんですよ〜」

それではまた次回!



2020/5/12

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