異世界転生チートマニュアル

小林誉

第113話 内通

デール王国軍の六つある軍団の内、四つが戦場に到着していた。彼等はそれが通過儀礼のように、到着次第攻撃を仕掛けて揃って痛い目を見ている。まるで後で到着するフランに対して言い訳でもするかのように。


盾を持ったゴーレムが通用しないと解ってからデール王国軍はゴーレムによる攻撃のみに切り替えている。その度に砲撃で吹き飛ばされていたのだが、ある時を境に日ノ本公国軍からもゴーレムによる攻撃が始まった。言うまでもなくファング隊よりいち早く帰還した魔法使い部隊による攻撃だ。回転しながら無数に迫る小型の爆弾ゴーレムによる攻撃でデール王国軍は一時大混乱に陥ったが、フランの発案で生まれた弩による対策で、被害を幾分押さえることが出来ていた。


砲撃とゴーレム爆弾を警戒して手を出せないデール王国軍と、弾薬を温存したい日ノ本公国軍。両軍のにらみ合いが続いている中、別の場所では別の動きが起こっていた。敵中に孤立する形になったファング隊は、重量物であるカノン砲を引き摺りながらも、急いで鹿児島まで戻ろうとしている。そんな彼等の下に、鹿児島経由で妙な情報がもたらされたのだ。


「フランが近くに居る?」
「そうだ。お前達を包囲するような形で追尾している軍の中に、敵の総大将であるフランの姿が確認されている。お前は反転してこれを殲滅しろ」


フランの居場所を断言する剛士にファングは戸惑うばかりだ。いくら日ノ本公国諜報部の情報収集能力が優れているからといって、隠れて移動している敵の親玉の居場所を探し当てるなんて芸当、そう簡単にできることではない。


「おい剛士……お前、どこでそんな情報を……」
「協力者――と言いたいところだけど、内通者だな。もしくは裏切り者。前に話したことがあるだろ? 敵の貴族で、こっちに情報を流したがってる奴がいるって」
「あれか……しかしまぁ、信用出来るのか?」
「その点は心配いらない。裏をとってる。と言うより、奴は俺達の味方につくしか道がない状況なんだ」


遡ること数日前。CICに籠もる剛士の下に、協力者を自称するエルヴィンから連絡があった。彼からもたらされた情報は王城から姿を消したフランの居所だった。


「ええ。ですから、私があの女の軍団に所属していますので間違いありません。最後方から日ノ本公国軍を追尾して、退却を遅らせるために存在する軍団です。すぐに逃げられる位置にありますから、あの女が身を隠すのに最適なんですよ。どうか今の内に反転して叩いてください!」


突然送られてきたかなり焦った様子のエルヴィンからの通信。しかもフランの位置を教えると言う戦争の行方を左右しかねないほど重要な情報だ。あまりに剛士にとって都合の良い情報であるから、彼はエルヴィンがファング隊を壊滅させる目的で嘘をついていると判断した。


「エルヴィン殿は、なぜそんなに焦っておいでなのだ? 内通するというのなら、まだいくらでも機会はあるはず。わざわざ自分が最前線に身を置く状況でなくても良いのでは?」
「今じゃなければ駄目なのです! あの女、どこで情報を嗅ぎつけたのか、新貴族の急進派を全て軍団の最前線に配置してきたんです。このままじゃ盾代わりにされて殺される! 仮にも女王の目の前で逃げるわけにもいかないし……」


(なるほど。フランはこの機会に邪魔な連中を根こそぎ潰すつもりなのか。俺達は体よく利用されたってわけだ。しかしあの女……戦争のどさくさ紛れとは言え、自分に貢献した者を躊躇なく潰そうとするんだな)


フランの冷酷さに今更驚くことなどないが、同じ為政者として自分にはない彼女の決断力に、剛士は薄ら寒いものを感じていた。


(事情はどうあれ、フランが本当にそこに居るのなら、これを利用しない手は無い。上手くすればこれで戦争が終わるからな)


通信棒から少し顔を離し、剛士は横に控えるローズに目を向ける。


「ローズ。エルヴィンの言った事の裏は取れるか?」
「フランが居る確証はありませんが、件の軍団の構成について、少し情報があります。エルヴィンの言うように前半分を新貴族、後ろ半分を旧貴族に分けられているようです。もし彼の言うことが本当なら……」
「新貴族をここで使い潰す――か。しかし、どちらかと言えばフランは新貴族派と仲が良い印象だったのにな」
「国内が統一してしまえば好戦的な者など邪魔なだけなんでしょう。戦力として必要でも、治世にとっては必要ない……と言った所じゃないでしょうか?」
「そんなもんかね。よし、それじゃ話に乗ってみるか」


方針は決まった。ここでファング隊をフランに向かわせ、もし空回りにでも終わったら、最悪の場合鹿児島は落ちるかも知れない。いかに強固な防備を誇ろうと、数の差は覆らないのだから。言わば、これは賭け。自分とフラン、どちらが先に敵の親玉を倒してしまうかの危険なチキンレースと言える。


そんな緊張などおくびにも出さず、剛士は再び通信棒に耳を当てた。


「エルヴィン殿、お待たせして申し訳ない」
「かまいません! それより陛下、我々はどうすれば……」
「良い情報をもたらしてくれました。是非お味方させて頂きましょう」
「おお! 真ですか!」


さっきまでの焦りは何処へやら。エルヴィン殿は手の平を返したように上機嫌になった。


「エルヴィン殿は、こちらの軍が待ち伏せしている地点にフランの軍団を誘い込んで頂きたい。前線の部隊が急進派ばかりなら、偵察役も引き受けているのでしょう?」
「もちろんです! 奴め、我々が裏切るとは少しも思っていないのか、偵察は全て我々が行っていますよ。今の状態が続けば容易く誘い込めるでしょう! いや、一時はどうなることかと……ところで陛下、成功の暁には……」
「勿論。しかるべき報酬を用意すると約束します」


我が世の春が来たとばかりに浮かれるエルヴィンに、一方的な通信終了を告げ、剛士はファング隊と連絡を取る。反転したファング隊がフランの軍団と接触したのは、鹿児島にデール王国軍の全軍が集結し、総攻撃が始まった、まさにその時だった。



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