異世界転生チートマニュアル

小林誉

第111話 鹿児島にて

小さな島から誕生した剛士の国は、今やいくつもの都市を抱え、大軍すら粉砕する力を持った強国に成り上がっている。その新興国である日ノ本公国の首都は鹿児島。フランが本拠地としていた都市は城壁他様々な箇所に手が加えられ、日ノ本公国独自の特色を出す都市に作り替えられている。


城壁だけでもフラン時代よりかなり様変わりしている。内部に設けられた銃座は勿論、カノン砲の発射口、熱した油を流すための穴などが設けられ、敵の襲撃に対して万全の守りを布いている。


先の戦いで福岡が避難箇所を設けていたのと同様に、ここ鹿児島でも同じような避難場所がいくつも作られている。首都だけあってその数は福岡の比ではなく、街の地下全てを使うほど規模が大きい。そして日持ちの良い備蓄食料や、地下に掘られた井戸、そして地下深くに流せる大人数用のトイレ、そして寝具や薬など、住人全てをしばらく養いつつ立てこもれる備えがしてあった。


この都市の機能をフル活用すれば、ひょっとしたらデール王国軍の猛攻を耐え続け、逆に彼等の兵糧切れを狙える状況が来るかも知れない。しかしそれは可能性であるので、剛士としてはより確実な、武力による撃退を選ぶほかなかった。


城壁がかなりの改造を施されているのは既に述べたが、剛士達が立てこもる城はそれ以上に強固な造りになっている。対空戦力に備えて大型バリスタやカノン砲、そして弩がハリネズミのように備え付けられているし、城内の通路は隔壁を閉じると外から開けられないように細工がされており、即席の迷路にもなるのだ。


普通の王城だとここまで異常な造りはしていない。せいぜい脱出用の隠し通路が設けてあるぐらいだろう。やはりこの差は城の主である剛士の用心深さの現れと言えた。


これだけ武器を備えていれば、迎撃ために放たれた城からの攻撃だけで、街に甚大な被害が出るのは簡単に予想できる。しかし、住民を避難させた後の街がいくら壊れようが構わない――剛士はそう言う思い切った決断の出来る男だ。


そんな男の治める都市に、デール王国の各地から出陣してきた軍団が押し寄せつつあった。旅人や商人が行き交う街道は無骨な鎧を身に着けた兵士達で埋め尽くされ、休日には憩いの場となる草原は敵の陣幕に占拠されている。


彼等デール王国軍に下された命令はただ一つ。『全力を持って敵王都を攻撃し、公王剛士の首を取れ』だけだ。シンプルなことこの上もない命令だったが、それだけに参加した兵士――主に指揮官達は、フランの決意を感じ取っていた。


「軍団長。攻撃準備完了しました」
「うむ……」


全部で六つに分かれたデール王国軍の一つ、最も早く鹿児島に到着した軍団は、ちょうど攻撃準備を整えたところだった。その軍団をフランから預かる軍団長は、様変わりしたかつての領都を眺めていた。


「あれが、あの美しかったフラン様の城か……。異様な姿に変わっているな」
「全くです。所詮田舎者の集まりですからな。ものの美醜を理解する頭がないのでしょう」
「住民達には貧乏くじを引かせることになりますが、これもデール王国のためです。諦めるほかありません」
「さっさと攻撃を仕掛けましょう。このまま手をこまねいていては、他の軍団においしいところを全て持って行かれてしまいます」


取り巻きの貴族達が軍団長に追従している。彼等は実戦経験の乏しさ故に、カノン砲や銃の脅威を身をもって体験した事がない。伝聞だけ聞かされているので、過大評価や嘘の報告だと思い込んでいるのだ。血気にはやる彼等に、軍団長はため息を吐きたくなった。


素人を率いて敵の新型兵器と正面から戦わなければならないのだから、嫌になるのも無理はない。しかし彼等の言っている事も一部求めざるを得ない事実を含んでいる。敵の本拠地を前にただ傍観していたとあっては、勝利した後フランからどのような処罰が下されるか解ったものではないからだ。不本意だったが、彼は自分の感情を押し殺し、部下に命令を発する。


「……攻撃開始。予定通りゴーレムに盾を持たせて前進させろ。バリスタ部隊は組み立てを急げ。弩隊は敵の特殊兵器に対する備えを怠るな!」
「はは!」
「良いか、決して油断せず、奢ることなく細心の注意を払うのだ! 敵はこちらより遙かに強力な兵器で武装している! それを肝に銘じろ!」


一斉に動き出す配下達。前衛の魔法使いが生み出したゴーレムは、予め運ばれていた大盾を手にしてゆっくりと歩き出す。その陰に隠れるように武器を構えた兵士達が続いていく。見ようによっては戦車を盾に前へ進む歩兵の群れに見えるだろう。剛士の持ち込んだ新たな兵器軍は、こんな所にも変化を及ぼしているのだ。


先頭を行くゴーレムは、次第にカノン砲の射程に近づいている。してある一線を越えた時、彼等の前にそびえ立ち壁が、猛烈な砲煙を上げたのだった。



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