異世界転生チートマニュアル

小林誉

第106話 発想の転換

「ゴーレムを使うのよ」
「ゴーレム?」
「そう。体の内部に地雷を埋め込んだゴーレムをつくって、敵陣に突撃させれば良いのよ」
「!?」


リーフが提案したのは、何と言う事も無い自爆特攻兵器だった。現実世界の中東では、子供を洗脳してから自爆要員に仕立て上げると言う外道な手が使われているものの、これはゴーレムと言う土塊で作った人形にやらせるので、敵以外犠牲者が出ない。オマケに地面に埋めなくてもいいので、後で除去作業をする必要も無いのだ。動かない兵器である地雷を積極的に動かす――その斬新とも言える逆転の発想に、剛士は呆気にとられていた。


「なるほど! お前凄いなリーフ! 確かに土で出来たゴーレムだから、勢いよく何かにぶつかれば衝撃で起爆する可能性は高い。よくこんな事思いついたな」
「ふふん。もっと褒めなさい!」


ひっくり返りそうなほど体を反らせて有頂天になるリーフ。最近農業以外に活躍の場が無い彼女だったから、派手に目立つ機会が訪れて調子に乗っているのだ。


「マジで盲点だった。自分から動くなら地雷の欠点が全部克服されてるじゃないか。こりゃのんびりしてる場合じゃ無い。早速試作させてみよう!」


彼女の案を取り入れた剛士は、領内にいる木工職人と火薬を扱い慣れた奴隷を呼び寄せ、すぐ試作の開発に取りかかった。剛士が試作させた地雷は複雑な構造を廃し、上から踏んだら爆発するだけのシンプルなものだ。なのでそれ程高度な技術を必要としないし、生産性の高い物になった。そしてリーフの発案から三日。鹿児島の郊外には、剛士とリーフ他、土魔法の使い手であるマリア達魔法使い隊に加え、エギルや地雷の制作を任される予定の木工職人などが詰めかけていた。


剛士達の正面には、標的になる人形がいくつかと、障害物になる土嚢などが無造作に積み上げられている。行軍中の軍隊を狙うという設定のためだ。地面には試作が完了した地雷が等間隔で並べられており、リーフによる実験を持つばかりとなっていた。


「よし、やってくれリーフ」
「わかったわ。土の精霊よ……」


リーフの詠唱が進むにつれて、地雷が置かれた周囲の地面がボコリと持ち上がり、地雷を完全に包み込んでしまう。そして盛り上がっていく土はそのまま大きくなっていき、身長一メートルぐらいの人型の姿となった。


「作る過程での暴発は無し……と。次は実際に走らせてみないとな。リーフ、頼む」
「ゴーレムよ、障害物を乗り越えて、あそこにある標的に全速力で突っ込みなさい」


リーフの命令に従って、土塊で出来たゴーレムは標的目がけて駆けだした。と言ってもその動きはギクシャクとしていて、人が走るスピードの半分も出ていない。ただの土の塊を魔法で動かしているだけだから無理は無いのだが、非常にもっさりとした動きだった。


「なんか……遅いな」
「ゴーレムならこんなものでしょ」


ゴーレムとは本来戦わせる事が目的で作られるため、長距離を全速で走らせるには不向きな存在だ。若干テンションの下がった剛士達が見守る中、ゴーレムは設置された障害物を乗り越えるために手をかけようとする。しかし身長一メートルと言った子供並みの体格のためか、掴み損なってバランスを崩し、そのまま仰向けになって倒れ込んだ。次の瞬間、ゴーレムの中にあった地雷が起爆したのか、派手な音を立てながら爆発し、ゴーレムは跡形も無く粉々になってしまった。


「…………」
「…………」


敵に接触どころか、手前で自爆すると言う予想外すぎる展開に、関係者一同に思い沈黙が訪れた。弾薬不足と戦力不足を一気に解消できる妙案が目の前で粉砕され、剛士はショックが隠しきれていない。しかしリーフだけは違ったようだ。


「えーと……」
「今のはサイズが悪かったのよ。次は通常の成人男性ぐらいの体格に……いや、いっその事巨大なゴーレムにしちゃいましょう!」


上手く行かなかった事でヤケになったのか、リーフが暴走を始めようとしている。そう思った剛士が彼女を止めようとした時、今まで黙っていたマリアが割り込んできた。


「ちょっと待ってください。サイズを大きくすれば敵の目を引き、接触する前に攻撃されて同じ結果になるだけです」
「じゃあどうすれば良いのよ? 手足を使ってよじ登らないと、あんな障害物乗り越えられないでしょ?」
「そうでもないですよ。ちょっと見ててください」


そう言うと、マリアは精神を統一して大地に手をつき、土の魔法を発動させた。するとさっきのリーフ同様、土が盛り上がって設置された地雷を取り込んでいく。


「なによ。同じじゃない」
「まあ見ててください」


地雷を取り込んだ土はそのまま盛り上がり、幅五十センチほどの球形になって固まった。大きさで言えばバランスボールぐらいで、さっきリーフが作ったゴーレムの半分程度でしかない。


「なるほど球形か! 確かにこれなら大抵の障害物は関係無くなるな」
「はい。それに回転すれば良いだけだから、走るよりスピードが出ますよ。……やってみますね」


マリアに操られた丸いゴーレムは静かに動き出し、次第に速度を上げながら障害物に迫っていく。小さな障害物なら勢いで乗り越えてしまうが、正面にはさっきリーフのゴーレムが乗り越えられなかった、壁のように積み上げられた土嚢が迫ってきた。誰もがぶつかると思ったその時、ゴーレムは急に進路を変えて土嚢を回避し、今まで以上のスピードで標的に接近していく。そして全員が驚く中、標的に接触したゴーレムは派手な音を立てて標的ごと爆発四散した。


「上手くいきましたね」
「うーん……。今のはマリアがコントロールしてたのか?」
「はい。私の魔法はリーフさんの精霊魔法と違って、完全自立型じゃありませんから」


(なるほど。つまりミサイルで例えると、リーフのは自立型の誘導ミサイル。マリアのは有線式の誘導ミサイルってわけか。マリアの魔法は見える範囲なら精密な動きが出来るけど射程に劣り、リーフの魔法は自立型だから見えない範囲でも勝手に行動するけど、複雑な障害物だと避けられずに手前で爆発する可能性がある。一長一短だな。しかし二種類を使い分ければ十分使える兵器になる。いけるな)


「マリア。国内の魔法使いはどのぐらい居る? 通常の魔法と精霊魔法の二種類で」
「そうですね……私の隊だけで言うと、通常魔法で五十人。精霊魔法で十人。ファング隊に従軍しているのが同じぐらいの数です」
「マリアの隊からファング隊に回せる人数はどのぐらい居る?」
「半分が限界です。通信棒の量産も続行中ですから」


現状、通信の重要性は言うまでも無いため、剛士は少し迷った。今後戦場が拡大した場合、通信棒の需要は更に高まっていく。それを後回しにしてでもゴーレム爆弾を優先するべきか悩んだのだ。


「……じゃあ、通常の魔法使いを十名、精霊魔法使いを五名、ファング隊に合流させてくれ。まず敵の足を止めるのが最優先だ」
「承知しました」


新たに生み出されたゴーレム爆弾。これが戦況を打開する切り札になるのかどうか、それを確かめる機会は思ったより早く訪れようとしていた。



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