異世界転生チートマニュアル

小林誉

第80話 その後の扱い

ブリューエットを連れ帰った剛士達は、彼女をどう扱ったものか協議を重ねていた。フランからは嫁にしろと言われているが、事はそう簡単な話ではないのだ。現在剛士は一時的な自治領主と言う立場ではあるものの、本業はあくまでも商人だと周囲は認識している。それが国王の許可も得ず王族の姫を嫁に迎えるなど、反発が大きいのではないかと思われたのだ。


領主館に集まった剛士達四人は顔をつきあわせて協議している。ブリューエット本人は一室を与えられ、大人しく待機させられている。そう――させられているのだ。ロシェルから三笠で戻る時も不平不満を隠そうとせず騒ぎ立てたブリューエットだったが、剛士が文句を言うなと命令した途端に大人しくなった。恐らくフランの命令による強制力で、剛士の命令なら何でも従うようになっていたのだろう。不満げな表情はそのままだったが。


そんなブリューエットは、島に到着するや否や剛士の命令で彼の私室に待機させられていた。彼女を会議に参加させて、あれやこれやと口を挟まれては、話が進まないからだ。


「良いんじゃないの? 結婚しちゃいなさいよ」


どうでも良いとばかりに発言したのはリーフだった。彼女はロシェルへの往復で三笠に乗っていた時、初めて乗った巨大船での船旅に随分喜んでいたものの、肝心の話し合いや剛士の結婚話にまるで興味を示していない。仮にも命を共有しているはずの剛士の結婚なのに、無関心を装っている。


「リーフはそれでいいの? 何とも思わないわけ?」
「はあ?」


ナディアがした質問の意味がわからず首をかしげるリーフ。少しニヤついたナディアは、そんな彼女をからかうように言葉を続ける。


「リーフは剛士と付き合いが長いんでしょ? 私達に出会う前から二人で行動してるみたいだし、焼きもちとか焼かないのかなと思って」


しばらくポカンと口を開けていたリーフだったが、ナディアの言葉の意味するところを察した途端、顔を真っ赤にしてテーブルに身を乗り出した。


「ちょっと止めてよね! 私と剛士が付き合ってると思ってるの!? そんなわけないじゃない! 良い? 私は面食いなのよ。少なくとも私に釣り合う容姿じゃないと、恋愛対象にはなり得ないわ!」
「そ、そうなの……。ご免ね変な事言って」


照れ隠しでなく、本気で否定しているのが解ったのか、ナディアは気まずそうに謝罪する。一連の流れを見ていた剛士は渋面を作り、そんな彼の肩をファングがポンポンと叩いていた。


「あー……話を戻して良いか? ブリューエットの件だ。フランの進めもあって、俺は彼女を嫁にするつもりでいる。何か反対意見はあるか?」
「貴族の反発は予想されるな。しかしまぁ……その辺はあまり気にしなくても良いと思うぞ」
「どう言う事だ?」


説明を促す剛士に、咳払いをしてからファングが続ける。


「なぜなら、お前がこの先王として独立する気なら、ブリューエットを嫁に迎えるよりもっと貴族の反発があるはずだからだ。なのに敗残の姫を嫁にするぐらい気にしてどうする? 国王は力を失っているし、仮に口を出してきても無視すれば良い。その為に俺達は力を蓄えているんだろう?」


要は剛士の覚悟次第であり、言いたい奴には言わせておけ――難しく考えようとしていた剛士は、ファングのその言葉に目から鱗が落ちる思いだった。


「そうね。ファングの言う通りよ。それに何かあればフラン様が擁護してくれるはず。剛士は気にせずブリューエットを嫁に迎えれば良いわ」


ファングとナディアは賛成。リーフは消極的に賛成なので首脳陣の反対はない。後は剛士が決め、行動に移すだけだった。


「わかった。ならブリューエットを嫁に迎えよう。彼女が環境に慣れるまではしばらく発表を控えて、内戦が収束してきたら改めて公表しよう」


話が終わり、全員が席を立ってそれぞれの仕事に戻っていく中、剛士だけはそのまま屋敷に残り自分の部屋へ足を向けた。扉の前で一度立ち止まり、深呼吸をして緊張を和らげた剛士は、そのままドアノブを捻って中に入った。


「待たせたな」
「…………」


ブリューエットは相変わらず剛士を睨み付けたままだ。文句を言うなと命令されているので、せめて意思を伝える事が出来る目で不満を訴えようとしているのだろう。彼女の視線は、まるでこんな状況にある責任が全て剛士にあると言わんばかりだ。そんな彼女に対して、剛士は事務的に事実だけを伝える。


「協議の結果、お前を俺の妻として迎え入れる事になった。一応領主の妻だからといっても、この島にお前を遊ばせておく余裕は無い。当然仕事はしてもらう。具体的には後で決めるとして、何か言いたい事はあるか?」


ブリューエットは剛士を睨み付けるだけで発言しようとしない。文句を言うなと命じていた事を思い出した剛士が発言の許可を与えると、彼女は堰を切ったように剛士を罵倒し始めた。


「ふざけるのもいい加減になさい! 何故私が貴方の妻にならなくてはならないの!? 身分の差というものをわきまえなさい! 大体貴方と私じゃ釣り合わないでしょう!? 鑑で自分の姿を見た事がないのかしら!? 横に並んで立てば親子に間違われる年齢差なのよ!? 私のような美しい女性を伴侶にしたいのなら、せめて無駄な贅肉をそぎ落として体を引き締め、その締まりのない顔を何とかしなさい! でなければ――」


止まる事のない罵倒に、剛士は当初ウンザリしていたが、黙って聞いている内に段々腹を立ててきた。戦に敗れ、囚われの身になった時点で、本来ならブリューエットの命はない。ここでこうして剛士を罵倒できるほど元気なのは、フランと剛士の温情によるものなのだ。それを理解せず、あまつさえ助命してくれた人間に対するこの態度に、我慢の限界がきていたのだ。


「だいたい――」
「黙れ」


短くて鋭い剛士の言葉に、ブリューエットはビクリと体をこわばらせる。彼女は今更ながら、剛士の目が据わっている事に気がついたのか、怯えたように二、三歩、後ずさる。


「さっきから黙って聞いてりゃ何様のつもりだ? お前自分の立場を全然理解していないだろ? お前の命は俺の気分次第でどうにでも出来るんだぞ? それが解らないのか?」
「で、でも……私は……」


目を逸らしながら、この期に及んでまだ不満を口にしようとするブリューエットに、剛士は深いため息を吐く。そして不意に彼女の肩をガッシリと掴むと、そのままベッドに押し倒した。


「な、なにを!?」
「お前の立場を体に教えてやるよ。お前は俺の嫁になった。嫁と子作りするのは当然だろ?」
「私を犯すつもり!?」
「犯すんじゃなくて抱くんだよ。この世界に来てから色々ありすぎて女どころじゃなかったけど、嫁が出来たとなれば話は別だ。幸いお前の外見は俺好みだからな。遠慮なく頂かせてもらう」


言いながら、剛士は彼女の上にのしかかる。ブリューエットはこの世界の基準でも、そしてこのファンタジー世界の基準においても、かなりの美人だろう。フランほど若くないが二十代中盤であり、子供を産むには何の問題もない年齢と言える。そして育った環境の違いからか、周囲に居る人間の女性より肌が綺麗で、実年齢よりも若く見える。ハイ・エルフのリーフは別格として、剛士が出会った女性の中では、一二を争う美しさを誇っている。そんな存在を目の前にしては、いくら枯れかけた剛士でもやる気になろうと言うものだ。


「や、止めて! 止めなさい!」
「止める気は無い。安心しろ。久しぶりだけど、なるべく優しくするから」


二人が部屋に籠もってから数時間、涙目になったブリューエットの声が悲鳴から嬌声に変わるまで、それほど時間はかからなかった。



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