異世界転生チートマニュアル

小林誉

第71話 作戦立案

フランとその姉であるブリューエットは、どちらも先頭に立って戦うような猛将タイプではない。彼女達に共通しているのは、自らは後方で策を張り巡らし、戦いそのものは配下に任せる点だろう。


流石に王族ともなると護身術ぐらいは身につけていても不思議では無いが、それだけで殺しあいが出来るわけじゃない。なので、彼女達は内戦が始まってからと言うもの、自らの本拠地に籠もって出てこないでいる。今回の作戦はそこを突こうと言うのだ。


当初、フランは三笠で海に敵の目を引きつけた後、主力を北上させて主要拠点を占拠するつもりだった。しかしそれに待ったをかけたのは剛士だ。彼は敵の目を引きつける事自体には賛成したものの、それを海では無く陸にするべきだと主張した。


「どう言う事でしょうか?」
「つまりですね。主力で敵を引きつけておいて、海から敵の背後に回り、補給線を断つと同時に敵の本拠地を急襲するんですよ」


主力を囮にすると言う聞いた事の無い作戦を耳にして意図が掴めず困惑するフランに、剛士は作戦の内容を説明していく。彼の作戦とは、つまりマッカーサーの模倣だ。堅固な要塞や頑強な敵軍でも、背後は意外と脆いと相場が決まっているし、どんな強力な軍隊でも空腹には勝てない。敵の一番弱い部分を突けば楽に勝てる。それは歴史が証明している。


朝鮮半島では追い詰められたアメリカ軍が仁川上陸作戦で北朝鮮軍を押し返しているし、マレー作戦では日本軍がシンガポールを陥落させているし、帝国領の奥深く突き進んだ同盟軍は補給をたたれて各個撃破の憂き目に遭っている。


「それは……興味深い作戦ですが、実現可能なのでしょうか? 成功率は低いと思うのですが……」
「当然危険はありますし、失敗するかも知れません。しかし、フラン様に長々と戦っている余裕は無いはずですよね? 一気にブリューエットの軍を蹴散らし、彼女の支配領域をこちらに組み込まないと、エルネストとマリアンヌのどちらかが勝利の余勢を駆って攻め寄せてきますよ」
「…………」


剛士に言われなくても、フランはその最悪の事態を常に気にしている。時間に余裕が無いのは彼女が一番理解しているはずだった。そんな彼女に対して、剛士はあの手この手で説得を続けていく。


「正面から戦って勝利しても味方の被害が馬鹿になりません。死んだ兵は帰ってこないし、負傷した人間は完治まで時間がかかるでしょう。しかしこの作戦が上手く行けば犠牲は最小限で済むはずです。敵の犠牲を少なくすれば、将来彼等を取り込んだ時、楽に戦力増強が出来るはずですよ」


必死に説得しているものの、別に剛士はフランのためや兵士達のために説得を続けているのでは無い。戦争が長引けば長引くほどフランから金が入るので、本来ならいつまでも戦いが続くように立ち回るべきなのだろう。しかし、彼は既に最大派閥であるエルネストの配下であるエドガー子爵を攻撃してしまっている。フランがいつまでもブリューエットに手こずっていると、壁役であるフランが倒され、自分の身まで危なくなると考えているだけなのだ。


「……わかりました。剛士殿がそこまで言うのです。こちらの将軍達と具体的な作戦を立案してみましょう」
「聞き入れていただき、ありがとうございます」


剛士との会談後、フランは配下の将軍達と剛士の提案した作戦を検討し始めた。フランの予想では反対意見が続出すると考えていたのだが、意外な事に、この作戦を肯定的に捉える者が多かった。


「敵を引きつけて補給路を叩き、同時に本拠地を急襲する――成功すればこれ程痛快な作戦はないでしょうな」
「事前に敵の海上戦力を叩いたり、主力での示威行動などを繰り返す必要はありますが、不可能では無いと思います」
「問題は敵の後方に兵を送るための船です。現在我々にはそれ程多くの軍艦はありません。剛士殿の三笠と日本丸を借りたとしても、全体的に見れば微々たる数字です。ここは漁船や商船を一時的に徴発してでも、輸送力を確保しなければなりませんな」


彼等との協議によって、剛士の提案した作戦は承認された。まず第一段階として、三笠と日本丸による敵海軍の撃滅だ。これはこの作戦の大前提であり、敵の攻撃に対して貧弱な輸送船を守る上で必要な行為だ。流石にブリューエットの持つ海軍はエドガー子爵を上回るので、いくら三笠と日本丸でも手こずるかも知れないが、ロバーツ等乗員には何度か襲撃を繰り返してでも敵の軍艦を全て沈めろとの厳命が下った。


第二段階。これは敵の主力を本拠地から引き離すため、フランの軍が何度か小競り合いを繰り返すと言うものだ。流石に一度も戦わないのは怪しすぎるし、敵にも感づかれる可能性が高い。こちらに大きな被害が出ないように、上手く負けて・・・見せる必要があった。調子に乗った敵にフランの軍を追いかけさせて、補給線を引き延ばすためだ。


そして最終の第三段階では、兵を乗せた漁船や商船の大船団を無防備になった後方に上陸させ、本拠地と敵の補給路を急襲する。本拠地を叩く部隊にはフランの兵千名に加え、完成したばかりの大型バリスタ数機と弩兵を二百。補給路を叩く部隊にはフランの兵二百と弩兵を百。補給路はともかく、千名ほどで敵の本拠地を叩くのは無謀なのだが、そこは大型バリスタの特殊弾頭に頼って短期決戦を挑む手はずになっている。かなり賭けの要素が強い作戦だった。


「と言うわけで、今回もお前達の力に期待するぞ」
「任せてくれ会頭。俺達にかかれば他国の海軍なんぞ赤子同然よ」


実戦を経験した事で自信を持ったロバーツ達が出撃していったのを見送り、剛士は街から離れた秘密工房へと足を向ける。これから新兵器の開発テストを行うためだ。


「技術はいずれ模倣される。いつまでも三笠やバリスタで戦えるわけがないからな。次々に新しいものを生み出さないと、俺達みたいな弱小勢力、あっという間に消えちまうぜ」


普段人に聞かせる事の無い本音を呟きながら、剛士は足早にその場を後にした。





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