異世界転生チートマニュアル

小林誉

第68話 交渉結果

剛士とフランとの交渉で決まったのは以下の通りだ。


・日ノ本商会は現在所持する戦力を有償でフランに貸し出す。兵一人と弩をセットとし、一人当たり一日金貨二枚支払う。ただし、三笠と日本丸は船単位での貸し出しとし、費用は三笠が一日金貨百枚。日本丸が金貨五十枚とする。糧食や矢弾にかかる費用は、兵一人につき銀貨一枚。大型バリスタ一機につき銀貨五枚とする。ただし、支払いは金額相当の物資や資源、採掘の権利などでも可とする。


・フランは大陸南端の一角を辺境伯である剛士のものと認め、公国として独立する事を承認する。範囲は剛士が現在所有する島に加え、それと同規模の広さの土地を対岸から最南端に向けて責任を持って用意する事。


・公国となる日ノ本商会は現在のご用商会から外し、商取引の優先権を放棄する事。


・戦争終結後、日ノ本商会は弩二百と、三笠の同型艦を一隻、フランに譲渡する事。


兵の貸し出しにかかる費用が随分高く感じるが、これは平均的な傭兵の相場の倍ほどなので、それほど法外な要求ではない。新兵器である弩と、練度の高い射手がその程度の額で借りられるのだから、むしろ安上がりなはずだ。


三笠や日本丸だけは流石に高額だが、戦後三笠の同型艦を一隻譲る事になっているので、儲けとしてはそれ程でも無い。日ノ本商会にとって、内戦が早期終結すれば赤字になり、長引けば長引くほど黒字になると言うわけだ。


話し合いの中で一番難航したのは、やはり領土の問題だった。あまり剛士に領土を与えすぎると後の脅威になるし、少なすぎると日ノ本商会の協力が得られなくなる。フランにとってこれから先厳しい戦いが予想される中、新兵器を次々生み出す日ノ本商会は必ず味方にしておかなければならない存在なのだから、さじ加減が非常に難しい問題だ。


フランは自らの根拠地であり、地道に拡大してきた街を譲渡するのを随分嫌がったのだが、公国の中に飛び地が出来る事を嫌った剛士が強硬に反対したため、彼女はやむなく街を手放す事に同意した。その代わりとして三笠の同型艦を差し出すという提案をしておきながら、しっかりと金を請求した事で、結局剛士が得をした事になっているのだが。


「では私は、一度戻ってフラン様が作られた契約書を取って参ります」


何故か疲れた表情の使者は、そう言って島を後にした。フランの街まではどんなに早くても片道二日はかかる。休憩時間も入れると五日後ぐらいになるだろう。


「なんとか上手くまとまったな。疲れたぜ」


椅子に体重をかけながら背伸びする剛士を、仲間達は呆れた様子で見ている。


「何だよ?」
「いや……。お前、戦いの時はヘタレなのに、交渉ごとになると生き生きするなと思ってさ」
「剛士は根っからの商人なんだね」
「まあ、他に取り柄が無いんだし、それぐらい出来なきゃね」


約一名口の悪いのが居るが、剛士はソレを無視する。


「でも、独立が認められたのは良いんだけど、その後が心配よね」


まとまった条件を箇条書きにしたものを眺めながら、ナディアが心配そうに呟く。彼女は剛士と同じように、フランによる様々な干渉を危惧しているのだ。


「属国になるよう圧力をかけてくるぐらいはあるだろうな。最悪の場合は武力による平定か」


軍事を預かる事になったファングもどこか不安げだ。昨日の敵は今日の友――とはよく言うが、今日の味方が明日の敵になるかも知れないのだから。しかし、そんな彼等を安心させるように、剛士はチートマニュアルをとりだして広げてみせる。


「そのへんは俺も考えてる。確かにこのままだと国内を統一したフランが敵に回る可能性が高い。しかしだ。要はその時までに、俺達の戦力を強化しておけば良いって事だろう?」


ニヤリと笑う剛士に対して、ファング達が身を乗り出す。


「何か新しい武器があるのか!?」
「ああ。最近再開された鉱山から面白いものが出てきたからな。ひょっとしたら凄い武器が出来上がるかも知れん」
「面白いもの……?」


鉱山と武器という言葉の繋がりが理解出来ず、ファング達は首をかしげる。鉱山から取れるものと言えば鉄や銅ばかりで、それから作れる武器など世界中に溢れている。とても新兵器に使える素材とは思えないからだ。そう言うと、剛士は自分の足下に無造作に転がっていた白い石を取り出した。


「普通の奴ならゴミ以下の扱いをするものだからな。あれから武器が作れるなんて、この世界の奴等には想像も出来ないだろう」
「なんか凄い武器っぽいけど、それは弩や大型バリスタより凄いのか?」
「凄いなんてものじゃ無い。これがあれば、今までの武器は全て役に立たなくなるほどだ」
「そんなに凄いの?」
「大げさに言ってるだけじゃないでしょうね?」


いまいち信じられないと言った態度のナディアとリーフ。


「信じられないのも無理は無いが、実際目にしたらそんな事を言ってられなくなるぞ。既に実験用の材料は揃ってるし、近いうちに試作品が完成するはずだ」


剛士が手にした謎の鉱石。それが更なる激しい戦いを呼び込む事になろうとは、この時誰も想像していなかった。





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