異世界転生チートマニュアル

小林誉

第60話 内戦

剛士が島を購入してから約一年が過ぎ、島の人口は三千人に達していた。もう林の中に埋もれていたみすぼらしい村の姿など無く、最初の集落は立派な街へと姿を変えている。まだまだ大陸にある街――それも島の対岸にある港街より小さな規模なのだが、通りには大陸から出張してきた様々な商会の多様な商店が並び、今日も元気に街行く人々に声をかけている。


剛士としては、島の商業活動は全て日ノ本商会で行うつもりだったのだが、仕入れ先の確保の難しさや商品を望む人々の声を無視出来なくなったので、他の商会の参入を認めたのだ。しかし、彼等を入れる事によって、現在領地の経営はかなり楽になっている。彼等は住民でないため出店時には契約金を取る事が出来るし、用地の継続利用や利益からの納税も得ることが出来る。そして島の住民達に対してからも税を取る事が出来た。二年無税なのは年一回だけ徴収する住民税だけで、買い物に対してはその限りではないからだ。


ファングが設立した軍は、大きくなった街の治安維持や防衛に当たっている。三千人の人口に対して軍の数は五百人。日本人である剛士の感覚だと人口に対して随分軍の数が多く感じるのだが、この世界の兵士は平時では治安維持、有事には戦争と、警察と軍隊二つの面を合わせているため、数が多くなっているのだ。


ある程度人口増加も緩やかになっていたため、一度この辺で街の防衛を考え直すことになり、他の都市同様街を市壁で囲む計画が出来ていた。住宅街や商業区、そして港湾施設や農地を含む土地を丸ごと守れるように囲む計画なので、事業はかなり大がかりになる――はずだった。普通なら何年もかけて莫大な費用と人手が必要な事業も、なんと計画から一ヶ月で終了していたのだ。それもこれも、リーフの力である。


「あー疲れた。あんた達、もっと私に感謝して褒め称えなさいよね!」
「わかってるよ。お前には感謝してる。流石だリーフ」
「しっかしまぁ……リーフがここまで凄いとは思わなかった」
「本当ね。魔法の腕もそうだけど、まさかリーフがエルフの上位種だったなんて思わなかったわ」


この世界でエルフの数はそれほど多くない。田舎では皆無と言ってもいいほど見かけない存在だし、大きな街へ行かないと姿を見ることも内ない。たまに冒険者に混じって冒険している者は居るが、それでも人の目を引く程度には少数だ。街で見かけるエルフの大部分は、森の奥から出てきた変わり者や、両親のどちらかがエルフのハーフエルフが多い。しかしリーフはそれらのどれとも違った。


彼女の種族は古代エルフ。ハイ・エルフとも言われるエルフの中の上位種で、普通のエルフの何倍もの寿命や魔力を持つ種族なのだ。ハイ・エルフの特徴として有名なのが、その容姿の醜さである。剛士が見たエルフ村のエルフ達は全員がゴツイ外見をしていた。ハイ・エルフにとって、本来はあれが基本的な容姿らしい。リーフだけが異端なのだ。


普通のエルフなら違う世界に村を作ったり、門を使って出入りなど出来る魔力や技術を持っていない。今まで出会ったエルフがリーフの村のエルフだけだったために、剛士はあれが標準だと思い込んでいたのだが、実はそうではなく、外の世界には普通の容姿のエルフ達が沢山居たようだ。


そんな上位種であるリーフの魔法は、やはり他のエルフに比べると強力なものだったようで、普通の魔法使いやエルフなら数人がかりでやる事をあっさりと片付けてしまった。街を囲むような城壁を作れと土の精霊に命令し、後は放置していただけなのだ。それだけで何年もかかる作業が一ヶ月ほどで済んでしまったのを見て、剛士達や住民達は揃って愕然としたものだ。


当然リーフは調子に乗って今まで以上の待遇を要求してきたのだが、剛士達にそれを断る力は無い。彼女のおかげで街の防備が完璧になったのだから。


§ § §


ガレオンが完成したため、ファングは街の治安維持を務める兵士とは別に、海での戦いを専門とする兵士の募集を行った。領地が島だけあって、陸より海に力を入れるのは当然だ。何者が攻め寄せてこようと海で撃退してしまえばいいのだから。


陸で集める兵士の半分も集まれば上等――そう考えていたファングだったのだが、予想は良い方向に裏切られることになる。キャラックやガレオンなど新型船の注目度は思った以上に高く、一度はあれに乗ってみたいと思う志願者が殺到したのだ。そのおかげで当初予定していた人員より多くの人材を確保出来ることになったものの、選考するファングは連日深夜まで頭を悩ませることになり、疲労困憊の様子だった。


記念すべきガレオンの一隻目は、剛士の命名で『三笠』と名付けられた。記念すべき海軍一隻目は、連合艦隊旗艦を勤めた三笠の栄光にあやかりたかったのだが、この世界の住民は聞き慣れない名前に首をかしげるだけだった。


三笠は現在、乗員と新兵器バリスタの発射訓練に忙しく、島の近海を右往左往する日々が続いている。乗員は約百名で、船にはバリスタの他、弩、そして近接戦闘用の剣や槍などが備えられている。基本的な戦い方は遠距離からの射撃なので、白兵戦は最後の手段になるのだが、念には念を入れている。二番艦や三番艦も建造に着手されているものの、完成は当分先になるだろう。


そうして島の戦力が充実してきたある日のこと、定期便と共にもたらされた一報に、剛士達は顔色を変えることになる。――内戦勃発。デール王国の王位を得るため、ついに戦いが始まったのだ。



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