異世界転生チートマニュアル
第57話 日本丸
船が完成したと聞いて、剛士達一行は急ぎ造船所まで足を運んだ。機密保持のためにこの世界では珍しいドーム型になっている造船所の一角には、今までの船と明らかに違う形の船が鎮座していて、彼女が本来活躍する海への進出を、今か今かと待ちわびているようだった。
「会頭! よく来てくれました!」
「ポルト、やっと完成したみたいだな。凄いじゃないか」
「へへ……まぁ、ざっとこんなもんですよ」
一仕事を終えたポルトが誇らしそうに胸を張る。そんな様子を造船所にいる彼の弟子達が苦笑しながら眺めていた。
「まず外観から説明させてくれ」
ポルトに案内されて完成した船の間近まで来た剛士達は、その船体の巨大さに改めて圧倒された。桟橋から乗り込む場合なら喫水線の上だけしか視界に入らないだろうが、船底から見上げるとまるで小山のような大きさだ。船首と船尾の盛り上がり――船首楼と船尾楼が特徴的で、船体中央だけ物資や人の乗り降りをしやすいよう、低く作ってある。それでも従来のものより大きいのだが。
マストは全部で三本あり、前から二本が横帆、三本目が縦帆になっている。前二本の横帆は上下二段に分かれていて、上下どちらかが使用不能になっても推進力を得られるように配慮がされている。船首部分の角のような長い棒――バウスプリットには、補助マストであるジブが取り付けられていた。形は縦帆ではなく横帆だ。
造船所の中にあるためマストはしおれているが、海に出た途端全体で風を受け止め、グイグイと船体を進める推進力を得てくれるであろう事は疑いようがない。
「次は船内だ」
船内は二層構造になっていて、船底から近い方が食料や水、商品などを積んでおく船倉。甲板に近い方が船員達の船室や食堂などの生活スペースになっている。大きいとは言え無制限でないし、客船ではないので船室はかなり窮屈な造りだ。一部屋に最低でも四人、上下段のベッドを使う事になる。キャラックの一隻目は商船目的で建造されているので、積み荷が優先になるのは仕方の無い事だった。
船が実用化して様々なデータが入手出来れば、今度は更に船体を大型化する計画があるのだが、ひとまず完成させるのを優先したため船内は二層構造となっていた。
あれやこれやと質問をしながら一通り見学して回った一行は、全員が満足しながら下船した。見た事もない船の異様と、従来を圧倒する性能を持った船が自分達の物だと考えれば、自然と笑顔になろうというものだ。
「じゃあ早速で悪いんだが、こいつの進水式をやりたい。酒樽は持ってきているんで会頭に頼むよ」
「え?」
いそいそと職人達が運んで来たのはエールの酒樽だ。それを目の前にしてキョトンとする剛士に、ポルトから大きめの木槌が手渡される。何が何だか解らなくて戸惑う剛士に、ポンと手を打ったポルトが説明してくれる。
「ああ、会頭は進水式のやり方を知らないんだな。進水式って言うのは――」
現代日本の造船所で行われる進水式だと、綱を切ってシャンパンの瓶が船体に叩きつけられて割れた後、くす玉が開いて船名の公開、そして滑り出した船体がゆっくりと海面へ進んでいくのが一般的だろう。しかしこの世界のやり方は違う。まずガラスが高級品のため、叩きつけて割ると言う発想がない。オマケにシャンパンもないので、使うのはエールの入った酒樽と木槌だ。
つまり、木槌で酒樽の蓋を割って、中の酒を皆に振る舞うのがこの世界の進水式のやり方らしい。
(鏡開きみたいなもんか? 変なところだけ日本ぽいな)
木槌を受け取った剛士は、言われるがまま力一杯振り下ろし、酒樽の蓋をたたき割った。勢いがつきすぎて中のエールがいくらか溢れ、剛士の顔面に降り注ぐ。
「うわっ!?」
『うおおおおー!』
それと同時に、造船所内に居る全ての職人が雄叫びを上げながら酒樽に殺到し、我先にと木製のジョッキを酒樽へと突っ込み始めた。中を酒で満たしたジョッキを手に取った職人は、興奮しながら口に含んで残りを周囲にまき散らす。まるでリーグ優勝を決めた球団のビールかけのようなその光景に、剛士達は呆気にとられるだけだった。
「お、おい!?」
「ちょっと!?」
「きゃああ! こっち来ないでよ!」
呆然としたまま酒を浴びせられるファングとナディアに、必死で逃げ回るリーフ。そして真っ先に酒まみれにされた剛士はヤケクソ気味に乱痴気騒ぎへ加わっていく。風通しの悪い造船所内は酒の匂いが充満してむせかえるようだ。酒に弱い人間なら、これだけでも気分を悪くするだろう。
そんな騒ぎが収まっていくと、ポルトが号令をかけ職人達が一斉に駆けだし、船体を止めていたブレーキ役の材木を巨大なハンマーで叩き始める。カーンカーンと大きな音がしばらく響き、バキッと何かが折れる音と共に船体がゆっくりと動き始めた。造船台と船体の間には、滑りやすくするために獣脂などの潤滑剤が塗られている。その為さして大きな抵抗も受けず、船は船尾からゆっくり水面へと滑っていった。
巨大な船体が着水した事で波が造船所に溢れ、その場にいた者達の足下を濡らしていたのだが、誰もそんな事は気にもとめない。海面に浮かぶキャラックの姿に見とれていたのだ。
「凄いな……。本当に凄い。歴史に名を残す船をこの目で見られるなんて思わなかった」
「会頭、感動してるところを悪いんだが、この船の名前をつけてくれないか?」
思わぬ申し出に剛士は目を瞬く。てっきりポルトが決めていると思っていたので、まるで考えていなかったのだ。
「やっぱり記念すべき一隻目は、俺達全員に好きな船を造らせてくれたあんたに名付けてもらいたい。あんたがいなけりゃ、俺達はあのくたびれた造船所で腐っていただけだからな」
ポルトの言葉に同意するように、他の職人達も笑顔で頷いている。そこまで言うのならと剛士は頭を悩ませる。流石に普段からいい加減な彼も、ふざけて良い時と悪い時の区別ぐらいはつくのだ。
(うーん……。やっぱり船だから女性名にした方が良いのか? キャラックなら有名なサンタマリア号とかビクトリア号とかあるけど、日ノ本商会って名前でそれは合わない気がする。となると――)
決断したように顔を上げる剛士の様子を、ポルトを含めた職人達が緊張した顔で見つめていた。そんな彼等を見回しながら、剛士はゆっくりと口を開く。
「日本丸。日ノ本商会の商船第一号として、大きく活躍する事を願って名付けた。この船の名は、今日から日本丸だ!」
剛士の言葉に、再び造船所中が歓喜の声に包まれた。
「会頭! よく来てくれました!」
「ポルト、やっと完成したみたいだな。凄いじゃないか」
「へへ……まぁ、ざっとこんなもんですよ」
一仕事を終えたポルトが誇らしそうに胸を張る。そんな様子を造船所にいる彼の弟子達が苦笑しながら眺めていた。
「まず外観から説明させてくれ」
ポルトに案内されて完成した船の間近まで来た剛士達は、その船体の巨大さに改めて圧倒された。桟橋から乗り込む場合なら喫水線の上だけしか視界に入らないだろうが、船底から見上げるとまるで小山のような大きさだ。船首と船尾の盛り上がり――船首楼と船尾楼が特徴的で、船体中央だけ物資や人の乗り降りをしやすいよう、低く作ってある。それでも従来のものより大きいのだが。
マストは全部で三本あり、前から二本が横帆、三本目が縦帆になっている。前二本の横帆は上下二段に分かれていて、上下どちらかが使用不能になっても推進力を得られるように配慮がされている。船首部分の角のような長い棒――バウスプリットには、補助マストであるジブが取り付けられていた。形は縦帆ではなく横帆だ。
造船所の中にあるためマストはしおれているが、海に出た途端全体で風を受け止め、グイグイと船体を進める推進力を得てくれるであろう事は疑いようがない。
「次は船内だ」
船内は二層構造になっていて、船底から近い方が食料や水、商品などを積んでおく船倉。甲板に近い方が船員達の船室や食堂などの生活スペースになっている。大きいとは言え無制限でないし、客船ではないので船室はかなり窮屈な造りだ。一部屋に最低でも四人、上下段のベッドを使う事になる。キャラックの一隻目は商船目的で建造されているので、積み荷が優先になるのは仕方の無い事だった。
船が実用化して様々なデータが入手出来れば、今度は更に船体を大型化する計画があるのだが、ひとまず完成させるのを優先したため船内は二層構造となっていた。
あれやこれやと質問をしながら一通り見学して回った一行は、全員が満足しながら下船した。見た事もない船の異様と、従来を圧倒する性能を持った船が自分達の物だと考えれば、自然と笑顔になろうというものだ。
「じゃあ早速で悪いんだが、こいつの進水式をやりたい。酒樽は持ってきているんで会頭に頼むよ」
「え?」
いそいそと職人達が運んで来たのはエールの酒樽だ。それを目の前にしてキョトンとする剛士に、ポルトから大きめの木槌が手渡される。何が何だか解らなくて戸惑う剛士に、ポンと手を打ったポルトが説明してくれる。
「ああ、会頭は進水式のやり方を知らないんだな。進水式って言うのは――」
現代日本の造船所で行われる進水式だと、綱を切ってシャンパンの瓶が船体に叩きつけられて割れた後、くす玉が開いて船名の公開、そして滑り出した船体がゆっくりと海面へ進んでいくのが一般的だろう。しかしこの世界のやり方は違う。まずガラスが高級品のため、叩きつけて割ると言う発想がない。オマケにシャンパンもないので、使うのはエールの入った酒樽と木槌だ。
つまり、木槌で酒樽の蓋を割って、中の酒を皆に振る舞うのがこの世界の進水式のやり方らしい。
(鏡開きみたいなもんか? 変なところだけ日本ぽいな)
木槌を受け取った剛士は、言われるがまま力一杯振り下ろし、酒樽の蓋をたたき割った。勢いがつきすぎて中のエールがいくらか溢れ、剛士の顔面に降り注ぐ。
「うわっ!?」
『うおおおおー!』
それと同時に、造船所内に居る全ての職人が雄叫びを上げながら酒樽に殺到し、我先にと木製のジョッキを酒樽へと突っ込み始めた。中を酒で満たしたジョッキを手に取った職人は、興奮しながら口に含んで残りを周囲にまき散らす。まるでリーグ優勝を決めた球団のビールかけのようなその光景に、剛士達は呆気にとられるだけだった。
「お、おい!?」
「ちょっと!?」
「きゃああ! こっち来ないでよ!」
呆然としたまま酒を浴びせられるファングとナディアに、必死で逃げ回るリーフ。そして真っ先に酒まみれにされた剛士はヤケクソ気味に乱痴気騒ぎへ加わっていく。風通しの悪い造船所内は酒の匂いが充満してむせかえるようだ。酒に弱い人間なら、これだけでも気分を悪くするだろう。
そんな騒ぎが収まっていくと、ポルトが号令をかけ職人達が一斉に駆けだし、船体を止めていたブレーキ役の材木を巨大なハンマーで叩き始める。カーンカーンと大きな音がしばらく響き、バキッと何かが折れる音と共に船体がゆっくりと動き始めた。造船台と船体の間には、滑りやすくするために獣脂などの潤滑剤が塗られている。その為さして大きな抵抗も受けず、船は船尾からゆっくり水面へと滑っていった。
巨大な船体が着水した事で波が造船所に溢れ、その場にいた者達の足下を濡らしていたのだが、誰もそんな事は気にもとめない。海面に浮かぶキャラックの姿に見とれていたのだ。
「凄いな……。本当に凄い。歴史に名を残す船をこの目で見られるなんて思わなかった」
「会頭、感動してるところを悪いんだが、この船の名前をつけてくれないか?」
思わぬ申し出に剛士は目を瞬く。てっきりポルトが決めていると思っていたので、まるで考えていなかったのだ。
「やっぱり記念すべき一隻目は、俺達全員に好きな船を造らせてくれたあんたに名付けてもらいたい。あんたがいなけりゃ、俺達はあのくたびれた造船所で腐っていただけだからな」
ポルトの言葉に同意するように、他の職人達も笑顔で頷いている。そこまで言うのならと剛士は頭を悩ませる。流石に普段からいい加減な彼も、ふざけて良い時と悪い時の区別ぐらいはつくのだ。
(うーん……。やっぱり船だから女性名にした方が良いのか? キャラックなら有名なサンタマリア号とかビクトリア号とかあるけど、日ノ本商会って名前でそれは合わない気がする。となると――)
決断したように顔を上げる剛士の様子を、ポルトを含めた職人達が緊張した顔で見つめていた。そんな彼等を見回しながら、剛士はゆっくりと口を開く。
「日本丸。日ノ本商会の商船第一号として、大きく活躍する事を願って名付けた。この船の名は、今日から日本丸だ!」
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