異世界転生チートマニュアル

小林誉

第49話 新たな金策

『こちらの交渉は問題なく終わりました。それと今回だけでなく、今後のギルドとの交渉役と言う大役を仰せつかり、大変光栄に思います。ただ、事前に一言知らせておいていただければ――と、愚考いたします』


剛士達が島に戻って数日後、物資と共に届けられたローズの手紙からは、文句を言いたいけど言えないので嫌味ぐらいは書いてやろうと言う気持ちがひしひしと伝わってきた。ギルドとの交渉がまとまり、これで国内だけでなく国外へも領民募集の話が広まるだろう。剛士達の仕事はこれから何倍も忙しくなるはずだ。


§ § §


ひとまず港が完成し、現状出回っている大型船なら問題なく停泊できる桟橋がいくつも完成した。工事そのものは終わったものの、業者の人間達は大陸に戻らず、まだこの島に滞在している。それと言うのも、完成した港とは別の場所で新たに桟橋を造り始めているからだ。こちらはポルト達が作った大型船専用なので、かなり水深の深い入り江を利用しての作業となる。将来的には軍船が停泊するかも知れないので、作業はかなり大がかりに、かつ長期間に及ぶだろう。


今の所、島から出ていくのは大麻ぐらいしかないが、大陸側から送られてくるものは質量共にかなりの量になっている。これと共にギルドの宣伝を耳にした近場の人間が島にやって来て、早速移住を開始していた。


「押さないで! 順番に受け付けますから、こちらの木札を持って呼び出されるまで待機してください!」


以前から住民達のリーダー格であったニコスは、正式に村長として村を纏める立場になっていた。彼の指揮の下、長テーブルに配置された文字の読み書きが出来る女達が、移住希望者の使命や年齢を羊皮紙に書き込んでいく。順番を待っている移住希望者は整理番号の書かれた木札を受け取り、自分の番が来るまで村の広場で待機させられる。広場には村で生活する上の決まり事や注意点が書かれており、ちょうど良い暇つぶしが出来る状態だ。


手続きの終わったものは自分が与えられる予定の空き地へと案内され、そこに自分の名前が書かれた木製の看板を、自分の手で地面に打ち込んでいく。本当に土地が貰えるのか半信半疑で島を訪れた者達は、それを見て俄然やる気になっていった。今は何も無い状態でも、将来ここに自分の家が建つ事になると実感できれば気持ちがガラリと変わるのだろう。


区画ごとにハッキリとした溝があるので、他人の土地と自分の土地で将来的に揉める心配はない。島の土地はまだまだ余裕があるので、隙間もないほど住居で埋まるのは島分先の事になるはずだ。


家と土地を与えられた者達は、とりあえずの仮住まいとして簡易式の集合住宅で寝泊まりする事になる。支柱と板を張り付けただけの簡素なものだが、暖かく温暖な島の気候なら凍え死ぬ心配もない。


そして彼等にはそれぞれ仕事が与えられる。家の建築や木材の伐採、港の整備や荷運び、農地の開拓等、やる事は山積みだ。その後、一年経てば職業を自由に選ぶ権利が与えられる。当然誰でも希望する職業に就けるわけではないので、仕事にあぶれた者は村から与えられた仕事をして日銭を稼ぐか、自分で何らかの商売を始める事になるだろう。どちらの仕事を選ぶにせよ、税も取られず食いっぱぐれる事も無いとくれば、他の土地よりかなりの好待遇なのだ。


そんな話を人づてに聞いた港の業者が大陸側に話を持って帰ると、ギルドの宣伝も相まって移住希望者は爆発的に増え始めた。一日数人が十人、次の日には二十人と、日を増す毎に人間が増えていく。そうなれば当然村で作った農作物だけでは追いつかなくなり、大陸側から食料その他を輸入する量も増えていった。


§ § §


「また借金か……」
「仕方がないな。二年間無税を宣言したんだ。その間は借金してでも自前で何とかするしかない」


競馬や大麻の利益が増えているとは言え、儲けより増え続ける領民を養う維持費の方が上回る。その上ポルト率いる職人集団が作る大型船の建造費用も馬鹿にならないので、日ノ本商会の財政は赤字へと転落していた。


「せめて食料だけでも自前で賄えると良いんだが、これ以上リーフを酷使したら働かなくなるだろ?」
「ああ、これ以上は無理だな。今の状態でも休みが少ないってピリピリしてるのに、更に増やすと何を言われるか……」


リーフが激怒した時の事を想像してファングは首をすくめる。現状、この島で一番働いてるのはリーフだ。彼女は毎日大麻に成長促進の魔法をかけた後、木々の伐採をしやすいよう土の精霊に働きかけて地面を柔らかくし、切り株を取り除きやすいように頑張っている。エルフという種族は木々などの植物を傷つける事を忌避するかと思ったが、リーフ個人は何とも思わないそうだ。流石、金の事しか考えていない女である。


そんな欲深いリーフがこれだけの期間働き続けていられるのは、彼女に対する報酬が剛士達三人の者に比べ、群を抜いて多いからだ。取り分で言えばリーフが七で三人が三。ほとんど独り占めしている事になるのだが、これは剛士達が相談して決めた結果だ。


「金は後で何とでもなるから、とにかく今はリーフに気分良く仕事をさせる事が優先だろ?」
「同感だ。今彼女にへそを曲げられたらこの島は終わりだ」
「お金を使う暇もあんまりないし、リーフだけ多めにしておいていいんじゃない?」


その結果、リーフは暇を見つけてはストレスを発散させるように、大陸から様々な衣服や装飾品を買い漁って自分の部屋へと放り込んでいる。もっとも、一度袖を通したり身につけただけで興味をなくしているようだが。


§ § §


「で、剛士。この調子でいくと破産もありえると思うんだが、どうやって事態を改善するつもりなんだ?」


四人揃った夕食の席で、真っ先に食事を終えたファングが剛士に問う。剛士は特に慌てる様子もなく、チートマニュアルをテーブルの上にポンと置いた。それを見て察したナディアが、納得したように頷く。


「また何か思いついたんだね。今回も新しい博打か何かなの?」


今までチートマニュアルを利用して出てきた知識は、博打や大麻などろくでもないものばかりだ。剛士の出すものならまた同じなのだと思ったナディアだったが、剛士は大きく首を振った。


「今回は違う。生活に直結して金を荒稼ぎ出来るものだ。これをこの島で生産して大陸側に広めれば、今の借金なんぞ帳消しに出来るさ」


そう言って、不敵に笑った剛士が開いたページには、ある特殊な器具の絵が描かれていた。

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