異世界転生チートマニュアル

小林誉

第37話 大麻から作れるもの

世の中には法律というものが存在するし、このファンタジーな世界においても一応ではあるが存在する。罪を犯せば警察に当たる衛兵が犯罪者の身柄を拘束し、取り調べを経てから裁判が始まる。その後それぞれ下された判決によって奴隷落ちしたり、牢屋に閉じ込められたりして、それぞれの罪を償っていく事になる。


日本で大麻を栽培して販売したらどうなるか? 言うまでもなく逮捕されるだろう。しかしこの世界ではそんな事は起こりえない。なぜなら、大麻というそこら辺に生えている雑草を集めて加工し、幻覚作用を楽しむと言った習慣がまるでないのだから、それを取り締まる法律も当然存在しない。


つまり、剛士は誰はばかる事無く、大手を振って大麻を売りさばけるわけだ。


剛士が集めてきた大麻草から種を取り出し、専用の用地へ移してからリーフの魔法で成長促進させ、成長しきったら再び種を取り出して植えていく。これをひたすら繰り返す事で数を増やした大麻草を、今度は加工しなければならなかった。


大麻草の葉っぱを乾燥させて細かく砕いたもの……これが剛士の使った大麻――所謂マリファナだ。今回の目的はこれを貴族達富裕層に売り込んでいく事であるので、本来なら葉っぱ以外は必要ない。しかしこの大麻草という植物、実は色々な使い道があったりする。


葉っぱ以外の部分、茎からは繊維が取れる。日本では縄文時代からそれらを使った衣服が存在していたので、作り方はそれほど難しくない。当然チートマニュアルにも作成方法が書かれていた。


細かく説明してもしょうがないので簡単に書くと、以下のようになる。ぶつ切りにした茎を、灰を入れたお湯でしばらく煮込むと段々とぬめりを帯びてくる。その状態になったら簡単に繊維が剥ぎ取れるようになるので、お湯から取り出した後は繊維を剥ぎ取っていくだけだ。そして剥ぎ取ったものを縒って糸にしていく。これで完成。


残った部分も石灰などを用いれば断熱材やコンクリート代わりのヘンプクリートとして再利用出来るのだが、今の限られた人手でそこまでは手が回らないので、それは断念する事になった。


代わりにある程度大麻の数を増やし終わったら、余った種から油を抽出し、燃料として売りさばく予定だ。こちらは薬と違って一般庶民にも卸していく事になるだろう。


約百人居る現地住民の内、男手はその半分。そして働き盛りはそのまた半分と言ったところだ。後は老人と女子供ばかりで、あまり力仕事を任せられる人材がいない。大麻の加工作業は女達に任せ、彼等は彼等でやるべき仕事を与えられていた。


農地の開拓と港湾の整備だ。現状この島は食料を輸入に頼っている。しかしいつまでもそんな状態のままではいくら金があっても足りなくなるし、異常事態が起きて輸送が途切れる可能性もあるため、最低限自給自足ぐらいは出来るようになっておかなければならない。食料を他国に頼った国家など、相手国次第で簡単に干上がってしまう。それだけは避けねばならないのだ。


作物の生長自体はリーフの魔法に頼ればすぐに終わるが、あまり魔法に頼りすぎるのも良くないと、リーフは警告を発していた。


「私の魔法は土の栄養を前借りして無理矢理成長させているだけだから、あまり何度も使うと何も育たない不毛の土地になっちゃうわよ」
「つまり……普通の農業をやるしか無いって事か?」
「苗をある程度生長させる程度にとどめておけば、今から作っても来年の収穫には間に合うようになると思う。それより重要なのは土地を耕す事よ」
「と、言うと?」


ここのところこき使われているリーフは、疲れを隠そうともせず気だるげに机に突っ伏していた。リーフの魔法は植物の生長を早める事が出来るのだが、別に畑を耕せるわけじゃ無い。これからも収穫を見込めるような農地を作ろうと思ったら、予め耕した農地と肥料、そして埋められた種や苗が必要になるのだ。


そこで男手の出番だ。彼等は新しく用意された農耕具を肩に担ぎ、それぞれが担当する農地の開発を始めた。五人一組を一班とし、それぞれが米、麦、野菜と、それぞれの作物に合わせた形状の農地を広げていく。農地を広げると言っても草や岩がゴロゴロしている土地で簡単にはいかない。かなりの重労働のはずなのだが、不思議と彼等の顔に不満というものはなかった。疲労は当然しているだろうが、全員がどこか満ち足りたような、不思議な表情を浮かべている。


(まさか勝手に大麻を使ったんじゃないだろうな……)


重労働させられているのに笑っているなんて、訓練された社畜かヤバい薬に手を出している人間しか居ない――そう経験から判断した剛士が彼等を問いただしたところ、返ってきた答えは彼の予想もしないものだった。


「毎日腹一杯食べられるんですよ。新しい服や寝具に農耕具。おまけに一時的に税まで免除されているんです。ここまで良くして貰ったら、やる気になるのも当然ですよ!」
「そ、そうか……。頑張ってくれたまえ」


今の状態では税金を取れるはずが無いので、剛士は今日から二年間無税とする事を住民達に通告していた。とは言えこれは狙ってやったものではない。最初から彼等の税金など当てにせず、ただ労働力が確保したいだけだったので税金は別に無くても構わなかったのだ。しかし理由も無しに無税にすると調子に乗るぞと言うファングとナディアの忠告もあり、多少恩着せがましく無税としたところ、彼等は予想以上に感動して俄然やる気になったというわけだ。


十分な食料と新しい衣類、快適な生活環境を手に入れた彼等は額に汗して一生懸命働いている。久しぶりに物事が順調に進んでいる事に満足しながら、もう一方の気になる場所――港湾整備の進捗を確かめるため、剛士はその場を後にした。





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