【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

二十七時限目 現状は変わらない


 駅に到着すると、地元の中学生たちが募金活動を行なっていた。

 まだ一年生だろう彼、彼女たちの表情に笑顔は無く、無感情のままに控えめな声量で真っ白い募金箱を持って「可哀想な動物たちのために協力お願いしまーす」と、道行く人々に声をかけている。

 愛想笑いの一つくらいすればいいのにと思いながらも、友人たちに笑顔を見せるのが恥ずかしいとか思ってるんだろうな、とか考える。それか、頑張っている自分を表に出すのが嫌なのかも知れないし、その両方って場合もある。然しながら、『絶対に笑顔を作るものか』としている姿は滑稽に思えて失笑してしまいそうだった。

 そんな僕が目に止まったのか、女の子が一人、トテトテっと歩いてきて、すっと募金箱を差し出した。

「募金、お願いします」

 なにこれ、新手のカツアゲ?

「急いでるんで」

 そう言って立ち去ろうとしたら、ジロリと睨まれた。多分、あまり募金してくれる人がいないんだろう。

 募金活動するのは勝手だが、場所がよくない。

 こんな田舎の駅で募金をお願いしても、利用者なんて微々たるものだ。一時間粘って六〇〇円集まればいいほうなんじゃないか? 一時間に一、二本程度しか電車が来ない駅だから、利用者は時間ギリギリに向かう場合が殆どだ。早く改札を通り抜けたい利用者が多いので、募金なんて目もくれないだろう。だとするならば、駅前で募金活動するよりも、改札を抜けた先で募金活動したほうが、より成果を上げられる。

『募金活動をしたいから』

 と、駅員に事情を説明すれば、快く協力してくれるだろう。田舎駅の地元の中学だし、それくらいの協力は吝かではないはずだ。

 そう思いながら改札を抜けて振り向くと、募金箱を持った彼女が、退屈そうな表情でとぼとぼと声出しに戻っていく姿を見て、「なるほどね」と納得してしまった。

 ここで募金活動をしたところで、大した成果を得ることができないと、彼女たち自身も理解しているんだろう。だから、型式だけの「募金よろしくお願いしまーす」であり、可哀想な動物たちを救おうとは思ってない。『やらされている』と感じているから、声を張ったとしても気持ちは届かないんだ。だって、そもそも『気持ち』自体が無いのだから。

 果たして、不毛な努力をする必要はあるのだろうか? 大声で叫んだって、だれの耳にも届かないのなら、そもそも声を上げる必要はない。

『参加することに意味がある』

 なんておべんちゃらは、参加したいヤツが使えばいい。参加したくない者にとって、それは『努力の押し付け』に過ぎないのだ。徳だけを積みたいなら、教会に行ってお祈りを捧げたり、賛美歌を歌えばいいだろう。信じる者は救われる理論で言えば、そういうことになる。

 だけど、ノアの箱船に乗れるのは選ばれた者のみだ。

 崩壊したあとの世界を再建できうる技術を所持している者や、政治家のお偉いさんもそうだけど、国民の中でも高収入な上流国民貴族だけは無条件に乗れるのがノアの箱船の本質であると僕は思う。

 そういう捻くれた考えを持つ僕は、きっと最下層のクズ認定なんだろうな。『人がいい』とは、照史さんもよく言ったものだ。

 照史さんは、僕の本質を見抜いていたのかもしれない……。そうだとすると、照史さんも大概じゃないか。

 僕に残された選択肢なんて、だれかが操作した結果でしかなく、僕が選べる選択肢は〈服従〉ってことだけ。

 はあ……、朝から嫌なものを見せられたな。

 到着した電車に乗って、ガダンゴトンと揺られながら、胸糞悪くて唾を吐きたい衝動に駆られた。




 * * *




 平穏無事とは言い難いが、いつもより偉く時間が長く感じた電車とバスの移動距離を経て学校に到着した。

 梅ノ原駅から通う同学年の連中もいるだろうけれど、僕のクラスでは僕の他に数人程度で、その彼らも部活動へと向かう。だから、教室の自分の席に座る頃はいつも一人だ。

 老緑の黒板は綺麗に磨かれて、右端には今日の日付が書かれていた。左端にはプリント類が磁石で適当にいくつも貼ってあるけど、そのどれも読んだ試しがない。おそらく、重要な情報が記載されているはずだが、いまのいままで読まずにいても不都合はなかったから、今後も読まずに終わるんだろう。

「いい天気だねえ……」

 曇り空を眺めて皮肉を吐いてみた。

 朝の時間は退屈だけど、音楽に耳を傾けながら狸寝入りするのは結構気に入っている。そうしていれば、余計な挨拶をすることもないし、変に気を遣われる心配もない。申し訳なさそうに「今日は曇りだね」なんて天気の話題でも振らてみろ、陽水の『傘がない』を聴きたくなるまであるぞ?

 ここは都会ではないし、だれかに会いに街へ行こうとも思わないけどさ。だけれど僕は吃りながら、「ども」って返事をするんだろう。ども、だけにね! 熱盛り! ……失礼しました。熱盛りと出てしまいました。








【感謝】

 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。

【お願い】

 作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ

【話数について】

 当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪

【作品の投稿について】

 当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。

 これからも──

 女装男子のインビジブルな恋愛事情。

 を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ

 by 瀬野 或

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