【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
一時限目 最低最悪の出会い[前]
季節は五月──。
ある程度グループが形成されて、高校生活にも色が添えられ始める頃だけれど、僕の視界に映る世界は常に灰色一色単。頑是無い子どもだった頃の夢なんて、いまの僕には黒歴史ですらない。束の間に見た泡沫の幻想? いいや、単なる妄想でした。
今日も教室の窓辺で、イヤホンから流れてくるインディーズバンドの『バカヤロウどもへ!』というドブ臭い叫びを聴きながら気怠い表情で頬杖をついて、灰色の空をぼうっと眺めていた。
僕に友人と呼べる人はいない。
はっきり言ってクラスでは浮いた存在である。
そうだな、丁度あの空にぽつんと浮いている雲みたいな、あーんな感じ。とってもポエミーですね。それでも学校には行かなければならないのは、学校という場所は友人たちと遊ぶ場所ではなく、勉強をする場所だからと何度も自分に言い訊かせてきたけど、その言い訳も苦しくなってきた。
人生って、こんなものなのだろうか?
社会に出ても僕は一人で、無難な企業で働いて一生を終えるのだろう。
それも〈僕らしい〉と言えばそうなのかもしれない。
そうは言っても〈僕らしい〉ってなんだろうか?
と、アイデンティティクライシスに陥りそうな思考をどうにか遮断して、一時限目の準備を始めた。
一時限目は英語だ。
世界共通語とされている言語を学べるのは、とても有り難い。
僕は英語が大好きだ。
愛している、と言っても過言ではない。
大好き過ぎて『世界共通語は日本語でもいいだろう』とさえ、最近は思い始めているくらいだ。
大体、なんで英語が世界共通語なんだよ。
日本語は『奥の深い言語だ』って、そろそろ世界は気付こう? だいたいさあ? 日本へ旅行に来る外国人は、当たり前のように英語で話しかけてくるだろ?
ここは日本だぞ、英語が通用すると思うな!
ではでは、奥深い日本語の例として『ヤバい』という言葉を考えてみよう。
ヤバい、には二つの意味がある。
一つは肯定で、もう一つは否定。
イントネーションがちょっと違うだけで、両極端な意味になるってヤバくない? ……そして超・現代日本語だと『普通』という言葉は賛辞としても使用される。
『普通に凄い』
『普通に美味しい』
とか、ね。
僕の理解の範疇からかけ離れてしまっている日本語を、世界共通語として普通に推薦しようじゃあないか。
使い方、これであってる? ま、どうでもいいや。
そんな途方も無く下らないことを考えながら、今日も一日を過ごしてゆく。
なにも変わらない、穏やかな日常。
「今日の授業はここまで。ちゃんと予習復習してくるんですよー。高校は中学とは大違いなんですからねー」
授業が終わり、残すは帰りのホームルームのみ。
本日、僕はだれかと会話したでしょうか? そんなの決まってる。ノーだ。強いて発した言葉は『はい』という返事くらいなもので、それ以上は口を開いていない。
「ふぅ……」
酷く疲れたサラリーマンみたいな溜め息を零してから、机の横に引っ掛けてある鞄をガサゴソと漁り、ひっちゃかめっちゃかになっているイヤホンを取り出した。
「ですよねぇ……」
どうしてイヤホンというのは、こんなにも鞄の中で絡まってしまうのだろうか? かと言って結んでしまえばコードが痛むし、それならば、と携帯端末にグルグル巻いても、いつの間にかぐっちゃぐちゃになっている。なるほど、これは妖怪の仕業だな? どんな妖怪だよ、ウォッチ。
ぐちゃぐちゃに絡まったイヤホンを懇切丁寧に解してから、周りの声や雑音を断絶するようにイヤホンを耳に当てた。
そして、もう何度リピートしたかもわからない『馬鹿野郎!』を薄く流し、仮眠してから帰ろうって、鞄を枕代わりにして机に突っ伏し瞼を閉じた。
「おい、起きろよ」
朧げな意識の中、微睡みの奥の方で微かに僕を呼ぶ声が訊こえた。
「もうホームルーム終わったぞ」
誰だ?
僕の肩を揺すって、起こそうとしてくれている奇特な人は。
ああそうか、これは夢だ。
いやあ、危ない危ない。
うっかり友人が出来たのかと錯覚したじゃないか。
いくら僕の夢だからって、なかなか悪趣味な夢を見せてくれる。そう結論付けてもう一度瞼を閉じようとしたら、先程よりも大きく肩を揺さぶられた。
「二度寝すんなよ、ガチで! いい加減起きろよ、鶴賀!」
「んんっ。……え?」
強張った首をゆっくりと持ち上げて声がした右の机を向くと、そこには茶髪のイケメン君が呆れた顔で僕を見ていた。
僕の肩を懸命に揺すっていたのは『夢の中の友だち』ではなく、現実にいる人間だったのか……と、呆然としていると「やっと起きたか」って、イケメン君は溜め息混じりに呟いた。
「起こしてくれてありがとう。……ええっと」
このひと、だれ? ワッチャネーム?
そもそもこんなチャラそうなヤツ、このクラスにいたっけ?
ポクポクと頭の中の引き出しを開けようとしたが、閃きを合図する『チーン』は訊こえない。
奇特な人の顔を不思議そうに見ているのが癪に触ったのか、彼は少し苛つきながら「佐竹だよ」と呟いた。
「佐竹義信。もう一ヶ月だぞ? クラスメイトの顔と名前くらい覚えろっての……普通に、ガチで」
イケメン君、基、佐竹君は自己紹介しつつ、僕を睨みつけた。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
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コメント
ノベルバユーザー601490
タイトルに惹かれて読み始めました。まだイケメン君、が登場したところで、女装、には遠いですが、鶴賀くんの気怠い感じとか、あと設定の表現がとてもわかりやすくて入りやすいです(学校や周辺の環境とか…)。これからの鶴賀くんの変化を見守りたいと思います!