陽光の黒鉄
第33話 アメリカ政府の決断
「敵の補給路を断つ作戦ね……」
呂一〇は作戦の概要の説明を思い返しながら呟く。
今回、米艦隊への攻撃として計画されているのが、ハワイへの補給路を断ち、敵を戦わずして下す作戦だ。
アメリカ軍はハワイへの補給路を輸送船を使って行っている。つまり潜水艦を使ってこの航路を断つことが出来れば、ハワイの戦力と戦うこと無く無力化が可能だと考えたのだ。
しかし、これを行うには長期的な作戦を可能とする大量の潜水艦とそれらが円滑に行動できるよう補給、整備、乗員などの人員や物資が必要となってくる。それは生半可な量では無い。
「この作戦が本当に成功するのかしら?」
理論上では素晴らしく良く出来た作戦である。しかし敵だって、それ相応の準備を固めているはずだ。それに対抗するための策はあるのかという点に不安が残っていた。何せ、この作戦では将兵がどれほど疲れるのかをまるで考えられていない。ただでさえ、居住環境は最悪な潜水艦内で長期の作戦行動を敵地のど真ん中で取らねばならない。考えただけで身震いがしてくるレベルだ。
作戦を執る際には数隻の伊号潜水艦と呂号潜水艦が戦隊を組んで、敵の補給部隊に攻撃を加えることになっている。まず、呂号潜水艦が敵を発見し味方の潜水艦にこの情報を送る。その後、この電波に気付いた敵の護衛艦が呂号の周囲に集まってくるために、呂号は急速潜行で海底に鎮座し行方をくらます。
その間に情報を受けた味方の伊号潜水艦が敵に攻撃を加えるというのが戦い方となっている。
このために、呂号潜水艦は敵の囮になる必要があり、恐ろしい被害が出ると考えられているのだ。
「……」
呂一〇は不安げ空を見つめた。
空は夕焼で血のような真っ赤な色をしていた。
さて、太平洋方面は小競り合いはあるものの大きな海戦は落ち着いた。
そこで今度は大西洋に目を向けていこう。
イギリスは日本と同盟関係にあるために日米開戦の報を聞き、すぐにアメリカに宣戦布告を行った。アメリカとの一大決戦を行うことも海軍内では検討もされていたが、アメリカ本国付近ではアメリカ海軍の猛烈な反撃に遭うだけでは無く、航空攻撃に晒されることから、思うように手出しが出来ない状況であった。
そんな中、哨戒任務に出ていた飛行艇の一機がジブラルタルへと向かうアメリカ海軍の大西洋艦隊を発見したのだ。
この事態に接し、イギリス海軍はジブラルタルにいたH部隊の投入を決意。
さらにこの艦隊に本国艦隊の一部を付けて迎撃に向かわせた。
しかし、これがとんでもない大誤報で、実際はアメリカ海軍の哨戒隊であったのだ。本物の大西洋艦隊はイギリス本土を直接攻撃すべく、アゾレス諸島の北東六〇海里ほどを航行中であり、見当違いの部隊を攻撃してしまったのだ。
そしてイギリス本国にまで大分近づいてたときに初めて大西洋艦隊の狙いがイギリス本であることに気付き、本国艦隊は押っ取り刀で迎撃を行ったのだ。
大西洋艦隊は最初こそ、善戦したが、イギリス本土から来る航空部隊の攻撃や数の勝るイギリス本国艦隊の戦艦の猛攻により形勢不利と判断し目標を完遂することもなく撤退を開始したのだ。
この海戦の結果、アメリカ大西洋艦隊は戦艦六隻の内、旧式の戦艦のニューヨーク、テキサスが撃沈された。
逆にイギリス海軍は撃沈された大型艦は一隻もいなかった。「ロイヤルネイビーここにあり」ということを見せつけた海戦である。
追い打ちを掛けようとしたものの天候が悪化し、これ以上の追撃は不可能と判断したイギリス艦隊は追撃を止め、戦闘は終わった。
こうして大西洋を挟んでにらみ合いとなった両軍が目を付けたのがポルトガル領であったアゾレス諸島であった。
この島を巡り両国はポルトガルに圧力を掛けて我が物にしようとこの付近で幾度となく水上艦艇の小競り合いが起きている。
未だに戦艦などの大型艦艇は投入されていないものの、互いに大型艦艇を投入する作戦を立案中であり、大海戦は時間の問題と思われていた。
この戦いにはイギリスの本国艦隊の他、H部隊も投入されると考えられておりアメリカ海軍も本腰を入れる必要がある考えられた。
そのために太平洋艦隊から戦力を一部回したと考えられていたのだが、日本海軍との戦闘で大きく傷ついた太平洋艦隊は修理までに多くの時間が掛かる。
そこで白羽の矢が立ったのが比較的被害の少なかったウェストバージニアであった。
「大西洋に行けと……」
手に持っているのは本国から送られてきた命令電文だ。
「姉さんの仇討ちもする間もなく大西洋とはね……。戦争って言うのは忙しいものなのね」
ため息を尽きながら艦内へと入っていった。
米太平洋艦隊から引き抜かれた戦力はウェストバージニア、エンタープライズ、サラトガなどの被害の少なかった大型艦船である。こうした戦力が引き抜かれる関係上、ハワイを守ることは困難とされ、ハワイを破棄することを決断した。アメリカ政府はこの事態に対して、輸送船で民間人を一斉にアメリカ本土へと帰還させ、前線を一気に縮小し、サンディエゴまで退くことを決意する。
これで日本への攻撃はかなり遠い道のりとはなったが、アメリカ政府は決してその願いを諦めようという意志はサラサラ無かった。
こうして、アメリカ海軍はかつてない撤退劇を開始することとなる。
呂一〇は作戦の概要の説明を思い返しながら呟く。
今回、米艦隊への攻撃として計画されているのが、ハワイへの補給路を断ち、敵を戦わずして下す作戦だ。
アメリカ軍はハワイへの補給路を輸送船を使って行っている。つまり潜水艦を使ってこの航路を断つことが出来れば、ハワイの戦力と戦うこと無く無力化が可能だと考えたのだ。
しかし、これを行うには長期的な作戦を可能とする大量の潜水艦とそれらが円滑に行動できるよう補給、整備、乗員などの人員や物資が必要となってくる。それは生半可な量では無い。
「この作戦が本当に成功するのかしら?」
理論上では素晴らしく良く出来た作戦である。しかし敵だって、それ相応の準備を固めているはずだ。それに対抗するための策はあるのかという点に不安が残っていた。何せ、この作戦では将兵がどれほど疲れるのかをまるで考えられていない。ただでさえ、居住環境は最悪な潜水艦内で長期の作戦行動を敵地のど真ん中で取らねばならない。考えただけで身震いがしてくるレベルだ。
作戦を執る際には数隻の伊号潜水艦と呂号潜水艦が戦隊を組んで、敵の補給部隊に攻撃を加えることになっている。まず、呂号潜水艦が敵を発見し味方の潜水艦にこの情報を送る。その後、この電波に気付いた敵の護衛艦が呂号の周囲に集まってくるために、呂号は急速潜行で海底に鎮座し行方をくらます。
その間に情報を受けた味方の伊号潜水艦が敵に攻撃を加えるというのが戦い方となっている。
このために、呂号潜水艦は敵の囮になる必要があり、恐ろしい被害が出ると考えられているのだ。
「……」
呂一〇は不安げ空を見つめた。
空は夕焼で血のような真っ赤な色をしていた。
さて、太平洋方面は小競り合いはあるものの大きな海戦は落ち着いた。
そこで今度は大西洋に目を向けていこう。
イギリスは日本と同盟関係にあるために日米開戦の報を聞き、すぐにアメリカに宣戦布告を行った。アメリカとの一大決戦を行うことも海軍内では検討もされていたが、アメリカ本国付近ではアメリカ海軍の猛烈な反撃に遭うだけでは無く、航空攻撃に晒されることから、思うように手出しが出来ない状況であった。
そんな中、哨戒任務に出ていた飛行艇の一機がジブラルタルへと向かうアメリカ海軍の大西洋艦隊を発見したのだ。
この事態に接し、イギリス海軍はジブラルタルにいたH部隊の投入を決意。
さらにこの艦隊に本国艦隊の一部を付けて迎撃に向かわせた。
しかし、これがとんでもない大誤報で、実際はアメリカ海軍の哨戒隊であったのだ。本物の大西洋艦隊はイギリス本土を直接攻撃すべく、アゾレス諸島の北東六〇海里ほどを航行中であり、見当違いの部隊を攻撃してしまったのだ。
そしてイギリス本国にまで大分近づいてたときに初めて大西洋艦隊の狙いがイギリス本であることに気付き、本国艦隊は押っ取り刀で迎撃を行ったのだ。
大西洋艦隊は最初こそ、善戦したが、イギリス本土から来る航空部隊の攻撃や数の勝るイギリス本国艦隊の戦艦の猛攻により形勢不利と判断し目標を完遂することもなく撤退を開始したのだ。
この海戦の結果、アメリカ大西洋艦隊は戦艦六隻の内、旧式の戦艦のニューヨーク、テキサスが撃沈された。
逆にイギリス海軍は撃沈された大型艦は一隻もいなかった。「ロイヤルネイビーここにあり」ということを見せつけた海戦である。
追い打ちを掛けようとしたものの天候が悪化し、これ以上の追撃は不可能と判断したイギリス艦隊は追撃を止め、戦闘は終わった。
こうして大西洋を挟んでにらみ合いとなった両軍が目を付けたのがポルトガル領であったアゾレス諸島であった。
この島を巡り両国はポルトガルに圧力を掛けて我が物にしようとこの付近で幾度となく水上艦艇の小競り合いが起きている。
未だに戦艦などの大型艦艇は投入されていないものの、互いに大型艦艇を投入する作戦を立案中であり、大海戦は時間の問題と思われていた。
この戦いにはイギリスの本国艦隊の他、H部隊も投入されると考えられておりアメリカ海軍も本腰を入れる必要がある考えられた。
そのために太平洋艦隊から戦力を一部回したと考えられていたのだが、日本海軍との戦闘で大きく傷ついた太平洋艦隊は修理までに多くの時間が掛かる。
そこで白羽の矢が立ったのが比較的被害の少なかったウェストバージニアであった。
「大西洋に行けと……」
手に持っているのは本国から送られてきた命令電文だ。
「姉さんの仇討ちもする間もなく大西洋とはね……。戦争って言うのは忙しいものなのね」
ため息を尽きながら艦内へと入っていった。
米太平洋艦隊から引き抜かれた戦力はウェストバージニア、エンタープライズ、サラトガなどの被害の少なかった大型艦船である。こうした戦力が引き抜かれる関係上、ハワイを守ることは困難とされ、ハワイを破棄することを決断した。アメリカ政府はこの事態に対して、輸送船で民間人を一斉にアメリカ本土へと帰還させ、前線を一気に縮小し、サンディエゴまで退くことを決意する。
これで日本への攻撃はかなり遠い道のりとはなったが、アメリカ政府は決してその願いを諦めようという意志はサラサラ無かった。
こうして、アメリカ海軍はかつてない撤退劇を開始することとなる。
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