幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
118話 サラしかいない
「ここがロシアの街っすよ!」
「そ、そうだな」
昨日頼まれた通り、俺と姉とルーさんでロシアの街に買い物にやってきていた。
しかし、シンシアは昨日アマデオにされた事がずっと頭の中に残っており、冷静に何かを考える事が出来なくなっていた。
「シンシア、後で何があったか私に言いなさいよ」
「うん」
姉は既にシンシアの様子に気づいており、鋭い目付きで言ってきた。が、シンシアはぼんやりと遠くを見つめて一言返事しただけ。
これはただ事ではない、そう感じ取った姉はシンシアの事を心配しつつルーと一緒にロシアの街を回った。
◆◇◆◇◆
スーパーのような大きな建物の中に入って、3人は一緒に皆が食べそうな食材を選ぶ。しかしその間もシンシアはいつもよりぼんやりとしていた。
「シンシア! 迷子になるよ!」
「えっ? あっごめん!」
気付いたら姉もルーも離れたところにいて、急いで追いつくという事まであった。
シンシア自身にはいつもよりボケっとしているという自覚は無く。ただ皆動くのが早いな〜というような感覚で買い物に付き合っていた。
頭の中にたまに現れるアマデオとの熱いキスの記憶。思い出す度にアマデオに対する想いまで強くなってきた。
「シンシア、昨日何があったのか話して」
いい加減にイライラしてきた姉に聞かれた。
「……アマデオにキスされた……舌も使って……」
「っ!? あのガキッッ……シ、シンシアまさかアンタ
、それでアマデオの事がもっと好きになったんじゃないでしょうね?」
そう言われて何も言えなくなった。
ただ、このままじゃ自分は男らしくなくなってしまうという焦りがシンシアを襲っていた。
「……姉ちゃん俺このままじゃおかしくなる」
「元からおかしいじゃない」
「うん。だから数日間、俺に時間をくれ」
それを聞いた姉はルンルンと前を進むルーをそのままに、立ち止まってシンシアの話を聞いた。
「俺は絶対に男に対して恋愛感情を持たなくなる。そういう呪いを作る」
「……ア、アンタ……それはいくらなんでもバカすぎるわよ?」
「……なんで? 姉ちゃんは俺がホモからノーマルに戻るのが普通じゃないっていうのか?」
少し感情的になったシンシアを見て、姉はこりゃもうダメだと思い頭を抱えた。
シンシアがこうなってしまったのはアマデオがシンシアを誘惑。いや、それ以前にサラがいなくなって依存の対象を失ったしまった事が問題だ。
姉は色々とおかしな方向に進んでいってる現状を理解し、しばらく恋愛なんて話から離れようと思った。
「シンシア。もう私からも何も言わないから、1度恋愛の事なんて忘れて普通に家族として過ごそう? アンタ最近本当におかしくなってきてるわ」
「……自分でもそう思う」
人は恋愛が関わるとこんなにもおかしくなってしまうんだな、と。これならサラが俺の前だけ馬鹿になるのも理解できる。
「でもアマデオの事が忘れられなくて……」
アマデオの事を思う度に、切ないような、寂しいような、辛いような。不安を感じてしまう。
「アンタが今まで出会ってきた中で1番好きな人は誰?」
「……それは……」
「2人とも何してるんっすか〜!? 探したんすよ〜!!」
そこに丁度ルーさんがやってきた。
「会計済ませたら帰るっすよ! 1時間経っちゃうっす」
「シンシア。帰ってからも話すよ」
「う、うん」
シンシアは帰るまでの間、自分が1番好きな人が誰なのか分からずにいた。
アマデオでもないし、姉ちゃんでもない。お父さんでもないなら、俺は一体誰が好きなのだろう。
◆◇◆◇◆
施設の自分の部屋に戻ってきて、シンシアと姉は早速さっきの事を話し始めた。
「それで、アンタ結局誰が1番なの」
「1番……分からない」
「サラさんじゃないの?」
サラ。そう言われて、シンシアはそれだと確信した。
俺が1番好きなのはサラだ。サラがいないから色んな人に依存しようとして、でも自分のプライドが許さなくて。
サラなら……サラじゃないと俺はダメなんだよ。
「でもどうしたら? もうサラとは会えない」
「そこが問題よね」
姉ちゃんも何も考えていなかったのか……。
しかし、サラの事さえ思っていれば俺は悩むこともなく。サラに甘えて生きていける。
1人で強く生きるんじゃなかったのか、なんて思われそうだけど、俺にはやっぱりサラがいないとだめなんだ。今やっと気付いた。
「神様だからって毎日祈りを捧げるのも違うよな。何か……サラとどうにかして接触する方法を探さないと」
「おっ。いいよいいよ! 私が好きだった頃のシンシアに戻ってきてる!」
「な、なんだそれ。とりあえずお父さんに聞いてくる」
「私も行くわ」
サラを愛し続ける理由がほしい。依存できる対象が欲しい。それを探す為。
ついにシンシアはサラの為に動き出した。
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