幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
108話 懐かしい
シンシアとカゲイの2人は、施設内を1周して医務室に帰ってきた。
「もう終わり?」
シンシアはまだ遊び足りない、と言った様子でカゲイの手を強く握る。カゲイもまだ遊んであげたい所だが残念な事に仕事もあるのだ。
「ごめんね。次来たらシンシアに良い物を見せてあげる」
「ほんとっ? 分かった!」
「それまでゆっくり休んでるんだよ」
「うん!」
医務室の中にパタパタと走り出し、スリッパを雑に脱いでベッドの上に飛び乗った。ゆっくり休んでと言ったそばからだ。
「じゃあまた会いに来るよ」
「うん待ってる!」
シンシアは笑顔で手を振ってカゲイを見送った。しかし、心の中ではまだカゲイと一緒にいたいという気持ちが強かった。
1人になった空間で時計の秒針の音が妙に大きく感じる。ただただ何もしないまま時間が過ぎ去っていく音を聞いて、じっとカゲイが帰ってくるまで起きていた。
◆◇◆◇◆
「ふぅ……もっと遊んでやりたいんだがなぁ」
「まるで恋人同士みたいでしたよ」
食堂の椅子に座ってカゲイとサラは何気ない雑談をしていた。その内容はシンシアの事ばかりで、仕事のことなんて一切考えていない。
「そろそろ、アレを見せても良い頃だろうな」
「記憶が戻らなかったらどうするんですか?」
「戻らなかったらまた恋人みたいにデートするよ」
カゲイはニッコリと笑って窓の外の景色を眺めた。白銀の景色の向こう、そこに薄らと建物の並ぶ街が見える。
「カゲイさんってここの国の言語分かるんですか?」
「このってどこの国だっけ?」
「ロシアですよ」
「ロシア……さっぱり分からない」
「何かあったら困るので私も行きますね」
ロシア。それは異世界では聞くことのない国の名前であり、転移者や転生者は誰もが聞いたことのある国だ。
◆◇◆◇◆
「……遅い…………むぅ〜……」
シンシアは1人ベッドの上でまだかまだかとカゲイを待っていた。すぐ来るはずはないのに、布団にくるまったりベッドの上をゴロゴロと転がったり。
その様子はまるで好きな人の事を想う女の子のようだ。
──カチッ……カチッ……カチッ……
時が過ぎていく事に不安を感じてきたシンシアは、身体を起こしてはドアの方をじっと見つめて、落ち着ける様子ではなかった。
「シンシアちゃん起きてる〜?」
「っ?」
ドアの外から声が聞こえて、この声は誰だっただろうと思い出す。カゲイではない事は確かだ。
「あっ! 起きてたね!」
「こ、こんにちは……」
顔を見ても思い出せない。確か……サ……なんとかだった気がする。お菓子なんかを沢山持ってきてくれた人だ。
「暇してるかな〜って思って来ちゃった!」
「そ、そうですか」
変にテンションが高くて居心地が悪い。
「カゲイはまだ来ないんですか?」
「カゲイさんはまだ少しお仕事しないとダメなの。暇だから私と遊ぼうよ」
「……そんな気分じゃない……」
「そ、そう……」
シンシアは気分の上がり下がりが激しくなっていた。カゲイと会っている時は元気なのに、カゲイがいないと寂しくて息が苦しくなる。
「…………ぐすんっ……」
「えっ!? ど、どうして泣いてるのっ!?」
「えっ……?」
そう言われて目元を触ると体温と同じくらい温かい涙が流れていた。
「分かんないっ……なんでっ……?」
「え、えっと……ごめんねっ!」
女性はティッシュを取って涙を拭き取ってくれた。
顔に触れるティッシュの匂い、顔を拭かれるこの感覚。なんとなく懐かしい匂いがする。
「サラさん……でしたっけ」
「うん、私はサラだよ」
そうそう、この人はサラさんだ。やっと思い出した。
「すみませんサラさん……」
「何言ってるの。私は好きでシンシアちゃんのお世話してるんだから悪く思わないでいいよ」
「っ」
サラが優しく抱きしめてきて、一瞬視界が白く光った。
以前もこういう事をされたような気がする。上手く思い出せないけど、私はサラさんに何度も抱きしめられている。
「……うあっ……」
「……? シンシアちゃん?」
頭痛だ。凄く頭が痛い。
ガンガンと頭を殴られるような痛みに、視界と意識が揺れて薄くなる。薄くなっていく視界に……何か懐かしい景色が見える。
「シッ、シンシアちゃんっ!? ごっ、ごめんっ! 大丈夫!? どうしようっ……何が……」
こうやってサラさんがあたふたしているのも懐かしい……。
なんだろう、サラさんの事が好きだ。どういう感情なのかは分からないけど、サラさんがいないと私はダメな気がする。
シンシアは薄れていく意識の中、サラさんなら大丈夫と安心してそのまま倒れこんだ。
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