幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
105話 記憶
「試しに魔眼を使いながら魔法を使ってみて」
「よしっ……」
言われた通り、まずは手の平に火の玉を生み出してみた。
「あっ、魔素が集まってきてる」
「そう。そうやって魔素の動きを理解して魔法を使うと、更に細かい技術を取得できるの」
魔素が集まり、手の平の上で魔素が圧縮されていく。そうして球体になった瞬間に火の玉が現れた。
「魔素が圧縮されると魔力になるのか」
「体内での魔法は、体内で魔素を圧縮して使うんだけど、そうやって体外での魔法を使う時は空気中の魔素を変換するのよ」
身体強化や変身、魔眼や精霊の力は体内の魔力を消費する。
呼吸をする事で吸収できる魔力はほんの僅かだが、空気中に魔素を集めておいて後から一気に吸収……いや、それは無駄な事か。
「意外と扱いが難しいって事が分かったよ」
「そうね。それを完璧に扱えるようになれば更に──」
「っ?」
その時だった。
ふと、耳にバババババと聞き慣れたようで慣れない音が聞こえてきた。空気の振動の音。それは空から聞こえてきた。
ドラゴン? しかしドラゴンは音を発さない。しかしこの音は確実に聞いたことがある。
「……嘘だろ……!?」
空を見上げたシンシアの目に映ったのは──ヘリコプターだった。
「良く飛んでくるのよね。ルーさん曰くヘリコプターっていうらしいわ」
「知ってる……知ってるけど……なんでここに……」
シンシアは空を飛ぶヘリを見て、唖然としていた。
そのあまりの衝撃に、自分がシンシアだという事を忘れてしまいそうな程の衝撃。その音は日常に溶け込み、シンシアの中にある前世の記憶を蘇らせた。
「っ──!」
「シ、シンシアちゃん?」
──────
────
──
この記憶はなんだ……? 
瓦礫の中に前世の俺が居る。周りにはヘリコプターが飛ぶ音、そして瓦礫が崩れていく音に車の音。
瓦礫が動いた。
「……お父さん……?」
お父さんが俺を見て泣いている。何か叫んでいるけど分からない。
後ろで救助隊員が悲しそうな顔をしている。ここは俺の家? 
足元には、小さい頃から自分の身長を計って印を付けていた柱があった。その柱は俺の足を潰している。
家が潰れて……俺は死んだ? 何故だ? 近所の建物も潰れている。
俺は……地震で……────
──
────
──────
「シンシアちゃん大丈夫?」
「…………え?」
「急に意識を失ってっ……セシリータさんと一緒に医務室に運んできたよ。大丈夫?」
「…………誰……ですか?」
シンシアは消されていた地震の記憶を思い出してしまったショックで、全ての記憶を失ってしまっていた。
"誰ですか?" その一言に、サラは動揺を隠せなかった。
「シ、シンシアちゃん? 冗談だよね?」
「……?」
記憶を失ったシンシアは、ただ頭を傾けて難しい表情をするだけで一言も冗談だと言ってくれない。
サラは人の記憶に干渉する事ができない為、シンシアが本当に記憶を失っているのか分からない。そしてその記憶を取り戻す事もできない。
「ヘリコプターを見てから……やっぱり……」
サラはシンシアの記憶が無くなってしまった原因を考えて、すぐにヘリコプターだと気づいた。
そしてサラは何かを考えて立ち上がり、医務室から出ていった。
「……っ……頭が痛いっ……」
記憶を失ったシンシアは、頭を抑えて再び眠りについた。
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