幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
97話 ルーさんからの誘い
一先ず近くの安全な街までやってきたシンシア達は、そこの宿泊施設の部屋を調査隊のお金で全員分の部屋を借りることができた。
調査隊は気にせずゆっくり泊まってくれと言っていたので、有難く泊めてもらう事にした。
「あぁ〜……良かったぁっ……助かったぁぁっ……」
「良かったね〜」
シンシアはサラの膝枕を使いながら、今までの緊張を解していた。
サラも能力が完全に復活したみたいで、いつもののびのびとした調子に戻っている。
「シンシアちゃんと女神さんいるっすか〜?」
部屋の扉をノックされて犬耳の女性、ルーさんの声が聞こえてきた。
「いますよ〜?」
「失礼するっす!」
サラが返事をすると、ルーさんはすぐに部屋に入ってきて勢いよく二人の前に座ってきた。
「どもっす!」
「ど、どもっす」
片手をピッと上げて独特な挨拶をするルーさんに、シンシアも同じ挨拶を返すと嬉しそうに八重歯を見せて笑った。
「実はっすね! シンシアちゃんは魔法が大得意だと噂を聞いたんっすよ!」
「噂?」
噂とは……俺は一緒に洞窟に隠れていた人達なんかに魔法を見せた事はないのだが?
ふと何かあるなと思いサラを見ると、一瞬目を合わせてすぐに逸らされた。
「サラ、何かしたのか?」
「……ちょっとシンシアの事を洞窟の皆に話して自慢してた……だけ」
なんだそれくらいか。
「あくまでも噂なんで信用しなくていいですよ、ルーさん」
「そんな事ないっすよ! シンシアちゃんは私から見ても魔法使いの素質大アリっす!」
「あ、ありがとうございます」
するとルーさんは後ろにあるポーチから1つの紙を取り出して床に広げた。
「そこでっすね、シンシアちゃんに是非魔道士育成計画に参加してほしいっす!」
「魔道士育成……計画?」
また何か随分と怪しそうな名前の計画だな。殺し合いでもさせられるのだろうか。
そう思いつつ広げられた紙に目を通すと、この計画の目的や施設の写真が貼られてあった。
いかにも怪しい雰囲気を漂わせる白くて四角い建物。そしてその下にこう書いてある。
"魔法の道を往く者に悪い者はいない。いまこそ皆で1つの道を進もう。──一流の魔法使いを目指す為、この計画に参加する事がアナタにとって人生の分岐点となるでしょう"
「……怪しい」
「怪しくないっすよ! 活動内容は書かれてないっすけど、ここに行けばシンシアちゃんは強くなれるっす! どうっすか?」
「ん〜」
シンシアはルーさんの目を見て考えた。
調査隊の人が言うのだから問題は無いだろう。ルーさんの目も真っ直ぐ見ている。疑う必要はないようだ。
しかし活動内容が分からない事には不安しかない。
「寝泊まりする部屋、食事。全て用意するっすよ。最初はお試し感覚で入ってみて、楽しかったら本格的に参加するってのはどうっすか?」
「ん〜…………ん〜〜……」
なかなか自分の中で答えが決まらない。
しかし寝泊まり、食事まで用意してもらえるのは大きい。
「食事って好きなだけ食べてもいいのか?」
「勿論っす! 食べないと成長しないっすからね!!」
そういってルーさんはシンシアの身体を見つめた。
「あのな……言ってなかったが、俺は不老なんだ」
「ふろ……不老? って事はシンシアちゃんは一生その小さな身体のままっ……」
「おいなんで俺の身体見て絶望したような顔するんだ」
まるでこの世の終わりのような顔を見せたルーさんに対し、少しだけイラッとした。
「冗談っすよ! どうするっすか?」
「はぁ〜……行くよ」
「お試しするっすか?」
「いや、1度するって決めたんなら中途半端は良くない。参加するよ」
「決まりっすね!!」
するとルーさんは小さな手帳のような物を取り出して何かを書き始めた。
「なんだそれ」
「みっ、見ちゃダメっすよ!?」
「……? なんで?」
手帳を覗き込もうとすると、ルーさんは身体をくるりと回して回避した。物凄い目だ。
「恥ずかしい事も……書いてるんすから」
顔を赤くして小さな声でつぶやく辺り、やはりルーさんも女性なんだなとシンシアは納得した。
「……あっ、そういえば俺のローブと仮面」
「持ってるよ」
恥ずかしい、で思い出したローブと仮面。なんとサラがどこからか取り出した。
「持ってたのか」
「うん。無くしたら困るかなって思ってね」
「ありがとう」
この仮面がないと素顔を見られてしまうからな。
「よしっ、じゃあ今日休んだら明日にでも一緒に行くっすよ!」
「ん? ここに泊まってる人達は大丈夫なのか?」
「大丈夫っす! 2人に付いていくのは私だけっすから!」
なるほど。
「じゃあ明日はよろしくっすよ!!」
ルーさんはそう言い残して部屋から出て言った。
魔道士育成計画。色々と気になるが、魔道士を目指す近道としてはかなり良いのではないだろうか。
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