幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

96話 調査隊の仕事



「んん……」
「あ、起きたみたいよ」


 目を覚ますと、馬車に乗せられて森の中を進んでいた。
 この場所にはさっき救助に来た魔法使いの女性が1人乗っている。


「大丈夫?」
「えっ……サラは……サラはどこにいるんだ?」
「サラ? もしかして他にもいたの?」


 ……嘘だろ? サラ達は別の洞窟の中でずっと俺達の帰りを待ってるんだぞ?
 幸いこの道はアドニスと通った事があるから知っている。少し奥の方に行けばサラ達の洞窟がある。


「皆あっちで待ってるんだ!!」
「ひっ、1人じゃ危ないよっ! 私も付いていくから! ヒロト! 護衛任せたよ!!」
「おうっ!!」


 シンシアが走り出すと、あの魔法使いも追いかけてきた。


◆◇◆◇◆


「ここだっ……皆っ!!」
「シンシアちゃん!」


 良かった……全員無事に待っててくれたんだな。


「アドニスさんは? あと……その女性は?」
「アドニス……は分からない。この人は救助に来てくれた。ギルドの調査隊だって」


 すると洞窟の人達は一斉に集まってきた。


「助けに来てくれてありがとう!」
「俺達をこの森から出してくれ!!」


 皆、ギルドの調査隊を信頼しているようだ。しかし調査隊の魔法使いの女性は、信じられない物を見ているように目を擦っていた。


「あれ……貴女って……私がここに来る時に……」
「えっ?」


 あっ、これはサラが女神の仕事をしていた時に会っているパターンだ。


「そんな事より早く助けてください。皆何日もここに隠れてて、皆空腹なんです」
「わ、分かったわ。皆付いてきて!」


 なんとか無事に……いや、アドニスさんの行方は分からないが、森から抜けることができそうだ。


◆◇◆◇◆


 待ってくれていた馬車にやってきて、それぞれの馬車に乗り込む。


「あ、その子と……貴女はこっちの馬車で話しましょう」


 魔法使いの女性に言われて、ギルドの調査隊達が乗っている馬車に乗せられた。


「ん? 何かあったのか? ……その顔どこかで……」


 この馬車には狼の顔をした男とあのイケメン。それと犬耳を持った可愛い女性と魔法使いが乗っていた。


「もしやあの女神か」


 狼の剣士がそういうとサラは目を下に向け、そのまま顔を手で覆った。


「恥ずかしいっ…………! 女神なのにあんな洞窟で救助を待ってるなんてっ!」
「あははは! 女神さんってばもしかして引退したんすか〜っ?」


 犬耳の女性がサラの背中をペシペシ叩いてはしゃいでいる。


「ち、違うからっ!! 邪神のせいだからっ……うぅ〜……」


 恥ずかしそうにシンシアを抱きしめるサラに、調査隊の4人はシンシアに注目した。


「君は何なんだ?」


 あのイケメンが聞いてきた。


「お、俺は……」
「私の子供」
「「え?」」
「……え?」


 サラが変な事を言って、調査隊もシンシアも間抜けな声を出した。
 しばらくの間この空間は時が止まったように沈黙が続いた。


「私はシンシアちゃんの保護者になったの」
「じゃあこの娘は神の子っすか!?」


 犬の女性がシンシアの顔をぺチンと両手で挟んだ。お尻に生えた尻尾がブンブンと横に揺れている。


「ち、違うよ……この世界に来る時にサラが保護者になるって言ったんだ。本当の親子の関係じゃない」
「凄いっすね〜! 」
「女神から頼むとはな」
「確かにこの娘可愛いもん。付いていきたくなるよ」


 くぅぅっ……ここでも可愛いって言われるのか。


「お、おい! アドニスさんだっ!!」
「っ!」


 他の馬車に乗っていた人が突然アドニスさんの名を叫んだ。


「あっ! 危ないっすよ!」


 すぐに馬車から顔を出すと進行方向にアドニスさんが立っていた。
 生きていたのか、という安心。それとは別に何故こんな場所に1人でいるのかという疑問が生まれた。それに何か様子がおかしい。


「馬車を止めろ!」


 イケメン剣士がそういって馬車を止めると、剣をいつでも抜けるよう手を当てながらアドニスの元に1人で歩いていった。


「皆! アドニスさんの様子がおかしい! 近寄らない方がいい!」


 シンシアがそういうと、皆アドニスを見て静かに席に座った。
 皆いつものアドニスを知っている為、様子がおかしい事にすぐ気づけたようだ。


「シンシアちゃん、多分あれ邪神だよ」
「っ!? あ、危ないんじゃないか? 下手したら皆死ぬ……」
「大丈夫。邪神は神の力を弱める事はできるけど、基本的な戦闘能力は低いの。だから多分大丈夫」


 しかし、サラはシンシアの手を力強く握って様子を見守っていた。
 緊迫した状況になって森がザワザワと騒ぎ始めた。邪神とイケメン剣士は何か話しているようだが、全く聞こえない。


「っ! まずいっ」


 突然、邪神の身体から巨大な黒い霧が現れて馬車を包もうと広がり始めた。


「大丈夫っすよ〜」


 犬耳の女性が軽く指を鳴らすと、馬車全体に透明な結界が貼られて霧が入ってこなくなった。


「女神さんも、力が弱まってなかったらこれくらい簡単っすよね」
「うん……弱まってなかったら今頃邪神を封印してたんだけど……うぅっ恥ずかしいっ……」


 サラはシンシアを抱きしめて赤面した顔を隠した。


 一方、結界の外の様子が黒い霧に包まれていて何も見えない。一体何が起きているのだろうか。


「そういえばウチらの自己紹介がまだだったっすね! ウチはルー! これは元々あだ名だったんす」
「ルーさん……ですか」


 自己紹介する余裕がある、ということは心配する必要はないんだな。


「あ、私はヒナタ。よろしくねシンシアちゃん。それと女神様」
「俺はナオだ」


 狼の男が自己紹介をしてすぐ、外にあった黒い霧が一気に晴れていった。
 そこには優雅にこちらに歩いてくるイケメン剣士と、後ろでワタワタと周りを見渡して不思議そうな顔をしているアドニスさんがいた。


「そしてアイツが、ナルシストのヒロトだ」


 ヒロトはカッコよく馬車に飛び乗って椅子に座ると、前髪をフワリとかきあげた。


「アドニスさんは無事だ」


 確かにナルシストでウザい。しかしカッコイイ事は事実な為、自分をイケメンと自覚したイケメンはこうなるのだな〜と納得してしまった。
 アドニスさんは泣きながら皆が乗っている馬車に乗り込んで、嬉しそうに皆と話していた。


「良かった〜……邪神は逃げてったみたい。良かったねシンシアちゃん」
「あ、ああ……皆さんありがとうございます……」


 シンシアが調査隊に頭を下げると、皆ニカッと笑った。


「これが調査隊の仕事なんだ (なんすよ) (です)」


 シンシアは、不覚にも調査隊がカッコイイと思ってしまった。
 男心を擽るヒーローのような存在に惚れてしまった。


「無事で良かったな」


 イケメンのヒロトが頭を撫でると、シンシアは顔を赤くして下を向いた。


「あれ〜? もしかしてヒロトに惚れちゃったっすか?」
「えっ……シンシアちゃんそうなの?」
「な訳ない……」


 でも何なんだこの気持ちは……頭を撫でられても嫌じゃない……。

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