幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
95話 危機
「んっ……」
冷たい感覚で目を覚ますと、シンシアは暗くて狭い鉄の檻の中に閉じ込められていた。
縄で両手両足を皮膚にくい込む程しっかり結ばれており、擦れて痛くなってきている。口には猿轡をされていて喋る事ができない。
その時、鉄の檻が大きく揺れて頭を打ち付ける。
「んぐっっ……っっ」
鉄の檻の唯一の窓からゴブリンが顔を出して、ニヤニヤとこちらを見ている。
どうやらシンシアはゴブリン達に捕まってしまったようだ。
逃げ出す事は可能だ。しかし、魔力切れ覚悟で逃げ出したとして途中で倒れてしまっては意味がない。なんとかして逃げ出さなければならないのだが、ここがどのくらいの広さなのかも分からない。
逃げ出した先にオーガの群れがいたら、自分1人では対処できない。
「ふ〜っ……」
猿轡で息が吐きにくいが大きなため息を吐いた。
とりあえず今はここにいた方が安全だろう。もし何かされる時が来たらその時逃げ出せば良い。
そんな事を考えていると、ふとアドニスを思い出して死んでしまったのかと心配になる。
檻の外を見れないのが残念だ。
シンシアはしばらく、何かと理由を付けて動こうとしなかった。心の奥では恐怖を感じていたのだ。
◆◇◆◇◆
ぼんやりと冷たい鉄に頬を当てて寝ていると、再び檻が大きく揺れた。そう思ったら今度は逆さまにされた。
──ガンッ
「んっっふ……」
この檻は横幅が狭く、頭を地面に打ち付けて苦しい体勢のまま再び放置された。
頭に血が登ってくる。しかし、この状態だと窓の外の様子を見ることができた。
オーガ達が若い女性達で遊んでいたのだ。
シンシアくらいの幼い女の子から、クラリスくらいの大人の女性まで。汚い地面の上に寝せられていた。
オーガの数は見ただけでは20体。これでは檻から逃げ出しても一斉に襲われて死ぬだけじゃないか。
シンシアの息が荒くなる。
あの女性達と同じ目に自分も会うのかもしれない。手足を拘束されたまま叫ぶ事も出来ずにただ延々と。
ここにいるほとんどの女性は既に理性を失っていて、遠くの方をぼんやり見つめている。
「ふーっ……ふーっ……」
自分は絶対にああなりたくない。それなら最後に抵抗して死ぬ方がマシだ。
「っ!」
1人の女性が目の前を走っていった。拘束から逃れたのだろうか。
しかし、ほんの数秒後にグシャッという肉と骨が潰れるような音がして、目の前に大量の血が流れてきた。
その瞬間、シンシアには死に対する恐怖が襲ってきた。
それから真っ赤に血濡れた鉄の金棒を持ったオーガが、シンシアの檻を掴んで運び出した。
まさか……今から俺も……皆のようになるのか?
「んん〜っっ!!! んっ!!」
死にたくない。しかし、他の女性のようにもなりたくない。どうする事もできない状況にシンシアはただ声を出すしかなかった。
◆◇◆◇◆
シンシアは檻から出されて汚い地面の上に寝かせられた。
オーガはいつでも殺せる、と金棒を持って威嚇しながらシンシアの服を切っていった。
既にシンシアは諦めており、このオーガに敵意を見せてはいけないと必死に別の場所を見つめていた。
今から何をされるのか分かっている。でも、生き延びる為にはそれを受けなければならない。
アドニスに殴られた時、「生き延びろ」と聞こえた気がした。──死にたくない。
完全に裸にされてしまい、シンシアは悔しそうに涙を流していた。
オーガはそんなシンシアを見て息を荒くした。
「んっ……」
何かが下腹部に触れた。
その時、急に周りが騒がしくなった。
ゴブリン達がギャーギャーと叫びながらこの暗い洞窟にやってきた。
楽しみを邪魔されて不機嫌になったオーガがゴブリンの元に行って何かを話している。しかし魔物の言葉はシンシア達には分からない。
「ふっ…………ふっ…………」
一先ず助かったと安堵の息を吐くシンシア。
しばらくすると洞窟にいるオーガとゴブリン達は武器を持って出ていってしまった。
「…………?」
何が起きているのかは分からないが助けが来たのだろう。
シンシアはしばらくの間女性達の辛そうな呻き声を聞きながら待っていた。
そしてついに2人の人間が入ってきた。たった2人でどうやってここまで来たというのだろうか。
「うっ……酷い有様だな」
「早く皆を助けて安全な場所に届けないと」
黒髪で返り血に染まった鎧を着た男と、いかにも魔法使いだと分かる見た目をした女性。2人は手分けしてここにいる人間達の拘束を解いていった。
死体を見てキツそうな顔をしていたが、そういう物を見るのに慣れているのかすぐに助ける為に戻った。
そして男がシンシアの元にやってきた。
「おっ? お前はまだ無事だったんだな。良かった」
男はそういって拘束を解いた。
「あんた達は……?」
喋れるようになったシンシアは、すぐにこの男が何者なのか聞いた。
「俺らか? ん〜……言っても分からないと思うが、ギルドの調査隊だ。俺が来たからにはもう大丈夫だ」
そういってシンシアの手を握って立たせてくれた。
ギルドの調査隊というと、異世界人の集まりだと都市マリーネで聞いた。この気持ち悪い程のイケメンと向こうで人を助けている女性も異世界人なのだろう。
「っ……助かった……」
強いと有名のギルドの調査隊が来たことによる安心感で、そのまま眠ってしまった。
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