幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

93話 監視塔の中



「神様にしか使えない魔法を、ほんの少しだけ使えるようにする魔法。普通の人が使うと身体的ダメージが大きいから、少しだけなら使っていいよ」
「そ、それは……神の魔力じゃなくても大丈夫なのか?」


 人間の魔力と神の魔力は別物だ。神の魔法が神の魔力でしか使えない場合、シンシアは神の魔力を身体に入れなければならない。


「人間の魔力を消費するの。だけど気を付けて使ってね。
 創造魔法、無から新たな物質を生み出す魔法。空間魔法、空間を切り取ってその中を自由に操作する。時空魔法、時を操る。
 扱いだけには気を付けてね」


 でもそんな魔法が使えるようになったのなら、使った方がきっと良い方向に状況は進む。


「それをサラの代わりに使うって事なのか?」
「それもそうだけど、使うのは守りたい物を守る時に使ってほしいの。もし加減を間違えて使っちゃったら、シンシアちゃんの身体は崩壊するから」
「分かった」


 サラの力を使えるようになった。しかし、弱めに抑えて使わなければ俺の身体が崩壊してしまう。
 もし、サラや他の皆に危険が及ぶような事があれば、シンシアは自分の身体を崩壊させてでも守るだろう。


 その時が来たら。と、シンシアは死ぬ覚悟を既に決めていた。


◆◇◆◇◆


 次の日、再び朝からシンシアとアドニスは外に出て物資を探すことにした。


「サラ達、もし何かあったら洞窟の奥に逃げるんだぞ」
「大丈夫だよ。シンシアちゃんこそ気を付けてね」


 サラと手を振って洞窟の外に出る。


「今日は少し離れた所にある監視塔に行く。常に覚悟はしておくんだぞ」
「あぁ、分かってる」


 その覚悟というのは、魔物達に見つかってしまう事だ。見つかってしまえば殺される。女の場合は……分かるだろう。
 常にその事を頭に入れながら、2人は離れた監視塔へ向かう。


 生い茂った草木が風で揺れる音は実に心地よいが、この森は今では一度入ったら出られない魔の森と化している。そんな中をこっそりと進んでいく2人の心境はというと、かなり冷静だった。
 周囲にゴブリンの姿が見えないか常に確認し、音で探り、足跡を見てどこにいるか予想する。
 しかしゴブリンの部隊は1つだけとは限らない。複数のゴブリン達が森を動き回っている為、予想外の所で出くわす可能性もある。


 何度か危ない状況になったりして、そろそろ心が折れそうになってきた頃。シンシアの目に石の塔が見えた。


「ついた、監視塔だ。あそこは以前村の者達が周囲を監視する為に寝泊まりする場所でもあった。今日の夜はあそこで寝て、日が登ってから見つけた物を持って帰るとしよう」
「それを何度も繰り返すんだよな……気が遠くなりそうだ」


 1度に大量の物資を運ぶことはできない。移動時間、体力、そして魔物に見つかりやすくなるデメリットが発生するからだ。その為、少しずつ物資を運んでいくしかない。


 2人は監視塔に駆け寄り、木の扉から中に入って内側からすぐに鍵をかけた。といっても木の板を挟んで外側から開けれなくするだけの簡単な作りである。


「ふぅ……この塔は4階と地下がある。登るのは大変だろうから、シンシアは地下に行くといい」
「あぁありがとう。じゃあ何かないか探してくる。アドニスも気を付けて」
「おう」


 2人はそこで別れた。


◆◇◆◇◆


「暗いな……ケホッケホッ……」


 地下はかなりホコリだらけで、息をするだけでむせてしまう。
 手で口を抑えながら、炎を手の平に生み出し明かりで地下室を照らす。


「お……缶詰! それに果物まである!」


 なんと。地下室には大量の食料が蓄えられていた!


──グルルルルルル
「……」


 美味しそうな物を見てお腹が空いてしまった。
 ここ最近ロクな物も食べれず、魔力も少なくなってきていた頃だ。少しくらいなら食べても良いだろう。


「缶詰……缶詰っ……」


 缶詰を二つ程持って、どこか隠れられる場所はないかと地下室の他の場所を探索する。


──ゴツッ
「ん? 何か蹴っ──!?」


 女の人の裸。死体、いや生きている。頭に黄色い耳とフワフワの尻尾がある為、キツネの獣人族だろうか。
 裸の獣人族が何故こんな所で寝ているんだ? それも裸……まさかゴブリン達にここに連れ去られてきたのか。


──グルルルルルルルルル
「っ……とにかく今は飯だ……」


 シンシアは地下室の端っこに隠れて、缶詰の蓋を魔法で切り落とし手で掬って食べ始めた。中は魚のようだ。


「美味い……生き返る……」


 温めた水と野生のキノコを食べてるばかりの正解だったが、ここにある食料を持って帰れば皆喜んでくれるだろう。


「……うめぇっ……」


 久しぶりの美味しい食事に、シンシアは泣きながら二つ目の缶詰を開けた。
 味がある。それだけでこんなに幸せだと感じた事は無い。


「もっと食べたいけど……サラ達の分も残さないとな……」


 シンシアは食べ終えた缶詰を隅っこに隠して、再び地下室に何かないか探し始めた。


◆◇◆◇◆


「おぉっ!! こりゃ随分と豪華だ!」


 上の階を探索していたアドニスも地下にやってきて、2人で大喜びだ。


「このキツネの娘は生きてるのか?」
「ああ、寝息も聞こえる」


 スースーと落ち着いた寝息だ。


「よし、一先ずここは安全みたいだ。今晩ここに泊まって明日ここにある食料を持って帰ろう」
「あぁ……楽しみだ」


 2人は明日の朝まで地下室で過ごすことにした。

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