幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

90話 外は危険だ



 洞窟の中で、1人の大男に案内されて奥の椅子にテーブルを挟んで向かい合って座った。


「ここには何の目的で来た?」
「仕事の依頼で荷馬車の護衛をしていた。ただ……その道中で人々の焼死体やらを見つけて、その後大量の魔物に襲われたよ」


 すると男は頭を抱えてため息をついた。


「はぁ……まあ生きてただけ良かったな。ここで何が起きているか簡単に説明しよう」


 それから男はテーブルの上にあるカンテラに明かりを灯し、事の発端から話し始めた、




 ある日、何も無い小さな村に見知らぬ男がやってきた。村の人はその人を旅人だと思い食事を振舞っていたりしていたらしい。そんな中、村の人が魔物に襲われて死亡するという事件が発生した。村の人は旅人に魔物退治をお願いしたが、駄目だと言って村を出ていってしまった。
 それからだ。村周辺に大量の魔物が現れて、まるで軍隊が指揮されて動いているかのように人間を殺し始めた。近づく者全て殺そうと、まるで人間のように知識が手に入れたかのように。


 そうして村は一気に魔物達に滅ぼされ、今こうして暗い洞窟で身を潜めて生きているらしい。


「まあ、この洞窟でも食い物は作れるし湧き水もある。村一番の鍛治職人も、料理が得意な婆ちゃんもいる。ここで死ぬまで生きてろってのはそう難しくない」
「……確かに、この人数では魔物と戦うには厳しいな」


 見たところ戦える人間は5人か6人。サラは力が弱まっているし、その原因も分からないんじゃあ外に出るのは危険だ。


「村のもんが言うには、あの男は邪神なんだってよ」
「邪神? サラ、その可能性はあるのか?」


 邪神と聞いてすぐさまサラに聞いた。


「……邪神しかないと思うよ」


 それからサラはシンシアの耳元で、周りに聞こえないよう小さな声で呟いた。


「神の力を弱める事ができるのは邪神だけなの」
「そうなのか……」


 あのダンジョンで見つけた精霊の予言書は本当だったんだな。しかし、まだ邪神による被害地域はこの周辺だけだ。これからどんどん拡大していく前になんとか止める方法を探さなければならない。
 でないと……いや、国の力を持ってすれば魔物達には対抗できるか?


「外に出て逃げようと考えた奴もいたが、やめといた方が良い。魔物に狙撃されて終わりだ」
「いや、どうにかできる手段を見つけないと……」


 しかしどうする事もできない。馬車を失った今、結界を張りながら逃げたとしてもオーガの群れにやられるだけだ。
 転移魔法陣は魔力消費が増えるから消してしまっているし、このままここに残るしかないのだろうか。


「君達は戦えるのか?」
「お、俺は一応戦えるが……」
「私が戦ったとしてもゴブリンに傷を付けることすら出来ないと思います」


 サラの力も弱まってしまっている以上、人間の力でどうにかするしかない。
 邪神。なんて危険な存在なんだ。


「ここに来てしまったからには、ここにいる皆と仲良く暮らしていくしかない。よろしくな」
「っ……よろしく」


 握手をしたものの、ハッキリ言ってこれからどうしたら良いのか分からない。
 この洞窟の中で生活なんてストレスで死んでしまうだけだ。


「君達の寝床はあそこだ。人が沢山いて大変だろうが、この状況だ。そこで寝てくれ」
「分かった」


 きったこの周辺はベネディですらも近づけないだろう。せめてあのモフモフを堪能しながら眠りたかった所だが、我儘は言えない。ここの人達は不便な生活を毎日続けているのだから。


 シンシアとサラは寝床に向かうと、暇そうな子供達がこちらを見つめてきた。


「……サラ、どうにかする方法はないか?」
「うぅ〜ん……神様じゃないサタナキアさんに頼むしか……でも厳しいなぁ〜……」


 サタナキアというと、以前シンシアを鬱寸前にまで追い詰めた極悪な大悪魔である。許せない。


「前に話したんだけどね、サタナキアさんって色々忙しい人なんだって」
「忙しい?」
「悪魔達を暴れさせて破壊衝動を抑える為に悪魔界で内戦してみたり、大悪魔としての仕事とか……後はクロア様の家で皆とのんびりしたりとかするって言ってた」


 のんびりするって忙しくなさそうだけどな。


「それにサタナキアさんが私達の状況に気付けるかどうか……ここで何が起きてるのかって、遠くにいた私でも分からなかったの。だから一定範囲は神の力が行き届かない特殊な結界が貼られてるのかも。でも大悪魔のサタナキアさんなら……どうなんだろう」


 珍しくサラが不安そうな顔をして色々と考え込んでいる。流石に神の力を弱められてしまえば何も出来ないのだろう。


「ごめんねシンシアちゃん……保護者の私が足手まといになっちゃって」
「あ、足手まといなんかじゃない。居てくれるだけで安心するよ」


 もしサラがいなくて、自分1人でここで生活するってなったら寂しくて耐えられないだろう。それどころか1人で逃げ出して魔物に殺されていたかもしれない。
 そう考えれば、サラの存在はかなり大きい。


「ごめんね……」


 しかしサラは謝った。


「サ、サラ。少し元気だそう。サラが元気ないと俺まで辛くなってくる……一緒に寝よう」
「ごめん」


 同じ寝床に横になって、シンシアはこんな状況に気にしててもしょうがないと仮面を外して目を閉じた。
 サラと手を握りながら固くて冷たい寝床の上。シンシアは生きて帰れるのかと、ずっと頭の中で考えていて眠れなかった。


◆◇◆◇◆


 シンシアが目を覚ますと、周りの皆はまだ眠っていた。


「シンシアちゃん……まだ一緒に寝てよう?」
「っ……そうだな」


 身体を起こしたシンシアだが、サラに腕を握られて横になった。


「さっき、私達と話した男の人が外の様子を見に行ったよ」
「そうか。あの人は寝てないのか?」
「うん。皆が寝ている間に魔物がきたらダメだからって、ずっと起きてる」


 ダメだ。俺には耐えられそうにない。


「今は朝か?」
「日が登ってから結構経ってる。お腹空いたでしょ」
「ま、まあ……でも食べ物が入ってるリュックは逃げる時に馬車に置いてきちゃったし」
「食料はあるって言ってたし、後で貰いに行こうね」
「……そうだな」


 でも今は動きたくない。このまま横になってるだけの方が何も考えなくて楽かもしれない。
 まるで鬱の時と同じような思考になってきたシンシアは、サラの手を強く握って再び目を瞑った。

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