87話 結局皆そう言う

「飛んだぞ！ 皆バラバラに動けっ！ 集まってるとあの剣の餌食になるぞ！！」


　作戦は良いと思うが、それだと結界を広い範囲に広げないといけない為にシンシアの魔力消費は増えてしまう。
　高く飛び上がった巨大なオーガは、グルグルと身体を回転させながら大きな部屋の中を縦横無尽に飛び回っていた。


　壁に刀を突き刺し、まるで巨大なタイヤが部屋中を走り回っているかのようだ。しかし実際には巨大な剣を振り回す化け物。もし結界を晴れる魔法使いがいなければ全滅していただろう。


──バンッ
「んっ？」
「嬢ちゃんっ！」
「っ──！？」


　突然、太股に穴が空いた。


「あぐっっ──……」


　あまりにも速すぎて忘れていた。あのオーガの肩には銃を待ったゴブリンが２匹いる。下半身をオーガの肩に埋めて、上半身のみを上に出し固定砲台を操っているようだ。
　その弾丸をふとももに受けてしまったシンシアは、足の力が抜けてその場に膝を付く。


「シンシアちゃんっ！ ごめんっ、気づけなかったっ！」
「い、いや大丈夫……ありがとう」


　すぐにサラに治癒魔法をかけてもらい回復する。
　どうやら相手は結界魔法を使う魔法使いを狙っているようだ。


　高速で移動しながらガリガリと結界にダメージを与えていき、更にゴブリンによる正確な射撃。これは相当厳しい戦いになりそうだ。


「魔法使い！ 敵の攻撃に注意しながらボスの腕に攻撃を与えろ！！」
「はっ、速くて攻撃が当たりませんっ！！」
「動きを止めれる方法はないのかっ！？」


　オーガは常に動き回っている。
　ゲームを思い出すな。マップ外に飛んで長時間帰ってこないモンスターがいた。
　しかしこっちは違う。動きは早いものの攻撃をする為に近距離まで接近してくる。


「俺が色々と試してみる！ 言い方は悪いが、皆は的になってくれ！！」
「分かった！ 任せてくれ！！」


　シンシアは即興で考えた魔法のイメージを結界に載せる。魔力消費量が増えてしまうが、これが可能ならば大きなチャンスとなる。


「また攻撃が来るぞっ！」


　オーガが壁を伝って１人のハンター目掛けて刀を振るう。
　その刀が結界に触れた瞬間、ドウンという今までに聞いたこともないような音がした。そしてオーガの高速回転が止まり、その場で立ち止まった。


「おぉっ！ 攻撃チャンスだ！ 撃てっ！！」


　それと同時に魔法使い達がオーガに向けて魔法を撃ち始める。


　今のはどういう事かと言うと、このオーガは動きが速いものの攻撃に威力はないとサラが言っていた。ならば、結界に触れた瞬間にオーガの攻撃の威力以上の力の衝撃を反発して与えるだけである。
　更に簡単に言うと、オーガが攻撃した時にそれを倍の力にして空気を放出するだけの事。そうしてオーガの回転を止めることに成功した。


　シンシアもすぐに氷の刃を飛ばすが、オーガは全員の魔法を刀で弾いてしまった。動きは速い為に防御も咄嗟にできるのだ。


「────────っ！！！！！！」


　その瞬間、オーガが声とも雄叫びとも言えない大きな音を発した。その場にいる全員が耳を塞ぎ、オーガから発せられた衝撃波で遠くへと飛ばされる。


「よっと」
「あ、サラありがとう」


　軽い身体で吹き飛ばされたシンシアの身体をサラが受け止める。


「サラ、どうしたら良いと思う？」
「もし私がいなかったらどうしてた？」


　サラがいなかったら……？ そういえば、俺はこのダンジョンで更に助けられてばかりいた。それじゃあ俺が旅をしている意味がないじゃないか。


「ごめんサラ。俺1人でなんとかしてみる」
「シンシアちゃん１人じゃない。ハンターの人達皆と強力するんだよ」
「……そうだな」


　サラの腕から降りたシンシアは、素早くて巨大なオーガを倒す方法を考える。オーガは再び攻撃から逃げるように天井高くまで登っていってしまった。


　最初に思い付いたのは、自分の身体に結界を貼っての特攻だ。至近距離に近づいて武器を奪う。もしくは破壊する。
　しかしその場合戦いに集中する為、他のハンターに結界を貼ることが出来ない。


「はぁ〜……１人だったら戦いやすいんだけどな。誰か魔法使いで俺の代わりに結界を貼れる人はいるか？」


　尋ねてみると１人手を挙げた。


「私……少しだけなら……貼れる」
「分かった。じゃあオーガが攻撃してくる場所に結界を貼る事を意識してくれ。それ以外には貼らなくていい」
「でも……どうするの？」
「俺に任せろ。皆を1箇所に集めててくれ」


　ハンター達が全員集まるまで、全員に結界を貼ってオーガの攻撃から守る。


「集めた……大丈夫？」
「ああ。じゃあ皆の事は任せた」
「おい嬢ちゃん何する気だっ！！」
「まあ見てろ！」


　シンシアは両手と両足に魔法陣を生み出し、空気を放出してまるでバネで飛んでいるかのように空へと飛び上がる。空を走っているようにもみえる。


「さぁ来いっ！」


　オーガは予想通り。結界魔法を使えるシンシアに向かって、壁から離れ接近してきた。


「ギリギリ……ギリギリを狙え……今だっ！」


　一瞬で目の鼻の先にやってきた刀を、手の平の魔法陣から放出した空気で弾き返す。
　そうして回転の止まったオーガの腕に乗り、一気に顔の方へと走る。


「あの子……オーガの身体の上を走ってやがる……」
「あれほどのデケェ身体だ。小さい身体のあの子なら走れるだろうよ」
「で、でも肩のゴブリンがっ！」


　オーガの肩にいるゴブリンが近づいてくるシンシアに銃を乱射してくる。


「ゾーンに入った俺の集中力舐めるなよっ!!」


　全ての弾道を見切り避けながらオーガの顔へ近付く。しかし、近付く事にゴブリンが売ってくる弾丸が着弾するのも早くなる。


──チッ
「っ……流石にもう無理か」


　弾丸が頬を霞めた。ヒリヒリと痛むので、シンシアは一気に飛び上がり空気砲を使い空中で方向転換をする。


　しかしそれもゴブリンの正確な射撃によって、手足に傷が入っていく。なんとか致命傷は逃れているものの、痛みに弱いシンシアにとってはかなり辛い。


「くっ……」


　涙目になりながら、体勢を立て直そうとするオーガの顔に近付く。いや、既にオーガは体勢を立て直していた。
　シンシアのすぐ横まで刀が迫ってきていたのだ。


「しつこいっ……野郎だっ！！」


　その場で後ろを振り向き、両手で空気を放出して刀を吹き飛ばす。
　その勢いでシンシアは更に加速をし、一気にオーガの顔へ着地する。


　アドレナリンがバンバン湧いてきて、シンシアはトドメを刺すことだけを考えて魔力を放出した。


「死ねっ！！！！」


　オーガの顔に熱を放出する。


「ガッ……ガ…………」
──バンッ！！


　オーガの顔は破裂し、肉片や牙、骨が周りに飛び散る。
　破裂する程に熱せられたオーガの血液を全身に浴びたシンシアは、もう少し考えて殺せば良かったと後悔しながらオーガの身体と共に落下していった。


◆◇◆◇◆


「ぅぅ…………んっ……？」
「シンシアちゃん大丈夫？」


　目を覚ますと、サラがシンシアに治癒魔法をかけていた。どうやら全身火傷していたようだ。


「魔力切れを起こしてたから、魔法使いの人達が魔力を分けてくれたんだよ」
「あぁそうなのか……ありがとう」
「シンシアちゃんのお陰で無事皆生きて攻略することができました！！ お礼を言うのは私達の方です！！」
「そうだ！ ありがとうな嬢ちゃん！！」
「ナイスファイト！ カッコよかったぜ！」
「よく頑張った」


　ハンター達に頭を撫でられて嬉しいような嬉しくないような……でも褒められるのは正直嬉しくて皆と一緒に笑った。


──パキッ
「あっ……」


　熱せられた仮面がついに割れてしまった。


「可愛いっ……！」
「や、やっぱり可愛いじゃねぇか……」
「うぉぉおお！！！！！」
「っ──────！！！！ みっっ……見るなぁぁぁぁぁあああ！！！」


　シンシアは一気に恥ずかしくなり顔を隠してその場に伏せた。
　折角カッコイイ所を見せて尊敬されるかと思ったのにっ！ 結局また可愛いって……！ 可愛いって！！


　それからシンシアは顔を必死に隠しながら、奥の部屋にある金塊や宝石。綺麗な武器や鎧なんかをハンター達と一緒にギルドへ持って帰った。