幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

67話 可愛いを隠す



「シンシアちゃん昨日家庭教師したの?」
「ああ。大人に変身しながらだから長時間は無理だったけどな」


 学園では、シンシアとアイリが家庭教師について話していた。


「もしもそれで色んな所に噂が広まってお仕事の依頼とか沢山きたら忙しくなっちゃうね」
「だな〜……でもまぁ、有名になるのは良い事だ」
「でも大人の姿で、でしょ?」


 子供の姿で有名になりたいのだが、どうしても大人じゃないと有名になれない。このままだと可愛いを卒業できないのではないだろうか。


「最近イヴ様も可愛くなってきたよな〜」
「そ、そう? 僕可愛い?」


 イヴに可愛いと言うと、嬉しそうに頬を染めて顔を手で隠した。


「女の子みたい」
「えへへ……嬉しいな」


 イヴは本格的に女にしか見えなくなってきた。
 始めて見た時は魔王としての雰囲気、見た目がかなり恐ろしく感じたけれど、今じゃ仲の良い友達だ。


「俺はどうしたら可愛いを卒業できるんだ……」
「でも一般クラスとかの人達からは最初怖がられてたよね」
「……それだっ……って思ったけど、今じゃ結局学園のマスコットだよ」


 やはりこんな見た目じゃ可愛いと思われてしまうんだろうな。


 シンシアはガッカリしながら窓の外をぼんやりと見つめ始めた。


「シンシアちゃん、逆の発想だよ」
「逆?」
「皆から可愛いって言われて、尚且つ強い大魔道士を目指せば大人気! 魔女っ子ファッションで転生者の心を鷲掴み!」
「俺の趣味じゃない」


 確かにそれも有効な手だ。しかし、シンシアは可愛いと思われること自体が嫌な訳で、そこを割り切って夢を目指すのは何かが違うと思っている。


「一層の事、ミステリアスな格好して可愛さを隠すとかどうかな〜?」
「……イヴその手だ」


 イヴがなんとなく呟いた言葉が答えである。
 そう。無表情の仮面やら黒いローブを着た人は見た目から怪しくて怖いはずだ。可愛いとは無縁のそういうミステリアスな大魔道士を目指せば、きっと夢は叶う。


「くっくっくっ……ついに……俺は可愛いを卒業する……」
「シンシアちゃんが悪者みたいに笑ってる〜可愛い〜」
「2度とそんな事言えなくしてやるっ!!」


 シンシアは勢いよく教室から飛び出ていった。


「何するつもりなんだろうね」
「きっとお面でも買いに行ったんだよ」


◆◇◆◇◆


「クラリスさん! 手伝ってほしい!!」
「良いわよ。何をしたらいいの?」


 シンシアからの突然のお願いに、内容を聞く前に了承するクラリスはシンシアを信用しているのだろう。流石である。


「可愛いを隠す。だから今から、専用の仮面とローブを作ろうと思う」
「ローブは私がいくつか持っているから良いとして、仮面は土魔法で一から作った方が良いわね。ローブと仮面に特別な魔法を付与もするから、その二つの魔法陣を教えるわ」


 そうしてシンシアとクラリスは魔法陣を作り、仮面の見た目、サイズを詳しく設計して作成に取り掛かった。


──────
────
──


「あれ〜? シンシアちゃんは?」
「またクラリスさんと引きこもってるわ」
「でもすぐ帰ってくると思うよ」
「じゃあシンシアの椅子に座らせて貰おうかな〜♪」


 サラ達は、シンシアちゃんが今度は何をするのか、とウキウキしながら教室で待機していた。


「ん〜……シンシアちゃんのお尻の匂いっ!」
「椅子の匂い嗅ぐ女神がこんなところに……」
「アイリちゃんも嗅ぐ?」
「う……嗅ぎたいっ!」


──
────
──────


「よし、仮面の設計図は完成した。後はイメージを込めながら精密に魔法陣に魔力を注がないとな」
「これは白魔術ではできない精密な魔術だから頑張ってね」


 設計図を見て脳内にイメージをしっかり持ちながら土魔法の魔法陣に魔力を注いでいくと、魔法陣の真ん中に土が形成されはじめた。


「……形悪くないか」
「いきなりイメージが崩れ始めたわね。集中した方が良いわ」
「ク、クラリスさんやってくれ」
「出来るか分からないけれど……」


 シンシアが早速失敗した為、クラリスに交代して作ってもらう事にした。


「…………難しいわね」
「良い感じじゃないか?」
「これだとサイズがダメなのよ。シンシアの顔のサイズに合わせないと」


 形は完璧だったがサイズがダメだったようだ。簡単そうに見えてかなり難しい仮面制作、何度か繰り返してサイズを調整するしかない。


「何個かサイズを変えて作ってみるから、シンシアちゃんはその中でサイズピッタリなのがあったら教えて」
「分かった」


◆◇◆◇◆


「おっ! これフィットする!」
「ふぅ〜……」


 やっとシンシアのサイズにあった仮面が完成し、クラリスは疲れたように息を吐く。


「次はローブと仮面に魔法を付与。エンチャント作業をするわ」
「エンチャント……カッコイイな」
「ローブ持ってくるわね」


 クラリスが部屋から出ていくと、シンシアは仮面を装着して鏡を見ながら満足そうに微笑んでいた。
 その仮面はまだ茶色だが、後々に色を変える予定だ。


 無表情のこのマスクは、顔全体を隠すように作られてある。ゴムか何かを横に着けて顔に装着できるようにすれば顔は完全に隠すことができる。
 そしてローブで顔の周りを隠せば、可愛いとは程遠いミステリアスな人物の完成である。


「シンシアちゃん、これを着てみて。サイズを合わせるわ」


 クラリスがローブを持ってきて帰ってきた。


「結構大きいな」
「足元は地面に付くギリギリで切りましょう。後はエンチャント、ゴムの取り付けをしたら完璧よ」
「ワクワクしてきた!」


 2人は部屋で残った作業を終わらせた。
 仮面とローブには、クラリスがエンチャントをしたお陰で魔力を隠したり、気配を薄くしたり、他にも魔法を発動しやすいようにローブには魔力を通しやすくする魔法を掛けた。原理は不明。
 最後に仮面が壊れないように頑丈にする魔法をかけて、ゴムを装着して完成である。


 全て装備したシンシアは、鏡の前に立って嬉しそうに笑うが表情が周りに見えることはない。


「どうかしら」
「凄く良い! これなら可愛いって思われないぞ!」
「声が可愛いわよ。喋り方とか変えた方が良いかもしれないわ」
「がっ、頑張る」


 もし今後、声だけで可愛いと言われ続ける人生になったら自殺する覚悟だ。いや自殺はしないが引きこもるだろう。


 しかし、ついにシンシアは自分の可愛い部分を隠す事に成功した。今後この装備は重宝するだろう。

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