幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
52話 ついに完成、魔法陣
シンシアが目を覚ますとクラリスの膝枕で眠っていた。クラリスは壁に背を向けてしっかり眠っているようだ。
「1人でやってくか……」
熟睡できたシンシアは、早速魔法陣制作の続きに取り掛かる。寝る前にクラリスが描いていた魔法陣を取り、魔力を込めて成功すればテーブルの上へ。失敗すればテーブルの下へ。
似たような作業の繰り返しである。
◆◇◆◇◆
「結構成功したな」
「んっ……あ、シンシアちゃんおはようございます」
新しい魔法陣を全て試し終わった頃にクラリスが目を覚ました。
「おはよう」
「私もすぐ再開するわ」
「いや、まだ寝てていいよ。俺も少し魔法陣を描いてみようと思う」
クラリスは自分が描いた魔法陣がテーブルの上に移動しているのを見て、少し安心して再び身体を楽な体勢にした。
「じゃあ少しここで見ていようかしら」
「いつもありがとうな。俺なんかの為に何日も部屋に篭って」
「そういうのは魔法陣が完成した時に言うものよ。それに私はシンシアちゃんの為なら何日だってこの部屋に居られるわ」
その言葉にシンシアは驚いて、クラリスの方を向いた。
「それって……どういう事です?」
「魔王様の初めての親友ですもの」
「あぁ……そ、そういう事ね」
シンシアは少しガッカリしながら、再び羽ペンを手に取って魔法陣を描きはじめた。
紙は余るほどある。1度に30枚程描いてから試していこう。
◆◇◆◇◆
「勝ったぞ!」
「ふんっ、我輩が入れば負ける事はない」
イヴと人間に変身したウルド、そして悔しそうな顔のアデルが教室に帰ってきた。
「皆おかえり……」
サラは暇そうに項垂れていて、シンシアがいない時のサラはこんなものなのかと殆どの生徒が感じていた。
「魔法陣の制作にどれくらい時間を掛けてるんだアイツは……イヴが暇してるだろう」
ウルドも周りの人達の元気がないことに不満を感じ始めたのか、愚痴を吐き始めた。
「でも何か噂によると凄い魔法を作ろうとしてるらしいよ」
「イヴちゃん詳しく教えて」
「黒魔術でしか可能じゃなかった魔法を、白魔術でも可能にする為に魔法陣を1から作ってるって」
するとサラが勢いよく起き上がった。
「私ちょっと見せてもらった! 何か文字沢山書いてたよ!」
「その噂は本当見たいね。でも新しい魔法って……何日かかるのか分からないし、もしかしたら今頃上で餓死してる可能性も……」
皆が上の方を目を向けた時だった。
「やったぁぁぁああああああ!!!!」
シンシアの物と思われる大きな声が聞こえてきた。
「いっ、今のシンシアちゃんの声? だよね?」
「多分……何があったのか見てこようよ!」
「僕も行こう!」
◆◇◆◇◆
「やったぁぁぁああああああ!!!!」
「う……美しい……やっと成功したのね……」
「か、鏡鏡!!」
「はいっ!」
「おぉっっ!!」
鏡を見ると、そこには銀色の長い髪をした高身長の美しい女性が立っていた。凛とした顔立ち、大きな胸、細長い脚、スタイルまで抜群。
ついに大人の身体になる魔法陣が完成したのだ。
「あっ……でも……魔力消費量がっ……やばいっ……」
その瞬間、シンシアは子供の姿に戻ってばたりと倒れてしまった。
「シ、シンシアちゃん! どうしたらっ……ま、魔力を分けないと!!」
──ガララッ
「シンシアちゃん達大丈夫!?」
そこに丁度サラ達がやってきて、魔力切れを起こした事を伝えた。
◆◇◆◇◆
医務室に運ばれたシンシアは、ベッドの上で眠っている。
「良かった。シンシアちゃんもクラリスさんも元気そうで」
「ただまた部屋に篭らないといけないみたいですけどね……」
魔力消費量を抑える為に魔法陣の形状を変えなければならない。その事をクラリスは常に考えながらも、シンシアを心配していた。
「部屋で何をしていたんですか?」
「シンシアちゃんを大人にする魔法陣を作ろうとしていたの」
「「おぉ〜」」
アイリ達はシンシアが大人になった姿に興味があるようだ。
「あ、シンシアちゃんが起きたよ」
「んん〜……あれ……さっきのは夢?」
「夢じゃないわよ。シンシアちゃんは一時的に大人になれたけど魔力切れでここに運ばれてきた」
するとシンシアはニヤッと笑った。
「じゃあ沢山食べて再開しないとな」
「そうね」
笑い合う二人を見たアイリとサラは、少し引いていた。
「こういう人がマッドサイエンティストになるのかしら……」
「魔力切れを起こしてもまだ頑張るんですね」
それからシンシアは運ばれてきた大量のお菓子や飲み物を食べて魔力を回復させて、再び2階の空き部屋へと帰っていった。
「凄い食べたわね」
「シンシアちゃんは大食いだね〜。それもまた可愛い!」
「可愛かったですよね! ハムスターみたいに頬膨らませてモグモグって!」
サラとアイリは、久しぶりにシンシアの姿を見て興奮が抑えられないようだ。しばらくシンシアについて語り続けていた。
◆◇◆◇◆
「よし、再開させるとして……どうしたらいいんだ」
「魔力消費量を抑えるのは簡単よ。魔力の通り道を単純化して、少ない魔力でも効率的に全ての文字に行き渡ればいいの」
「じゃあこの線をこうして──」
2人はあっという間に集中モードになり、魔力切れを起こしたことなど覚えていないかのように何度も魔法陣を作っては発動させていた。
「本当……私でも惚れてしまう程美しいわね」
「嬉しいな」
シンシアは、こちらの世界に来る時に5枚のカードを引いていた。幼女化、不老。そして美少女化というのも豪運というカードの影響で引いてしまったのだが、その美少女化のお陰でこれ程まで美しい姿になれているのだろう。
「鏡で自分と目が合うだけで俺も照れるな……ははっ……」
少しずつ魔力消費量を抑えてきているようで、今は30秒程の持続が可能になっていた。それ以降は魔力切れで倒れてしまいそうなのですぐに辞める。
「ん〜……ちょっと考えたんだけど、そもそもの配置を並べ替えれば更に効率的に魔力が通るんじゃないか?」
「試してみるしかないわね」
◆◇◆◇◆
そしてついに、ほぼ魔力消費を感じない程にまで抑えることに成功した。
「でもこの魔法陣だと持って2時間ね。それに妖精からも魔力を吸われているから……1時間前には食事を取らないと魔力切れを起こすわ。その間に他の魔法を使わなかったら、の話だけどね」
「やっぱり永久的に大人になるのは難しいか〜」
大人になったシンシアの喉から美しい声が部屋に響く。手を動かしただけでクラリスが見惚れる程の美しさで、シンシアは髪を手でボサボサにした。
「厳しいなぁ……1度に大量に食べれば栄養も含めて時間くらい……2時間あれば十分か……でも白魔術だしこれが限界なのか……」
「シンシアちゃん……」
「んっ? どうした?」
「本当に綺麗ね……本当に……」
クラリスがそこまで言うものだから、改めて自分の姿を鏡で見ると笑いが込み上げてきた。
「ははっ、なんで俺こんな美少女なんだよ」
「もうこの魔法は完成で良いんじゃないかしら」
テーブルの上にある最終的に完成した魔法陣を見て、シンシアは考える。
1〜2時間毎に体力食事を取り続けないと子供に戻る。普段の生活を子供で過ごすとして、大人になりたい時にはこれで十分。
「そうだな。後は変身対象を俺限定に絞って終わらせるか」
「その姿を皆に見せに行きましょう。それと、完成した魔法陣の紙を貸してくれるかしら」
「ちょっと待ってくれ」
シンシアが文字を修正して対象を自分限定に絞った後、クラリスに渡した。
「これをシンシアちゃんの身体に記憶させることで、この紙がなくても魔法が発動可能になるわ」
魔法陣の描かれた紙を背中に押し当てられ、何か魔法を使用したようだ。体内に力が流れ込んでくる感じがする。
「1度子供に戻って魔法を使ってみてくれる?」
「分かった」
子供に戻ると視界が一気に低くなった。やはり身長は高い方が良いな。
「よし」
大人になるイメージをして魔力を手の平に集中させると、2人で作った魔法陣が手の平に現れて光り始めた。
「おぉっ! なんか嬉しいな!」
その魔法陣から放たれた光が全身を包み、あっという間に大人の姿に変身した。
「おぉ完璧!!」
「この魔法陣の紙はいる?」
「それはクラリスさんにやるよ。感謝の気持ちとして」
「ありがとう。では皆に見せに行きましょう」
教室に戻って大人になった姿を皆に見せると、サラとアイリは発狂に近いくらいのテンションで甘えてきた。男達は全員顔を赤くし、イヴと使い魔のウルドもビックリしている。
そして俺の使い魔のベネディも、シンシアが綺麗な姿になって嬉しそうに尻尾を振っていた。
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