幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

45話 使い魔召喚の儀



「うぅ〜……っく……あれ……誰もいない……」


 クラリスが酔っ払ったまま家に帰ってきたが、シンシア達は別の場所で訓練している為誰もいない。


「家間違えたぁ〜……? 魔王様ぁ〜……」


 リビングのソファに倒れ込むと、ふむふむと笑いながら眠りについた。


◆◇◆◇◆


「シンシアちゃん強くなったね!」
「イヴ様に鍛えてもらったからかなり成長したよ」
「もう少しで僕と同じくらい強くなれるんじゃない?」


 イヴの本気の攻撃でも怯まなくなってきたシンシアはなんとか防御からの反撃をしようと頑張っているのだが、なかなか隙が見つからない為防御に徹するしかないのだった。


「反撃するタイミングがなぁ〜……」
「ねぇシンシアちゃん。見てて思ったんだけど、防御するだけじゃなくて避ける事も大事なんじゃない?」
「あっそっか」


 避ける、という事を考えてすらいなかった。
 イヴの攻撃を防ぐだけで満足していたシンシアは、避ける事を頭に入れた瞬間に何故かイヴに勝てる気がしてきた。


「よし……やってみるか」
「おっ! 今度は反撃できるかな〜?」


 お互いに剣を構えて、シンシアは防御の構えを取る。イヴは何の警戒もせずにシンシアに突っ込み、全力の一撃を上から叩き込む。
 シンシアは1歩後ろに飛んでその攻撃を避けて、イヴの剣がそのまま地面に突き刺さる。


「今だっ!」
「おっとっ」


 しかし、イヴはすぐさま体勢を立て直しシンシアの剣を足で蹴って攻撃をそらす。そのせいでシンシアに大きな隙が出来てしまい、イヴの剣がシンシアの首元に当てられた。


「はぁ〜……惜しかった」
「普通に避けるだけじゃ簡単に対処できるよ。でも避け方を練習すれば反撃できるんじゃないかな〜」


 確かに今まではイヴに攻撃する隙を作ることができなかった。しかし避けるだけでほんの一瞬ではあるが隙を作れたのは大きい。


「よし、もっかい!」
「私ちょっと飲み物持ってくるね〜! 頑張って!」


 サラは2人のために飲み物を取りに行った。


◆◇◆◇◆


「シンシアちゃん凄いなぁ〜……うん?」
「ふへへぇ……魔王しゃまぁ……」


 クラリスが酔っ払ってあられもない姿で眠ってるのを見たサラは、ニマニマしながらクラリスの寝顔を堪能した。


「クラリスさんは綺麗ですね〜」
「んっ……」
「あ、起きちゃった」


 クラリスの目が開いて、サラはすぐに謝ろうとしたのだが。


「んん〜……魔王様ぁ〜……たまには一緒に寝ましょ〜よぉ……」
「ふえぇっ!?」


 クラリスの手がサラを抱きしめて、再び深い眠りに入ってしまった。


「こ、困りました……」


 寝ているクラリスに拘束されたサラは、どうやって切り抜けようか考えたがなかなか難しい。
 転移だと触れているクラリスも転移してしまう。腕を引き剥がしたら起きてしまいそうだ。


 しかし、起きてしまったらそれはそれで仕方ない。
 そっと腕を引き剥がし、なんとか起こさずに離れることが出来た。


「魔王様ぁ〜……行かないでぇ……」
「……」


 クラリスの腕に巻いた布団を当てると、すぐにそれを抱きしめてふむふむと笑い始めた。


「さて、飲み物をっと」


◆◇◆◇◆


「ただいま〜!」
「あっ、遅かったな〜」


 シンシアとイヴの元に飲み物を持ってくると、2人はすぐにやってきて一気に飲み始めた。


「ゆっくり飲まないと肺に入っちゃいますよ」
「そういえば、今って何時くらいだった?」


 さっき外を見たのを思い出し、大体の時間を予想するなら2時。


「2時だね」
「やばっ!? 寝ないと明日の授業参加できないぞっ!?」
「僕先に寝るね〜!」
「あっ!」


 イヴはここの世界の出入り口、サラが作り出した扉に駆け込んでいってしまった。


「サラも早く寝ないと、明日クラリスさんと一緒に授業するんでしょ?」
「じゃあ抱きしめながら寝てもいい?」
「なんで……まあいいよ」


 シンシアは呆れながら家に帰って眠りについた。


◆◇◆◇◆


「それでは、今日は使い魔召喚をしてみましょう」
「「は〜い」」


 確実に寝不足である。
 今日の授業が楽しみで、ただでさえ2時に眠ったのに早起きしてしまった。


「シンシアちゃん元気無いけど、大丈夫なの?」
「大丈夫……途中で寝てたら起こして」
「僕に任せて!」


 後ろの席のイヴに任せるのは怖いが、まあ大丈夫だろう。


「では、使い魔召喚の為の道具を用意してきたので皆さんに配ります」


 昨日リビングで布団抱きしめながら寝てて酒の匂いもしてたのに、いつの間に用意したのだろうか。流石魔女だ。


「私も配りま〜す!」


 サラの仕事は道具を配る。それだけである。


 全員の手元には、魔法陣が描かれた正方形の紙1枚。そして綺麗な青い色をした丸い石。


「道具の説明をします。この石は普通の宝石店に売ってあるサファイアです。使い魔を呼び出す為の等価交換のような物ですね」


 サファイアと使い魔が同等の価値、という訳ではないのだろうけども、これだけの数のサファイアを新しく入ってきたイヴ含め8人分用意するとは凄いな。


「この石を紙の上に置いて、どんな使い魔が良いかイメージしながら魔力を注げば召喚されます。しかし望んだとおりの使い魔が召喚される保証はありません。運次第ですね。
 召喚した使い魔は、召喚主が自分の主になる素質があるか確かめる為に質問をしてきます。合格したらつその子が使い魔になり、失敗したら石を失うのみです」


 なんとなく前世のソシャゲを思い出した。しかしこっちは1回のガチャに数万も金が必要。使い魔にならない可能性もある、というハイリスクなガチャだ。


「この石で出せる生き物はキリン位の大きさまで可能ですから、グラウンドで行いますので皆さん外に出てください」


 キリンくらい、か。


◆◇◆◇◆


 外に集まると、何故か一般クラスの生徒や教師達も見学にやってきた。
 特別クラス全員が一箇所に集まるのを見るのは珍しく、更には使い魔召喚と聞いて皆気になってやってきたのだろう。


「シンシアちゃん、どんな使い魔にするか決めた?」
「ん〜……決めてない。アイリは?」
「私は猫かな。ジ〇リの猫の〇返しとか、魔女の〇急便とか好きだから」


 確かに魔法使いと言ったらネコってイメージが強いよな。


「でもそれだと同じネコが使い魔の人多いんじゃないか?」
「こっちの世界には魔法使い=ネコっていうイメージが無いのよ」
「あぁ〜なるほど」


 前世だとアニメとかそっち系のイメージから来てるもんな。こっちだとやっぱり強そうな使い魔を選ぶのだろう。


「こっちで多いのはフクロウね。知能が高くて使い魔には丁度良いの」
「いや、俺はちょっと他とは違うのを選びたいな」


 皆と同じってなんとなく個性が薄くて面白くないよな。どんな使い魔にしようかな……。


「それでは出席番号1番から、ウルさん」
「はい」


 アイリが6番、俺が7番でイヴが8番。アデルは4番だけど、注目してる人は最後に集中してるから楽しみだな。


 1番の人が呼んだのはカラスだった。こっちの世界にいない生物でも可能のようだ。一般クラスは見たことのない鳥に驚きを隠せていない。
 カラスの質問にも合格し、1番は使い魔を獲得することができた。


 そうして2番、3番と進み次は4番のアデルだ。


「次、アデルさん」
「よっしゃぁっ!!」


 皆の前に出て、紙とサファイアを地面に置いて両手をかざす。


「アデル君は何を呼ぶんだろうね」
「予想できないな」
「どうせアイツの事だし、失敗してネズミでも呼ぶんじゃない?」
「イヴ様それは失礼ですよ」


 ついに紙が光って何かが現れた。
 結構大きいサイズだ。


「よっしゃ!! ユニコーン!!」
「「おぉっ!」」


 ユニコーンといえば架空の生物。しかし、アデルが呼び出したのは白い毛並みに1本の鋭い角。背中には白い翼があるユニコーンで間違いない。
 ユニコーンは周りをキョロキョロと見渡した。


「なんだ! ……? ああそうだけど」


 召喚した使い魔の言葉は召喚主にしか分からない。何やらアデルとユニコーンは俺やアイリ、イヴの方を見て話している。


「ああ、俺の友達だ。ああ。えっ? マジ? よっしゃあっ!!」
「では使い魔に名前を付けてください」
「ユニコーン……勝ち確……カク! 今日からお前はカクだ!」


 どういう理屈でその名前を付けたのかは分からないが、きっとどうでもいい理由なんだろうな。


◆◇◆◇◆


 次の人も終わって、いよいよアイリの番だ。


「行ってくる」
「頑張れよ!」


 集中して応援したいのだが、アデルの使い魔が俺の真横に立ってこちらを見ていて集中できないのだが……。


「アデル、どうにかできないのか?」
「こらカク、どうしたんだ。……そうか」
「なんて言ってるんだ?」
「俺の友達と仲良くしようとするのは当然だ。だってさ」


 ん〜……まあ友達になろうとするのは良いことだけど、なんとなく薄気味悪いな。


 っと、アイリの方を見ると可愛い黒猫を召喚できたみたいだ。


「うん……やった! じゃあ今日から君はルナ。ルナちゃんね!」


 どうやら成功したようで、黒猫を抱き抱えてこちらへ戻ってきた。
 他の使い魔が出てきた時よりは周りのリアクションが薄かったが、ネコだから仕方ないだろう。


「うんっ! 私ネコ好きなの! うんうん! こちらこそ!」


 嬉しそうに話してるな。


「次、7番シンシアさん」
「あっ、はい」


 クラリスに名前を呼ばれて、シンシアはすぐに前に出て道具を置く。


「何を呼ぶか決めましたか?」
「ま、まだ……ちょっと待って」


 1度深呼吸をして、どういう使い魔にするか決める。
 なんかゾーンに入っちゃったけどこのままで良いだろう。


「ネコ……フクロウ……ユニコーン……カラス……んん〜……」
「まだ決まらないのでしたらまおっ……イヴさんを先に進めますが」
「あぁ待って。すぐ……すぐに……」


 別に周りと一緒でも問題ない。しかし……どうしたものか。架空の生物でも良いし……仕方ない。鷹にするか。


 鷹をイメージしながら、置いた紙と石に魔力を注ぐ。


 おっ、結構沢山入るな。


「……来たっ」


 紙が光って、ついに俺の使い魔の鷹が……。


「狼……? それもでっけぇ……」


 何故か鷹ではなく白色の毛並みをした狼が現れた。それもただでさえ身長の高いクラリスさんよりも大きい。


「我を呼び出したのはお前か」
「た、多分そうだと……思いますけど……狼じゃなくて鷹を……」
「何? しかし……小さいのによく我を召喚できたな」
「え、えぇ……自分でもビックリです」


 やけに魔力沢山入るなぁと思ったら、こんなでっかい狼が出てくるとは思わなかった。
 周りの人達もビックリしている。


「我は白狼、数千単位の狼達の群れ長をしておる。鷹などよりも強い。我を呼び出したということはお主は相当な腕だ。こちらから頼もう。使い魔にしてくれ」
「ぜ、是非! よろしくお願いします!」


 まさか召喚した使い魔の方から頼まれるとは思わなかったが、狼の群れ長でこんなに大きかったら使い魔にしない選択はないだろう。


「よし、じゃあ名前は〜……」
「ベネディクトだ」
「ベ……ベネディクト」


 俺に名前を付けさせてくれるんじゃないのか……。


「では次、8番イヴさん」
「よ〜し」


 ま、まあいいか。
 俺はベネディクトを連れてアイリの元に戻る。
 かなり大きい為、歩く度にグラウンドに足跡ができて、他の使い魔達がビックリしている。


「す、凄いわね……その狼」
「群れ長なんだって。ベネディクトって呼びにくいからベネディでいい?」
「変な名前だな……まあいい」


 ベネディは俺の横に座ると、落ち着いてイヴの方を眺めはじめた。


 次はいよいよイヴの番か。


「っ!」


 突然イヴの方から物凄く強い光が現れて、ベネディが自らの顔で覆って守ってくれた。
 一体イヴは何を召喚したんだ……?

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