幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
41話 女神-悪魔=
「サラはこんな事しないっ!!」
倒れたイヴを抱き寄せるが、かなり身体が冷たくなっている。
「イヴ様っ! 死なないでくださいっ!!」
しかし、イヴは必死に呼吸を繰り返すだけで反応がない。どこを見ているのかも分からない状態で、このままだと死んでしまう。
「死なないでっ……!!」
腹部に手を当てて、今まで試した事のない治癒魔法を使う。
傷付いた内蔵、血管を修復して傷口を防ぐ。少しずつ皮膚が再生していっているものの、これじゃ時間がかかってしまう。
「サラッ! なんでこんな事をっ!」
「っ……ち、違う……私……シンシアちゃんの為に…………私は何をしてっ……」
サラを見ると、イヴの腹を貫いて血まみれになった手を見て動揺しているようだ。しかし、急に黙ると再び目付きが変わった。
「凄い! 魔法が使えるようになったんだね!」
「っ……」
今のサラは、きっとサラではない何かだ。そう感じ取ったシンシアはイヴを止血だけしてサラの向かい合った。
「サラ、急に遠くに行ってごめん」
「一緒に帰ろっ? アイリちゃん達待ってるよ」
「でも……ごめん。俺、ここで戦いについて学びたいんだ。魔王軍って悪い組織じゃないし、それに仲の良い友達だって出来た。強くなりたいんだ」
すると、今まで無感情のサラの笑顔が真顔になり、シンシアをじっと見つめてきた。
「どうして……私と一緒にいたくないの!? 私が嫌い!? なら嫌いって言ってよ!! 私はシンシアちゃんが大好きだよ!! 一緒に居たい! どうして……こんなにシンシアちゃんが好きなのに……シンシアちゃんは答えてくれないの……」
「そ、そういう訳じゃ──」
「あははははっっ♪」
「っ!?」
苦しくなって目を逸らした瞬間だった。泣き叫んでいたサラは急に笑い声を上げて、シンシアの身体に強烈な蹴りを入れた。
「ぐっっ……」
なんとか蹴りを防いで、体制を立て直す。
やはり今のサラはサラではない。サラの言葉に耳を傾けていたら殺される。今の一撃で理解した。
「あっ……ごめん。痛かった? すぐに治してあげる」
なんの殺意も見せず近づいてくるサラについ警戒を解きそうになったが、すぐに後ろへと避ける。
「やっぱり嫌いなの……? ねぇ、嫌いなら嫌いって言ってよ。シンシアちゃんの気持ちが知りたいよ」
「…………本物のサラなら理解してくれるはずだよ」
「あっ、そう。じゃあいいや」
その瞬間、サラから殺意を感じた。攻撃が来る。
サラが動く前に地面を蹴って後ろに飛び、距離を離す。
「クラリスさん達は何をしてるんだ……」
「あぁあの魔女達? 今頃外で虫の息だよ」
「っ!」
クラリスだけではなく魔女達と口にした。それはつまり、今この城で無事なのは俺とその他のメイドや執事だけという事だろうか。
その中で戦力になるのは……ダメだ。イヴ様が一撃で瀕死になる程の強さに勝てる人なんていない。
「死んでよ。俺の計画には邪魔なんだよ」
「っ……何なんだよお前はっ……」
「あ?」
サラの身体で、サラの声でそんな事を言われるのは初めてだ。
「元の優しいサラに戻ってくれよ!!」
「あっははは……サラを見放したのはお前だろ」
「……見放してなんかいない……」
俺がこっちに来たのは……サラに甘え続けるのが子供らしくて……もっと成長したかったからこっちに来たんだ。
サラは俺を甘やかしてきた。だから、サラと一緒にいるのは俺が楽する言い訳になってしまうから、クラリスさんに付いていった。
「俺はここにきて……色んな事を学んだし成長だってした。不安だった事にも慣れてきて、嫌な事にも慣れてきて、強くなれた。
サラが嫌いな訳じゃない。ただ……」
「"俺に対する態度が気に食わない"。 だろ?」
「違うっ!!」
ダメだ。こいつと話していてもキリがない。
どうしたらいい。今の俺が何をすればこの状況から切り抜けられる。
「まあいい。この身体を手に入れた今なら、簡単に世界を支配できる。手始めに魔王の死体を吊るして全世界に見せてやろう」
サラは倒れたイヴの元と歩き始めた。
「ち、近づくなっ!!」
シンシアはすぐにイヴの前に立ち塞がる。
イヴの同年代の友達は俺だ。俺が守ってやらないと、今度こそイヴは孤独になってしまう。
「邪魔するなっ!!」
「がふっ……!」
腹に膝蹴りをくらい、息が止まる。
「ふんっ、今の攻撃も見えない雑魚が強くなれたなんてほざいてるんじゃねぇ」
「あっ……ふ…………っ……」
痛みに耐えながら、イヴを守る為に立ち上がる。
「サラを……返せ……」
「サラは1番返してほしかっただろうな。お前を」
「っ……お゛っ……!」
再び腹部、溝落ちに拳が飛んできた。
痛い。死ぬほど痛くて苦しいけど、きっとサラはあの時もっと苦しかったんだろう。
「まだ立つか」
「絶対にイ──」
その時、シンシアの視界がグルリと回った。
ゴリッと鈍い音と同時に、シンシアの頭は180度後ろに回転し、白目を向いて倒れた。
「あっ……シンシア……ちゃん……? 私何をしてっ……ぁ……ぁぁ……」
「こらこら。女神が何やってんだ」
全てが終わったかと思われた。しかし、そこに1人の女性が現れた。
「ゼウス様…………助けてくださいっ! 私っ……身体が勝手にっ……意識が勝手にっ……シンシアちゃんがっ!!」
「ずっと様子見てたけど、酷いことするよな」
「ま、待ってゼウス様……何をっ……今の私はサラです!! や、やめっ──」
ゼウスはサラの首を掴み、魂を吸い取るような魔法を使った。
「悪魔の分際で俺を騙そうなんざ100年……いや、70年早いわ。サラは俺をゼウスなんて呼ばねぇ」
「このっ……ゼウスは世界に干渉してはいけないのではなかったのかっ!! 離せっ!! 俺の計画はまだっ!!」
「バレなきゃ問題ないんだよ。目撃者は消せば良いだけだ」
ゼウスはサラの中の悪魔を吸い取ると、辺りを見渡してため息を吐いた。
「はぁ……どこの世界でも悪魔はクソだな」
木影に隠れていた裸の女性と目があって、ゼウスは魔眼でその人の記憶を消すことにした。
◆◇◆◇◆
「はっ……イヴ様! サラッ!!」
「おう、おはよう」
「ここは……俺の部屋?」
意識を取り戻したシンシアは、すぐに身体を起こして周りを見渡した。
そこにはゼウスとサラが椅子に座っていた。
「シンシアちゃん……無事でよかった……ごめんなさい」
「サラ……謝るのは俺の方だ。自分勝手な理由で……」
「反抗期の子供ならそれくらいあるだろ」
「もう……クロア様っ! シンシアちゃんを子供扱いするからダメなんです。シンシアちゃん、私これからシンシアちゃんの事子供扱いしないよ」
どうやら俺が抱いていた不満をサラは分かっていたようだ。
「それが続いてくれるなら嬉しいけどね……ありがとうサラ。ゼウス様」
「気にするな。何度も立ち上がるシンシアちゃんはカッコよかったぞ」
カッコよかった。それは俺が一番言われたかった言葉である。
「そ、そうだ。イヴ様は?」
「シンシアちゃんの横で寝てますよ」
そう言われて横を見ると、気持ちよさそうに眠っているイヴの姿があった。
「ほっ……良かった」
シンシアは全て終わったという安心感で、再び眠りについた。
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